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恋と仕事と
第24話
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キャメイリアがゆっくりと支度を終え、食堂に姿を見せたとき、既にビルスの謁見願いは早馬番に託されており、その早馬番が戻ったときには夕方登城するようにと返事まで持たされていた。
この対応の異例な早さは、シーズン公爵家が国王と近い存在だというのは勿論だが、マトウ・ローリスの子が名乗り出たことがなによりも大きい。
この一件は、今世国王にとり先代国王の汚点の一つであり、王太后や王妹たちにとっても先代国王の問題解決がお粗末だったせいで、生まれたての罪なき赤子が両親から引き離された、心に黒い染みを残した事柄でもあった。
なのでノアランの遠慮など気にする必要はまったくなく、国王たちの心の安寧のためにも、ローリスの夫人たちの財産と爵位を貰ってやったほうがいいのだと、ビルスは理解していた。
「まあ!話したの?」
あれほどうだうだと悩んでいたのがいつの間にと、息子の決心を褒めてやりたくなる。
カーラの視線がなければだが。
「はい」
淡々と答えたノアランの肩を、ビルスがぽんぽんと叩いて。
それからキャメイリアに一歩歩み寄り。
「えー、少しだけ親同士で話したいことがあるのですが」
小声で誘うと、キャメイリアもブラスに聞いてみたいことがあったので、ちょうどよいとばかりに頷き、カーラとノアランが不審そうに見つめる中、食堂に繋がるバルコニーに連れ立った。
「時間がないので手短に。ノアランくんは、爵位は責任を負えないからいらないと言っているのですが、キャメイリア様は如何お考えですかな?」
「そうですわねえ、貰えるものはとりあえず貰い、本当にいらないとわかったときに手放してもよろしいのではないかと。手にしてもいないうちに、浅慮な考えでいらないと言って、後で欲しくなってもあとの祭りですから」
「おお!同じです。ではその方向で」
「ところでブラス様。カーラ様の新たな婚約はどのようにお考えでしょうか」
「随分はっきりと切り込んでいらっしゃいますな。腹に一物より好ましいが」
「失礼を承知の上でございます。こちらに滞在できる時間にも限りがございます故、お許し頂けましたら有り難く存じます」
そう言いながら貴婦人がニヤっと笑うと、似合っているとはいえないのに、何とも言えない迫力があった。
「カーラはもう自分にそういった縁は訪れないと思っているようですが、私は諦めておりません。勿論、年寄り貴族の後妻なんかはお断りです。不自由させてきた分、次はカーラを想い、幸せにしてくれる方に委ねたいと思っております」
「具体的な候補はいらっしゃるのですか?」
「ええ」
「え?」
「います。というか、見つけました」
今度はブラスがニヤっと笑った。
「ビジネスパートナーになれるほど、信頼関係のある相手が伴侶になったら」
ノアランのことだと理解したキャメイリアは、笑みを堪えて淡々と話す。
「でも仕事のライバルになってしまうかもしれませんわよ?」
「いや、ノアラン君ならカーラと補い合えるでしょう。どちらかというとノアラン君がカーラを支えてくれるだろうと考えておりますよ」
それはキャメイリアも同感だ。
ノアランがカーラに首ったけだからではない。アイデアを出してそれに向かってすぐに走り出すカーラと、少し立ち止まり、細かなことを確認しながら進んでいくノアランは一見噛み合わないようで、互いのテンポが違うことが良い効果を産み、見事に折り合っている。
「それにしてもノアラン君ならローリスの善き後継ぎになれただろうに、マトウも先王陛下も目先のことしか考えずに勿体ないことをしたものです」
コーテズの貴族のほうが図太いというか、押しが強い。シルベス育ちのせいか、ノアランは多少線の細さを感じさせるが、それは教育の為せる技だろう。
ブラスはだからこそ、カーラのようなキツい性格にそれがしっくり嵌っている気がしていた。
この対応の異例な早さは、シーズン公爵家が国王と近い存在だというのは勿論だが、マトウ・ローリスの子が名乗り出たことがなによりも大きい。
この一件は、今世国王にとり先代国王の汚点の一つであり、王太后や王妹たちにとっても先代国王の問題解決がお粗末だったせいで、生まれたての罪なき赤子が両親から引き離された、心に黒い染みを残した事柄でもあった。
なのでノアランの遠慮など気にする必要はまったくなく、国王たちの心の安寧のためにも、ローリスの夫人たちの財産と爵位を貰ってやったほうがいいのだと、ビルスは理解していた。
「まあ!話したの?」
あれほどうだうだと悩んでいたのがいつの間にと、息子の決心を褒めてやりたくなる。
カーラの視線がなければだが。
「はい」
淡々と答えたノアランの肩を、ビルスがぽんぽんと叩いて。
それからキャメイリアに一歩歩み寄り。
「えー、少しだけ親同士で話したいことがあるのですが」
小声で誘うと、キャメイリアもブラスに聞いてみたいことがあったので、ちょうどよいとばかりに頷き、カーラとノアランが不審そうに見つめる中、食堂に繋がるバルコニーに連れ立った。
「時間がないので手短に。ノアランくんは、爵位は責任を負えないからいらないと言っているのですが、キャメイリア様は如何お考えですかな?」
「そうですわねえ、貰えるものはとりあえず貰い、本当にいらないとわかったときに手放してもよろしいのではないかと。手にしてもいないうちに、浅慮な考えでいらないと言って、後で欲しくなってもあとの祭りですから」
「おお!同じです。ではその方向で」
「ところでブラス様。カーラ様の新たな婚約はどのようにお考えでしょうか」
「随分はっきりと切り込んでいらっしゃいますな。腹に一物より好ましいが」
「失礼を承知の上でございます。こちらに滞在できる時間にも限りがございます故、お許し頂けましたら有り難く存じます」
そう言いながら貴婦人がニヤっと笑うと、似合っているとはいえないのに、何とも言えない迫力があった。
「カーラはもう自分にそういった縁は訪れないと思っているようですが、私は諦めておりません。勿論、年寄り貴族の後妻なんかはお断りです。不自由させてきた分、次はカーラを想い、幸せにしてくれる方に委ねたいと思っております」
「具体的な候補はいらっしゃるのですか?」
「ええ」
「え?」
「います。というか、見つけました」
今度はブラスがニヤっと笑った。
「ビジネスパートナーになれるほど、信頼関係のある相手が伴侶になったら」
ノアランのことだと理解したキャメイリアは、笑みを堪えて淡々と話す。
「でも仕事のライバルになってしまうかもしれませんわよ?」
「いや、ノアラン君ならカーラと補い合えるでしょう。どちらかというとノアラン君がカーラを支えてくれるだろうと考えておりますよ」
それはキャメイリアも同感だ。
ノアランがカーラに首ったけだからではない。アイデアを出してそれに向かってすぐに走り出すカーラと、少し立ち止まり、細かなことを確認しながら進んでいくノアランは一見噛み合わないようで、互いのテンポが違うことが良い効果を産み、見事に折り合っている。
「それにしてもノアラン君ならローリスの善き後継ぎになれただろうに、マトウも先王陛下も目先のことしか考えずに勿体ないことをしたものです」
コーテズの貴族のほうが図太いというか、押しが強い。シルベス育ちのせいか、ノアランは多少線の細さを感じさせるが、それは教育の為せる技だろう。
ブラスはだからこそ、カーラのようなキツい性格にそれがしっくり嵌っている気がしていた。
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