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第四章・精霊
メンフィスとの再会
しおりを挟む無事にタラサの街の宿でメンフィスと合流を果たしたジュードたちは、そのまま宝石店でパールを購入しエンプレスに戻るべく道なりに南下していた。
来た時と同様、てっきり船でまっすぐ帰るものだと思っていたのもあり、帰りのそのルートは些か意外なものだったが、船の揺れに弱いルルーナとしてはこちらの方が有難いだろう。心なしか、陸路と聞いてから少しばかり機嫌がいいように見える。
水の国で起こったことを大雑把ながら聞いたメンフィスは暫し黙り込んでいたが、視線はまっすぐに向けたまま、ややあってから静かに呟く。
「……カミラがヴェリアからの来訪者だったとは」
「だ、黙っててごめんなさい、でも……」
「メンフィスさん、カミラさんも悪気があって黙ってたわけじゃ……それにオレも知ってて……」
「ああ、わかっておるよ。確かに、魔族がヴェリアに現れただけでなく、それによってヴェリア王家が壊滅したと世界中に知れれば大騒ぎになっていただろうからな」
魔族の出没は今はまだ水の国の一部で知られただけだが、今後はこれまで以上の混乱が世界規模で起こることは容易く想像ができてしまう。人の噂は考えている以上に早く拡散してしまうものだ。
地の国は更に警戒を強めるかもしれない。最早、自国のことだけを考えてはいられないと改めてくれればいいが、そんな賢明な判断をするとはどうにも思えなかった。
だが、現実的に考えてそうなのだ。こうなった以上、国がこだわりを持っていられるような状況ではない。世界規模で協力していかなければならない問題だ、そんな状況にあると言える。そこまで考えて、メンフィスはため息をひとつ。どうにも問題が多くなりそうだ。
「……だが、ひとまずはお前さんたちが無事に戻ってきてくれただけで充分だ。大変な旅路だっただろう、よくやってくれた」
水の国にジュードたちを送り出す時の不安は半端なものではなかった。オマケに、その直後に魔族が現れたなどという噂が出てきたものだから、メンフィスが抱いた不安は言葉では言い表せない。何度、関所を力業で押し通って行こうと思ったか。
メンフィスの労いの言葉に、ジュードたちは各々仲間の反応でも確かめるように顔を見合わせ、そしてくすぐったそうに――照れたように笑った。その様子はいずれも、まるで親に褒められて嬉々を持てあます子供のようだった。まだあどけなさが残る若者たち、そんな彼らが魔族と戦ったというのだからメンフィスの内心は複雑なものである。
「(魔族がジュードを狙っている可能性がある、か……いったい何のために……? グラムのやつと相談した方がいいかもしれんな……)」
大雑把にではあるが、ジュードやウィルたちからの報告を聞いた中でメンフィスが特に気になったのはそこだ。魔族がジュードの身を狙っているかもしれない。その現実は決して楽観できるものではなかった。
メンフィスから見て、ジュードは親友兼悪友の可愛い子供だ。ごく普通の。なぜ、魔族になど狙われなければならないのか。当然ながら、メンフィスにもその理由などわかるはずがない。
「……あれ? メンフィスさん、エンプレスに戻るんじゃ……?」
辺りは既に夕闇に支配されつつあるが、メンフィスは道なりに南下するのをやめて、東へと歩を進める。それに気付いたジュードはいち早く彼の背中に声をかけた。その声にメンフィスは彼らを振り返って表情を和らげると、笑いながら口を開く。
「久しぶりだろう? グラムのやつにも元気な姿を見せてやりなさい」
予想だにしていなかった言葉にジュードたちは目を丸くさせると、程なくして嬉しそうに笑った。エンプレスからタラサの街まで船での移動だったため、自宅に戻るのは本当に久しぶりだ。ウィルはジュードとマナに目を向けると、その顔に嬉々を滲ませながら声をかける。
「せっかくだ、帰ったら早速試してみようぜ。森の中なら火魔法じゃない限りそんなに遠慮も要らないしな」
「そうね、これがうまくいけば前線基地は今よりずっと楽になると思うし……あたしも頑張らなきゃ」
今回見つけた技術が成功すれば、マナの言うように前線基地の状況は随分と変わるだろう。例え現在は魔物に押されているとしても互角、上手くいけば盛り返すことだって夢ではない。意気込むウィルとマナを微笑ましそうに見遣りながら、ジュードは遠くに見えてきた麓の村に視線を投げる。
教会では、今日もジス神父が子供たちを相手に勉強を教えているのだろう。少し前までは頻繁に通っていたというのに、もう何年も帰っていないような懐かしさを覚えた。
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