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恋と仕事と

第11話

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「母上がいらっしゃる?ああ、もとよりそう仰られていたからな。カーラ様も喜ばれる」

 シルベスから付いてきたダジュールが、ひらひらと手紙を宙に泳がせている。

「おい、行儀悪いぞ!一応侍従だろ」
「うむ。そろそろ侍従役も飽きてきた」

 ダジュールはノアランと同じシルベスの、アムス侯爵の次男で、親友同士である。
ふたりともいずれ家を出る立場のため、前々から将来何をしたいか、夢を語りあってきた。
 貴族の次男は文官か騎士が多いが、ダジュールは宮使いは性に合わない、外国を渡り歩く商人になりたいと言って、兄キーシュの補佐としてヴァーミルの文官になればいいと考えていたノアランとは正反対。
 だったのだが、ここに来てカーラの影響を受けたノアランがさっさと進路を変え、コーテズ王国に商談に行くというではないか。
 自分の夢だったことを、ノアランに先を越されたダジュールは、お手並み拝見と、侍従のフリをして一行に付いてきたのだった。

「ノアラン。おまえ、シーズン嬢のことめっちゃ大好きなんだな」

 くつくつと笑う。

「本当にいつ見ても面白いほどにニヤけてるぞ」
「え!」

 ノアランは鏡の前に立つと、自分の顔を覗き込んだ。

「ふ、普通じゃないか」
「彼女の前にいるときがだよ。告白したのか?」
「いや・・・してない」

 衝動的に中途半端なことを言ったことはある。
あのときのことを思い出すと顔から火が出そうになるが、カーラの「なれましゅわ」が蘇り、またも顔が赤く染まってしまう。

「ぷっ。おまえ顔真っ赤だぞ!家格はあちらが上だが、一緒に事業もやろうって仲なんだ!自信を持て」
「・・・しかし私は爵位もないし、ダジュールが言うほど事は簡単ではないよ」

 ほーっとため息混じりに、ノアランが呟いた。

 実のところ、マトウ・ローリスの実子と名乗り出れば、ノアランは男爵位とローリス家固有の財産を受けることができるのだが、それについてはよく理解していなかった。



(告白か)

 ひとりになると、ノアランはまたため息をつく。

 店のことで毎日のようにカーラと会うのだが、今ひとつ踏み込むことができずにいた。
間違いなく出生の秘密に足を絡められているのだ。

(ビジネスパートナーなら言わずとも構わないだろうが、この先に、人生のパートナーになりたいなら言わねばならないだろうな)

 自分の出生の秘密を、カーラに打ち明けたいという気持ちと、打ち明けるのが怖いという気持ちと。

 共に過ごす時間が増え、繋がりが強くなり、カーラへの想いが募れば募るほど、激しく心が揺れていた。
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