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第二章・水の国の吸血鬼騒動
新しい戦い方
しおりを挟むタラサの街に入港する頃には太陽はすっかり空に姿を現し、今日もまた一日が始まっていた。港街ということもあり、港には多くの漁師と漁船の姿が見える。
船を降りたジュードたちはそのまま街中へと足を向けたのだが、街の至るところには幕に覆われた露店が数多く窺える。どうやら、このタラサの街では今日も何かしらの祭りが催されるようだ。
「今日は何の祭りなんだろうなぁ」
「さあ……どっかの子供が試験でいい点取ったとか、どこそこのカップルがやっと結ばれた記念とか、何かにつけて理由引っ張り出してきて騒いでるからな」
「お祭りがあるの?」
ジュードやウィル、マナにとっては慣れた雰囲気だが、初めて訪れる者にしてみればそうでもないのだろう。カミラもメンフィスも、物珍しそうに辺りを見回している。船の揺れに結局最後まで慣れなかったルルーナだけは、げんなりとした様子で項垂れているが。
そんな中、カミラから向けられた疑問に、ジュードは足を止めることなく肩越しに彼女を振り返った。
「うん、風の国はどこもこんな感じだよ。よくお祭りやって騒いでるんだ」
「こういう雰囲気だと結構安売りしてるから、食糧とかついでに見ていこうぜ」
食材は主に料理を担当することの多いマナを筆頭に、他に街の案内も含めてウィルと、あとはカミラ。ジュードはメンフィスと共に、武器防具屋に。ルルーナは現在進行形で絶不調のため、噴水広場で休むことに。
街の上空では、海鳥が元気よく鳴きながら気持ちよさそうに飛び回っていた。
* * *
武器防具屋に足を運んだジュードは、すっかり顔馴染みとなっている店主と軽く一言二言交わしてから店の商品を物色し始めた。メンフィスは「剣」と口にしていたが、剣の種類は様々だ。短剣、片手剣にレイピア、彼のように両手で扱う大剣など、大雑把に分けただけでも四種類ほどはある。
メンフィスが教えてくれるならやはり大剣になるのかと、ちょうど近くに飾られていたブロードソードをまじまじと眺めてみた。
ジュードの戦法はどちらかと言えば、ヒットアンドアウェイ――攻撃と同時に一旦距離を取って戦うスピード重視のスタイルだ。そんな彼にとって、重量があり素早い切り返しの利かない大剣はやや相性が悪い。
難しい顔で考え込むジュードに、メンフィスは怪訝そうな表情を浮かべると値札が付いたままの剣を横から差し出してきた。
「難しい顔してどうしたんじゃ、ジュード。ほれ、持ってみなさい」
「え?」
差し出された剣は――何の変哲もない、どこの武器屋でも必ずと言っていいほどに目にするショートソードだった。剣とメンフィスとを交互に眺めるジュードに、当のメンフィスは愉快そうに声を立てて笑う。
「なんじゃ、大剣の方がよいか?」
「い、いえ、メンフィスさんが教えてくれるならやっぱり大剣なのかなと思っただけで……」
「それではお前さんの持ち味が死んでしまうからな、やはり片手剣の方がいいだろう」
差し出された剣を受け取ると、そのまま数歩後退して握り込んでみる。ショートソードならこうして手にしてみたことも少なくない、やはりどこにでも売っているごく普通の剣だ。
「……うん、じゃあ今日からは剣を使うようにしてみようかな。こっちの方がリーチ長いし……」
「む? 何を言っとるんじゃ?」
素早い切り返しだけで言うなら短剣だが、敵との間合いを考えるなら剣だ。片手剣ならメンフィスの言うようにジュードの持ち味を殺すことなく、これまで通りの立ち回りができるだろう。だが、次にメンフィスは陳列されていたダガーを手に取ると、それをジュードの左手に押し付けてきた。
「え?」
「ほれ、こっちも持ってみなさい」
「えっ、に……二刀流?」
「うむ、お前さんは器用だからな。特訓すればモノになるさ」
押し付けられたダガーを半ば反射的に受け取り、右手に剣、左手に短剣という形になった。
メンフィスの肩越しには、カウンターに軽く身を乗り出しながら「ふむふむ」と感心したような声を洩らす店主の姿も見える。
剣と短剣両方を使うなど、考えてみたこともない。いくら器用と言っても、無理があるのではと頭の片隅で思いはしたが、目の前で満足そうにうんうんと頷くメンフィスを見るとジュードには何も言えなかった。
「(まあ、メンフィスさんが教えてくれるなら大丈夫……かな)」
メンフィスは非常に腕の立つ騎士団長だ。そんな彼が直々に教えてくれるのならやれそうな気がしてくるのだから不思議なものだ。
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