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第八章・水の神器アゾット
三人の兵士たち
しおりを挟む謁見の間を後にしたジュードたちは、その外で待っていたイスキアとシヴァと合流し事の経緯を簡単に説明した。国王が城の訓練場を使っていいと言ってくれたことに素直に甘え、そこに例の精神空間を作ることにして、全員でその訓練場へと足を向ける。当然、偽物じゃないと証明しろと言い出した兵士たちも一緒に。
伝説の勇者様が手合わせをしてくれるという噂は瞬く間に城全体に広がり、訓練場にはすぐに見事なまでの人の輪――ギャラリーが出来上がった。その中には国王リーブルや王女オリヴィアの姿も見える。
シヴァとイスキアの二人が訓練場中央で静かに目を伏せて数秒後、かまくらのような白いドーム状の結界らしきものが展開した。それは訓練場全体を覆い尽くし、その場にいたギャラリーも巻き込んで広がりを見せたが、誰もが疑問符を浮かべるばかり。それもそのはず、身体には何ひとつ変化のようなものは見られなかった。
「えっと、これで……ナントカ体になったんですか?」
「精神体だに、マスターは本当に物覚えが悪いにね……」
「い、一度に色々なことがあったから覚えきれないんだよ」
「そうよねぇ、色々あったもの、仕方ないわ。このドームの中にいる間はどんな攻撃を受けても肉体には一切問題も負担もないの、だから怪我も死ぬことも気にせず戦えるから思いきりやっちゃって大丈夫よ。……けど、みんなの前にお客さんがいるんだっけ?」
イスキアは一度展開した結界をぐるりと見渡してからジュードたちに向き直ったものの、先ほどの話から察するに彼らが使うよりも先に前哨戦があると見ていいだろう。すると、さっきの三人の兵士が意気揚々と歩み寄ってきた。カミラとマナはその姿を見遣るなり、嫌そうに表情を歪めてエイルの脇を軽く小突く。
「ねえ、あいつら何なの?」
「あ、あれでも一応は実力者なんだよ。あのデカいのがドゥラークっていうリーダー格の男で、ちっこいのがイディオ、ヒョロッとしてるのがナール。三人とも武術に長けてて、ナールは魔法も得意なんだ」
「私には……見覚えがありませんが」
「リンファがジュードたちと一緒に行ってからデカい顔をし始めたんだよ、実力はあるから誰も何も言えなくてさ」
彼らの顔を眺めていたリンファは不思議そうに小首を捻る。その言葉通り、彼女にはまったく見覚えがないようだった。見覚えがないのか、果たして眼中になかったのかは不明だが。続くエイルの言葉を聞いて、カミラは心配そうに表情を曇らせた。
「どうもどうも、勇者サマ。わざわざお時間を割いて頂きまして。……それにしても、勇者サマがこんなにどえらい別嬪さんだとは思っておりませんでしたよ。これほどの美貌をお持ちなら戦闘よりは――」
大柄な男、ドゥラークは自信に満ちた顔にニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら仰々しく一礼してみせた後、無遠慮にジェントの片腕を取ると――あろうことか己の股座に触れさせた。
「コッチの方が向いていそうじゃありませんかぁ?」
「んな……ッ!? さ、最っ低……!」
その行動に思わず声を上げたのはマナとルルーナだった。カミラやエイル、リンファは文字通り言葉を失い、絶句している。ウィルにシルヴァも口を挟むことこそしなくとも、あからさまに嫌悪をその顔に乗せていた。
ジュードは腰に提げる聖剣に静かに手をかける。国王から距離があり、更に王の視界に映らないことを計算した上でこのような行為に出ているのだ。ドゥラークはもちろんのこと、その後ろでニヤニヤと厭らしく笑うイディオとナールも許せなかった。
しかし、ジェント本人に逆手で制されてしまえば問答無用に斬りかかるわけにもいかない。納得とは程遠い顔をしながらジェントを見遣るものの、その矢先に当のドゥラークが「ぐひぃッ!」と引き攣ったような悲鳴を上げた。
『おっと失礼、つい力が入り過ぎたようだ。それにしても自ら急所を晒すとは、とても武人とは思えないな』
「ぐ、ッぐぬぬ……! この野郎、人が下手に出てやりゃあ……!」
ドゥラークはその大きな身を丸めながら両手で自分の股間を押さえた。どうやら大事なところを思い切り握られたようだ。けれど、ジェント本人はどこ吹く風といった様子でゆるりと頭を振る。
『ジュード、彼らは偽物ではないことを証明しろと言っていたが、どうすれば証明になるものかな』
「え? 言われてみれば……」
『徹底的にやるか、それとも軽く遊んだ上で叩きのめすか……聖剣の所有者はきみなんだ、きみがやれと言ったようにするよ』
ドゥラークたちの言動はやはりジュードとしては許せない、つい今し方の光景を思い返せば焼けるような憤りが腹の底から込み上げてくる。しかし、そんな連中に自分も未だ見たことがないジェントの本気を見せるのは、あまりにももったいない気もした。
「……遊びながら徹底的に叩きのめすっていうのでも、大丈夫ですか?」
いつも余程のことがない限りは人間相手に情けをかけることの多いジュードのその言葉に、彼の肩に乗っていたライオットはそのもっちりとした身をふるりと震わせた。
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