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小学校5年生編 春
にゃーむほーる2
しおりを挟むご存知とは思いますが、予め言っておきます。
僕は人混みが大の苦手です。
「────ずすっごい──でるね~」
「何かイベントで──来────から、今日は──じゃ──の」
「うひぃー!(あ、あの店うまそ!)」
ただの大音量を浴びるのとは訳が違います。雑踏が、心のコトバと合わさって降り注ぐのです。
基本的にこうなると、大きくて近い物以外、多くの音は処理し切れません。
例えるならそう、頭の内と外、両方で滝が流れてるみたいな感じでしょうか。
ゴォーっとずっと鳴っている様な状態なので、普通の状態より圧倒的に聞こえ難いだけでなく、かなりの不快感を伴います。
サトコちゃんと一緒に遊ぶという貴重な機会でも無ければ、まず間違いなく断っていた事でしょう。
────順調に目が回ってきました。小さい頃これで何度泣いた事か。あんまり強烈だと、三半規管にダメージが入るんですよね。
「あっ、──こあそこ!」
「うおおお避難ー!」
そんなバッドコンディションの中、サトコちゃんとアズサちゃんに引っ張られて辿り着いた目的地、猫カフェは。
幸い思った程混雑していませんでした。
「いらっしゃいませー」
店に入ると、可愛い猫の写真達と、仄かな柑橘系の甘い香りと、優しい感じの女性店員さんがお出迎えです。
「おほー! もふもふパラダイスぅー!」
「ぱらだいす~!」
「あ、四人です」
地味に初めて来たんですけど、カフェメニューとは別に時間制の入場料金があるんですね。人がそこまで居ないのはそのお陰でしょうか。一時間1000円はちょっとお高いかもしれません。
各々支払うと、女性の店員さんから簡単に説明を受けて、それから本格的に猫と人間が共に寛ぐスペースに案内されます。
「貴重品はこちらのロッカーに入れて下さい。あと猫ちゃんと触れ合う前にはしっかり手を洗ってね」
「「はーい」」
高い分サービスはしっかりしていますね。ドリンクは飲み放題で、駄菓子とかも常識の範囲内であれば自由につまんで良いみたいです。
……にゃんこにイタズラされて滅茶苦茶になってしまわないのでしょうか。人をダメにするタイプのクッションが各所に配置されていますし、漫画とかも置かれていますが。
「ふにゃーん」
「ごろごろごろ……」
訂正、杞憂でした。大人しい子ばかりを扱ってるのか、にゃんこ達も人と一緒に大人しくくつろいでいて、そんな素振りは一切見えません。
見受けられるのは、理想のゴロゴロもふもふだけ。成る程。これは時間が溶けそうな空間です。
「お食事の注文や延長の際は気兼ねなくお声掛け下さい」
「有難う御座います」
店員さんが去って行きました。
僕と委員長は揃って会釈してから、アイコンタクトで意思を確かめ合います。
「サオリさんはどうするの?」
「まあ適当に戯れるわ。二人は……もうやってるし」
「「んにゃあああぁ……」」
アズサちゃんとサトコちゃんは早速にゃんこに吸い込まれていて、もふもふを開始していました。
「みてみてミコちゃ~ん、この子ほらぁ、ここ撫でると目がとろ~んって」
「ふふ、ほんとだー」
にゃんこも可愛いですけど、リラックスしきって蕩けたサトコちゃんも可愛いです。
「ふにゃおっ」
「う」
てしっと、脛に肉球を貰いました。
足元に視線を下ろします。するとそこには黒ぶち模様の猫が居て、愛らしいくりくりの目で此方を見上げていました。
構って欲しいのでしょうか。そんな物欲しそうなつぶらな瞳で見つめられても、僕割と動物とのふれあいには不慣れですから。困ってしまいますよ。
「まあ、後ははぐれさえしなければ、ある程度各自自由でいいんじゃない?」
「うん、そうだね」
これ、一度寝っ転がったら動けなくなりそうですね。
「……ちょっと待っててね」
他愛もない懸念から、僕は脚に引っ付いたにゃんこにステイする様頼んで、先にドリンクを取りに行きました。
「ふみゃーお」
「あ」
先程の黒ぶちちゃんです。ついてきてしまってるじゃありませんか。そんな初対面で懐くものじゃないと思ってたんですが。
「もう、待っててって言ったじゃん」
「ふなぁーお」
鳴き声一つ返事で、今度は一転、元居た方とは全く別の方へ向かって歩き始めました。
ある程度進むと立ち止まって、頭だけ振り返り、また鳴きます。
ついてこいとか言ってるんでしょうか。心のコトバは動植物からも聴き取れる事がありますが、残念ながら人間の言葉ではないので定かではありません。
「あっ」
また歩き始めました。棚と棚の間、結構狭い隙間に向かって進んで行きます。
先程と違い追い掛ける形での「待って!」を声に出しますが、流石にゃんこ。やっぱり待ってはくれません。
って、ほんとに何処に行くんですか? それ以上向こうは────あれ?
ふと、気が付くと。
先程まで溢れていた騒々しい音の数々が、何処かを境にぱったりと聴こえなくなっていて、耳鳴りだけがいーんと残りました。
んん? ここ、お店、ですよね? なんか広くなってませんか?
感覚としては入り口のカウンターの方へ歩いたつもりでしたが、現在地はまるで見覚えの無い場所です。
全ての縮尺が違います。天井は高く、棚や椅子なんかもまるで手が届きそうにないくらい大きいです。見上げると少し脚がすくみました。
「誰かー? 誰かいませんかー?」
声を上げても返事は無く、痛い程の静寂が返ります。
辺りを幾ら見回しても、やはり人も猫も見当たりません。
「おーい、誰かー?」
何も分からないまま、僕は徐に歩き始めました。
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