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恋と仕事と
第22話
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「ゴホッ」
黙り込んだカーラを促すため、ブラスが空咳をしてみせる。
「ゴホッゴホッ、オホンッ!」
「お父さま、お風邪を召されたのですか?」
「ち、違う!ちょっと喉の調子が悪いだけだ」
と言いつつ、視線でカーラに圧力をかけるが。
(変なお父さま)
父の気遣いにはまったく気づかず、視線をやり過ごしたカーラは、ノアランを見て意外な一言を放った。
「ノアラン様。陛下が捜されているのですから、早く名乗り出ましょう!ローリスのお祖母様方の遺産と爵位が貰えますわよ!」
決死のノアランの覚悟が込められた告白なのに、金の話じゃなく、もっと言うことがあるだろう~!と、娘ながらにイラッとしたブラスはまたも態と咳払いをしたのだが。
「ゴホッ」
すると、キッと、キツい目をしたカーラがツンツンしながら言った。
「お父さまやっぱり風邪ですわね。私とノアラン様は、カメリアのオープンを控える身です。風邪が感染ると困るからもう行きますわ!あ、念のために朝食はお父さまおひとりで、こちらでおあがりになってくださいましね。申し付けておきますから」
ビルスの返答を待つこともせず、ノアランを促して執務室からふたりで脱出すると、カーラがにこやかにノアランに釘を差した。
「ねえノアラン様!」
「は、はいっ」
「・・・共同事業のパートナーとして、大きな影響を及ぼしそうな秘密は、もう他にございませんかしら?」
小首を傾げ、うるると瞳を揺らしながら訊ねている。姿は可愛らしいのだが、潤んだように装う瞳の圧が凄い。
ノアランはその姿をなんとか記憶に残したいと思いつつ、力負けして視線を反らした。
カッと体温が上がった気がして、思わず下ろしていた髪を耳にかける。
その仕草を見ていたカーラが、あら!と声を洩らした。
「まあ!本当だったわ」
「何がですか」
「黒子ですわ。一見大きな黒子だけれど、よく見ると、三つの黒子が身を寄せ合っていると、生まれたてのノーラン様を診たお医者様から聞いておりましたのよ」
ふむふむといいながら、ノアランの耳に指先を伸ばして黒子に触れる。
触れられたことに気づいて、ガチガチに固まったノアランを気にすることなく、まるで当たり前のように触っている。
「あ、あの、カーラ様」
とうとう耐えかねたノアランが声を上げ、カーラは自分がやっていることに気がついた。
「え?や、やだっ、わ、わたくしったら何してるのっ」
ぴょーんと、本当にぴょーんと横に飛び退いた様が面白すぎて。
ノアランとカーラは顔を見合わせ、笑い出した。
一頻り笑い転げたあと。
「あの、カーラ様。カーラ様は私が恥知らずと呼ばれるマトウ・ローリスの息子だと知って、どう思われましたか」
探るような縋るようなノアランの視線をいとも容易くはねのけて。
「んー。なんとも思いませんわね。ちょっと驚きましたけど。
私にとって貴方様はどうやってもノアラン・ヴァーミル様ですもの。
ご家族と交流させて頂いて、皆様を知る身としては、例え血が繋がらないと聞かされてもノアラン様はヤーリッツ様とキャメイリア様のご子息としか思えません。私はマトウ様とも面識がございますが、血の繋がりがあると言われるほうが違和感を感じるほど、私の知る限り似ているところはございません。
ただ。
名乗りをあげさえすれば、爵位はともかく、かつての辺境伯夫人たちの固有財産がいただけるのです。それ、ノーラン様が現れて受け取らなければ、現ローリス家には関係ないものだから、国庫が吸収してしまうんですって。勿体ないと思いませんこと?」
共同事業者として実を取ろうと割り切っているカーラと、財産や爵位よりカーラにどう見られるか、不安にかられたノアラン。
どちらが主導権を握るかは、言うまでもない。
「事業をする以上、お金はいくらあっても!そう、いくらあっても困ることはございませんわ。よろしいですわねノアラン様!私とお父さまがともについていって差し上げますから、しっかり財産を頂いて参りましょう!
貰う権利のある物を、頂くだけですから大丈夫ですわ!」
カーラは例え相手が国王陛下であろうと、怯むどころか強かであった。
黙り込んだカーラを促すため、ブラスが空咳をしてみせる。
「ゴホッゴホッ、オホンッ!」
「お父さま、お風邪を召されたのですか?」
「ち、違う!ちょっと喉の調子が悪いだけだ」
と言いつつ、視線でカーラに圧力をかけるが。
(変なお父さま)
父の気遣いにはまったく気づかず、視線をやり過ごしたカーラは、ノアランを見て意外な一言を放った。
「ノアラン様。陛下が捜されているのですから、早く名乗り出ましょう!ローリスのお祖母様方の遺産と爵位が貰えますわよ!」
決死のノアランの覚悟が込められた告白なのに、金の話じゃなく、もっと言うことがあるだろう~!と、娘ながらにイラッとしたブラスはまたも態と咳払いをしたのだが。
「ゴホッ」
すると、キッと、キツい目をしたカーラがツンツンしながら言った。
「お父さまやっぱり風邪ですわね。私とノアラン様は、カメリアのオープンを控える身です。風邪が感染ると困るからもう行きますわ!あ、念のために朝食はお父さまおひとりで、こちらでおあがりになってくださいましね。申し付けておきますから」
ビルスの返答を待つこともせず、ノアランを促して執務室からふたりで脱出すると、カーラがにこやかにノアランに釘を差した。
「ねえノアラン様!」
「は、はいっ」
「・・・共同事業のパートナーとして、大きな影響を及ぼしそうな秘密は、もう他にございませんかしら?」
小首を傾げ、うるると瞳を揺らしながら訊ねている。姿は可愛らしいのだが、潤んだように装う瞳の圧が凄い。
ノアランはその姿をなんとか記憶に残したいと思いつつ、力負けして視線を反らした。
カッと体温が上がった気がして、思わず下ろしていた髪を耳にかける。
その仕草を見ていたカーラが、あら!と声を洩らした。
「まあ!本当だったわ」
「何がですか」
「黒子ですわ。一見大きな黒子だけれど、よく見ると、三つの黒子が身を寄せ合っていると、生まれたてのノーラン様を診たお医者様から聞いておりましたのよ」
ふむふむといいながら、ノアランの耳に指先を伸ばして黒子に触れる。
触れられたことに気づいて、ガチガチに固まったノアランを気にすることなく、まるで当たり前のように触っている。
「あ、あの、カーラ様」
とうとう耐えかねたノアランが声を上げ、カーラは自分がやっていることに気がついた。
「え?や、やだっ、わ、わたくしったら何してるのっ」
ぴょーんと、本当にぴょーんと横に飛び退いた様が面白すぎて。
ノアランとカーラは顔を見合わせ、笑い出した。
一頻り笑い転げたあと。
「あの、カーラ様。カーラ様は私が恥知らずと呼ばれるマトウ・ローリスの息子だと知って、どう思われましたか」
探るような縋るようなノアランの視線をいとも容易くはねのけて。
「んー。なんとも思いませんわね。ちょっと驚きましたけど。
私にとって貴方様はどうやってもノアラン・ヴァーミル様ですもの。
ご家族と交流させて頂いて、皆様を知る身としては、例え血が繋がらないと聞かされてもノアラン様はヤーリッツ様とキャメイリア様のご子息としか思えません。私はマトウ様とも面識がございますが、血の繋がりがあると言われるほうが違和感を感じるほど、私の知る限り似ているところはございません。
ただ。
名乗りをあげさえすれば、爵位はともかく、かつての辺境伯夫人たちの固有財産がいただけるのです。それ、ノーラン様が現れて受け取らなければ、現ローリス家には関係ないものだから、国庫が吸収してしまうんですって。勿体ないと思いませんこと?」
共同事業者として実を取ろうと割り切っているカーラと、財産や爵位よりカーラにどう見られるか、不安にかられたノアラン。
どちらが主導権を握るかは、言うまでもない。
「事業をする以上、お金はいくらあっても!そう、いくらあっても困ることはございませんわ。よろしいですわねノアラン様!私とお父さまがともについていって差し上げますから、しっかり財産を頂いて参りましょう!
貰う権利のある物を、頂くだけですから大丈夫ですわ!」
カーラは例え相手が国王陛下であろうと、怯むどころか強かであった。
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