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小学校5年生編 春
入れ替わり兄妹と委員長 1
しおりを挟む五月も中旬、二時間目が終わる時間には教室の中は暖かいどころか少し暑くなってきた今日この頃。
体育の後で疲れてぼーっとする自分の首筋を汗が伝う感触がした時のことです。
「ヨミくん」
「あっ、委員長」
委員長ことサオリさんに話しかけられ、どきっとして少し椅子を引いてしまいました。
同年代の中ではすらりと高い身長です。そこから見下す視線の目尻は少し吊り上がっていて、時に怒っている様に見えます。
見えるというか、話しかけられる場合は、大体提出物の催促なので合ってるかもしれません。
何を忘れていたかな、と考えていると、答えが提示されます。
「この間のアンケート、まだでしょう?」
「ごめんなさいっ」
「今日中に出してね」
彼女は自分が呼ぶ通り、当クラス5-2の委員長です。毎年同じクラスだったわけではないので定かではありませんが、一年生の頃から毎年委員長をやっていたそうなので、みんなからも委員長と呼ばれる事が多い様に思います。
印象は、やっぱりその肩書きの通りと言っていいでしょう。いつもクールで気品に溢れる涼しげな風貌で、品行方正、成績優秀。お家柄も良いそうで、ちょっと遠い世界の存在です。
そんな絵に描いたような優等生である彼女ですが、気になる点が幾つかあります。
一つ目は、そんな人物であるにも関わらず、妹と親しい事でしょうか。
というより、妹に限らず、彼女の交友関係が彼女の人となりに若干合っていないといいますか。非常に勝手な印象なので憚られますが、周りの人を遠去けるレベルの凄くお嬢様なオーラを発している方なので、あまり接点が見当たりません。
関連して二つ目。
お家柄が良いと聞き及んでいる彼女ですが、心のコトバは外見と違って意外と庶民的だったりするのです。
「委員長、アンケート書けたので提出をさせて頂きたいのですが……」
「どんだけかしこまるのよ」
軽くツッコミを入れつつも、「どうも」と用紙を受け取って、彼女は席に座ります。
「次はちゃんと早めに出してね」
「はい……」
「はぁ」(上手に茹でにくい野菜みたいだわ。まったくどうして、いつもシャキッと出来ないのかしら)
お料理とかするんでしょうか。具体的にどんな野菜かちょっと気になりましたが、ミコが遠かったので詳細は聞けずじまいでした。
あ、でもそういえば今日丁度、家庭科の調理実習がありましたね。その時に分かるかも────
「はい、ミコちゃん。ニンジンのへた切っておいたよ」
「ありがと……」
というわけで、はい。恒例の入れ替わりタイムです。調理実習中、班に分かれて作業開始という所で突然景色がまな板の前に切り替わりました。
今回のこれ、もしや割り振られた役割が面倒だからとかじゃないですよね。タイミング的にちょっと怪しいです。
「どうしたの? もしかして、包丁使ったことない?」
うんとは言えず、「あはは、いやぁ……」と誤魔化しました。
別の班だったのでイマイチ掴めませんが、自分の役割はサトコちゃんが皮を剥いた野菜を切る事の様です。
ああ、成る程、確かに。ミコ、地味にやった事ないかも……。
覚えている限りでは、台所に立っている姿は過去にありません。自分もですけど、お手伝いはもっぱら皮剥きとかおろしがねとかまでです。
「あら、意外ね。出来そうなものなのに」
委員長は流しで食材を洗いながら、ちょっと意地悪っぽい、揶揄う様な笑みを浮かべました。
「う、やってやれないことはない、よ」
「そう? じゃ期待してる」
いつもの四人で班を組んでいるのは知っていました。自分も比較的仲の良い男子に誘われて組んでいたのでそこは同じです。
違うのは、単純に馴れ合うだけじゃない。張り合う様な関係性がある事。
そうです。普段のミコは優秀ですから、同じく優秀な委員長は彼女を少なからずライバルとして意識しているのです。
勿論いつもじゃありません。普段は普通に仲良しですけど、互いの物差しに出来る様な事があると目の色が変わったりする感じ、と言いましょうか。
そうなると少しだけ、いつもは年不相応な程に大人びた委員長が、年相応に意地悪に見えたり、見えなかったり。
「大丈夫? 代わろうか?」
サトコちゃんはいつも通り優しいです。多分他に人が居なかったら思い切って甘えるのも選択肢だったと思います。
けれど、ここで日和ったりしたら後でどうなるか。心苦しいですが、いつも通り主導権は妹が握っている以上、あまり安易な方向に行くのは得策じゃありません。
「ううん、だいじょうぶ」
「そっか、なら一緒にがんばろ!」
向こうの方で流しの前に立っている僕の姿のミコが、少しにやりと笑った気がしました。
まあ、いいです。委員長の意地悪な顔がちょっとだけ癪でしたから。頑張ってみます。
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