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恋と仕事と
第2話
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予約できていませんでした。
更新時間が遅れまして、申し訳ありません。
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カフェの端に置かれた、猫足のソファーセットに座ったノアランは、花茶を使った美しいデザートをカーラに差し出した。
「これは?」
「きれいな色を利用するためにゼラチンを使ってみたんです。ぜひお召し上がりください」
カーラが頷くと、エイミがケーキ用のカトラリーと皿を運んできた。
「カット致します」
手際よく切り分けて皿に盛り付け、それぞれの前に置く。
「本当!陽の光が透過して、とても美しいわ。これはどんなデザートですの?」
「ゼラチンというものを花茶で色付けして飾り、その下はペリーとチーズを混ぜて固めたものを敷いてみたんです」
スプーンで掬うと、ぷるぷると揺れるのが可愛らしいとカーラの乙女心も揺れた。
「食感もふるふるですのね!花の香りがくちのなかに広がりますわ!」
鼻腔も、甘やかな香りが満たしていく。
「これ、女性は好きになると思います!」
「本当に?そう思われますか」
「ええ、間違いなく。茶会にも良さそうです。一口大にスプーンにのせてもよさそうだわ」
カーラは、思いつくことを片っ端から口にしていく。
「これって、どうやってお作りになりましたの?あ、訊いてはいけなかったかしら!でもこれを抜き型で可愛らしくカットしたら、皆さんお喜びになると思ったのですわ」
そんなカーラを、ノアランは熱い視線で見つめ返した。
「これを作るのはさほど難しくはないんです。実はコーテズで泊まっている宿の厨房を借りて、うちのパティシエが作ったものなんですよ」
「まあ!あの、もしよろしければなのですが」
レシピを売ってくれと言いかけたが、口から出たのは別のこと。
「・・・あの、よろしければなのですが、一緒にスイーツの店を出しませんこと?」
「え」
「あっ、あの」
一度口から出た言葉を取り消すことはできない。
(わ、わたくしったらなななにを言ってるの!そうじゃなくて)
焦りを隠しながら、軌道を修正しようとしたのだが、ノアランに先手を打たれてしまう。
「ともに店というと、このカフェで出すのではく?」
「あの、いえ、えーと・・・ここは男性には入りづらいかと思いまして。スイーツショップは別のところにして、ここでもそこのスイーツをお召し上がり頂けるようにしたらどうかと」
どんどんと話が明後日の方向へ転がっていく。
そしてついに引っ込みがつかなくなった。
ノアランが言ったのだ。
「いいですね!私もカーラ様と共に店をやりたいです」と。
(悪くはないけど、でも、そういう話をしたかったわけじゃ)
自分のしくじりに戸惑う間もなく、急にやる気全開になったノアランが畳み掛けてきた。
「ではまず事業計画を立てつつ、パティシエを探しましょう!ヴァーミルの屋敷はパティシエ二人しかいないので、こちらに常駐させることはできませんので。事業資金は折半にしますか?店の名前はどうしましょう?
あ!店頭販売のみにしますか?それとも店内飲食可能に致しましょうか?商品のラインナップはパティシエが決まってから共に考えることにして」
こんなにも勢い込んで話すノアランを初めて見たなどとぼんやりして、一向に考えがまとまらずにはくはくと空気を吸っているうち、話がどんどん具体的に進んでいってしまい、最後にはまだ店すらないのに利益の分け方までノアランと決めていた。
「暫くはカーラ様はお忙しいでしょうから、パティシエの募集や店探しは私がやりましょう」
すっかりノアランのペースになっている。
それまではいつもカーラが仕切っていたのに、今は、ノアランに手を引かれているような。
(こういうのも悪くないかも)
幼少から公爵令嬢としてなんでも出来ることが当たり前と言われる立場だったカーラ。
人に知られぬよう歯を食いしばって努力を重ね、プレッシャーを跳ね除けようと足を踏みしめ、頑張ってきたカーラにそれは初めての経験だった。
更新時間が遅れまして、申し訳ありません。
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カフェの端に置かれた、猫足のソファーセットに座ったノアランは、花茶を使った美しいデザートをカーラに差し出した。
「これは?」
「きれいな色を利用するためにゼラチンを使ってみたんです。ぜひお召し上がりください」
カーラが頷くと、エイミがケーキ用のカトラリーと皿を運んできた。
「カット致します」
手際よく切り分けて皿に盛り付け、それぞれの前に置く。
「本当!陽の光が透過して、とても美しいわ。これはどんなデザートですの?」
「ゼラチンというものを花茶で色付けして飾り、その下はペリーとチーズを混ぜて固めたものを敷いてみたんです」
スプーンで掬うと、ぷるぷると揺れるのが可愛らしいとカーラの乙女心も揺れた。
「食感もふるふるですのね!花の香りがくちのなかに広がりますわ!」
鼻腔も、甘やかな香りが満たしていく。
「これ、女性は好きになると思います!」
「本当に?そう思われますか」
「ええ、間違いなく。茶会にも良さそうです。一口大にスプーンにのせてもよさそうだわ」
カーラは、思いつくことを片っ端から口にしていく。
「これって、どうやってお作りになりましたの?あ、訊いてはいけなかったかしら!でもこれを抜き型で可愛らしくカットしたら、皆さんお喜びになると思ったのですわ」
そんなカーラを、ノアランは熱い視線で見つめ返した。
「これを作るのはさほど難しくはないんです。実はコーテズで泊まっている宿の厨房を借りて、うちのパティシエが作ったものなんですよ」
「まあ!あの、もしよろしければなのですが」
レシピを売ってくれと言いかけたが、口から出たのは別のこと。
「・・・あの、よろしければなのですが、一緒にスイーツの店を出しませんこと?」
「え」
「あっ、あの」
一度口から出た言葉を取り消すことはできない。
(わ、わたくしったらなななにを言ってるの!そうじゃなくて)
焦りを隠しながら、軌道を修正しようとしたのだが、ノアランに先手を打たれてしまう。
「ともに店というと、このカフェで出すのではく?」
「あの、いえ、えーと・・・ここは男性には入りづらいかと思いまして。スイーツショップは別のところにして、ここでもそこのスイーツをお召し上がり頂けるようにしたらどうかと」
どんどんと話が明後日の方向へ転がっていく。
そしてついに引っ込みがつかなくなった。
ノアランが言ったのだ。
「いいですね!私もカーラ様と共に店をやりたいです」と。
(悪くはないけど、でも、そういう話をしたかったわけじゃ)
自分のしくじりに戸惑う間もなく、急にやる気全開になったノアランが畳み掛けてきた。
「ではまず事業計画を立てつつ、パティシエを探しましょう!ヴァーミルの屋敷はパティシエ二人しかいないので、こちらに常駐させることはできませんので。事業資金は折半にしますか?店の名前はどうしましょう?
あ!店頭販売のみにしますか?それとも店内飲食可能に致しましょうか?商品のラインナップはパティシエが決まってから共に考えることにして」
こんなにも勢い込んで話すノアランを初めて見たなどとぼんやりして、一向に考えがまとまらずにはくはくと空気を吸っているうち、話がどんどん具体的に進んでいってしまい、最後にはまだ店すらないのに利益の分け方までノアランと決めていた。
「暫くはカーラ様はお忙しいでしょうから、パティシエの募集や店探しは私がやりましょう」
すっかりノアランのペースになっている。
それまではいつもカーラが仕切っていたのに、今は、ノアランに手を引かれているような。
(こういうのも悪くないかも)
幼少から公爵令嬢としてなんでも出来ることが当たり前と言われる立場だったカーラ。
人に知られぬよう歯を食いしばって努力を重ね、プレッシャーを跳ね除けようと足を踏みしめ、頑張ってきたカーラにそれは初めての経験だった。
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