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恋と仕事と
第25話
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「ああ、話しが逸れてしまいましたな。もしノアラン君がカーラと上手くいくようなら、うちの保有する伯爵位を渡してもいいと思っているんですがね」
「え・・・・」
そこまでブラスが考えてくれているとは思わなかったキャメイリアは、ぽかんとした顔のままその続きを聞いている。
「コーテズ王国は例えば王都の土地は他国人が買えないとか、爵位の継承が絡む貴族の婚姻も伯爵以上はなかなか煩くて、特に公爵家ともなると隠れた制約が多いのです。
ノアラン君がシルベスのヴァーミル侯爵令息としてカーラと婚約したいと申し出るより、表向きヴァーミル家を名乗っていても、陛下にノーラン・ローリスと名乗りをあげてから申し出たほうがはるかに認められやすい。
ノアラン君に強制はできませんが、財産と爵位両方を受けたほうが後々都合がいいんです」
キャメイリアはふと、頭に浮かんだことを口にした。
「だから私とマトウ・ローリスの結婚も?」
「ああ、そうですね。辺境伯家は他国への守りを固めるために、子どもが生まれるとすぐに婚約者が内々に王命で決められるんです。
貴族でも恋愛結婚が主流のシルベスの方にはなかなか理解が難しいかもしれませんが、マトウにも生まれたときから王命の相手がいたので、勝手に結婚してキャメイリア様を伴って帰国したときには大変な騒ぎでしたよ。マトウは先代国王に血筋も近くてとても可愛がられていたので、それまでと同じように我儘が通るとでも思っていたんでしょう。
しかしこれは相手もありましたからね」
その言葉に今更ながらハッとして訊ねる。
「あの、ブラス様はその時のマトウ様のお相手がどうされたかご存知でしょうか?お幸せになられていらっしゃるのでしょうか」
「ご存知のように、マトウは自分が王命を反故にした罪から逃れるため、夫人となられたキャメイリア様を離縁して国に返し、一生だれとも結婚せず、次代の辺境伯を育てながら領地を守り続けると言いました。そのために」
フーッと息を吐いて、視線を落として。
言いづらそうに口を開く。
「婚約は勿論マトウの有責で破棄され、婚約者は修道院へ」
ヒュッと息を呑む音がした。
「そちらで生涯を終えられたと聞いています」
「そ、そんな・・・」
キャメイリアはマトウに婚約者がいるかなんて気にしたことはなく、ただ心の思うまま恋に落ち、結婚した。
自由度の高いシルベスでも他国の貴族が相手となればそれなりに厄介なこともあり、また両親がマトウを気に入らなかったため駆け落ちのようにコーテズに逃げた。
結果、マトウに捨てられて失意の中帰国し、奇跡的に出逢えたヤーリッツと再婚してこどもが育った今でも絶縁されたまま。
例えコーテズよりゆるいシルベスであっても、旧来の常識を持つ貴族たちには恥知らずと言われるくらいのことをキャメイリアはしていた。
しかしキャメイリアは自分が置かれた境遇に嘆き、ノアランと隠れることに夢中で、自分がシルベス社交界でなんと言われていたかも、マトウの婚約者のその後も、まったく知らずにいたのだ。
幸いにも再婚し、ヤーリッツと社交界に出始めたのは、シルベスに帰国してから数年後。
既に代替わりが進んでおり、若い世代の貴族たちには温い目で見られたくらいで済んだ。
過去を教訓に家族第一主義を貫き、常に気を配るキャメイリアは、今では社交界でも指折りの良妻賢母と言われているが、若かりし自分が浅慮にしたことが、一人の女性の幸せな未来を奪った事実を初めて知り、思わず崩折れた。
「・・・知らなかった」
自分の幸せしか考えていなかった。
自分とノアランが幸せになることしか。
「え・・・・」
そこまでブラスが考えてくれているとは思わなかったキャメイリアは、ぽかんとした顔のままその続きを聞いている。
「コーテズ王国は例えば王都の土地は他国人が買えないとか、爵位の継承が絡む貴族の婚姻も伯爵以上はなかなか煩くて、特に公爵家ともなると隠れた制約が多いのです。
ノアラン君がシルベスのヴァーミル侯爵令息としてカーラと婚約したいと申し出るより、表向きヴァーミル家を名乗っていても、陛下にノーラン・ローリスと名乗りをあげてから申し出たほうがはるかに認められやすい。
ノアラン君に強制はできませんが、財産と爵位両方を受けたほうが後々都合がいいんです」
キャメイリアはふと、頭に浮かんだことを口にした。
「だから私とマトウ・ローリスの結婚も?」
「ああ、そうですね。辺境伯家は他国への守りを固めるために、子どもが生まれるとすぐに婚約者が内々に王命で決められるんです。
貴族でも恋愛結婚が主流のシルベスの方にはなかなか理解が難しいかもしれませんが、マトウにも生まれたときから王命の相手がいたので、勝手に結婚してキャメイリア様を伴って帰国したときには大変な騒ぎでしたよ。マトウは先代国王に血筋も近くてとても可愛がられていたので、それまでと同じように我儘が通るとでも思っていたんでしょう。
しかしこれは相手もありましたからね」
その言葉に今更ながらハッとして訊ねる。
「あの、ブラス様はその時のマトウ様のお相手がどうされたかご存知でしょうか?お幸せになられていらっしゃるのでしょうか」
「ご存知のように、マトウは自分が王命を反故にした罪から逃れるため、夫人となられたキャメイリア様を離縁して国に返し、一生だれとも結婚せず、次代の辺境伯を育てながら領地を守り続けると言いました。そのために」
フーッと息を吐いて、視線を落として。
言いづらそうに口を開く。
「婚約は勿論マトウの有責で破棄され、婚約者は修道院へ」
ヒュッと息を呑む音がした。
「そちらで生涯を終えられたと聞いています」
「そ、そんな・・・」
キャメイリアはマトウに婚約者がいるかなんて気にしたことはなく、ただ心の思うまま恋に落ち、結婚した。
自由度の高いシルベスでも他国の貴族が相手となればそれなりに厄介なこともあり、また両親がマトウを気に入らなかったため駆け落ちのようにコーテズに逃げた。
結果、マトウに捨てられて失意の中帰国し、奇跡的に出逢えたヤーリッツと再婚してこどもが育った今でも絶縁されたまま。
例えコーテズよりゆるいシルベスであっても、旧来の常識を持つ貴族たちには恥知らずと言われるくらいのことをキャメイリアはしていた。
しかしキャメイリアは自分が置かれた境遇に嘆き、ノアランと隠れることに夢中で、自分がシルベス社交界でなんと言われていたかも、マトウの婚約者のその後も、まったく知らずにいたのだ。
幸いにも再婚し、ヤーリッツと社交界に出始めたのは、シルベスに帰国してから数年後。
既に代替わりが進んでおり、若い世代の貴族たちには温い目で見られたくらいで済んだ。
過去を教訓に家族第一主義を貫き、常に気を配るキャメイリアは、今では社交界でも指折りの良妻賢母と言われているが、若かりし自分が浅慮にしたことが、一人の女性の幸せな未来を奪った事実を初めて知り、思わず崩折れた。
「・・・知らなかった」
自分の幸せしか考えていなかった。
自分とノアランが幸せになることしか。
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