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コーテズにて
第11話
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待ち侘びたカーラの元に、ルブがドレスとスケッチ帳を持ち帰ってからが大変だった。
「これをその彼女が考えて縫ったというの?スケッチ帳も貸してくれたの?早く見せて」
スケッチ帳を覗き込むのはカーラとトイル。パラパラとページを捲るたびに歓声があがる。
ナラとエイミは持ち込まれたドレスを吊るし、縫製などの検分を始めていた。
「もっと上質な素材で縫わせてみたいですね」
「そうね。お針子さんの手当ではサンプルドレスを縫うのも大変でしょうから。こちらから素材を提供して縫わせてみましょう」
そんな声が聞こえ、カーラが顔を覗かせる。
「縫製はどうかしら」
「ええ。さすがに高級アトリエにいただけあって、細かく一定間隔で目を揃えてますし、裁断や糸の篝方もとてもよいと思います」
厳しいナラが褒める腕前だとわかり、カーラは針子が確実に抑えられたとホッと息を吐く。
「スケッチの方はどうですか」
「それがね」
「あら!」
「素敵!」
見せられたナラたちもスケッチ帳に釘付けになった。
持ち込んだルブは、その様子から彼女がカーラの探し人だったのだと遅まきながら気づく。
「ルブ、戻ったばかりで悪いけど、もう一度お使いを頼まれて!」
さっき会ったばかりのヘシーの元へ、また足を向けた。
今度は使用人が使う小さな馬車に乗り、聞いていた午後の臨時仕事が終わるまで、小さな店の前でヘシーを待ち侘びる。
教会の鐘とともに針子たちが店から吐き出されると、ルブは目当ての針子に声をかけた。
「ヘシーさん、先ほどぶりです!」
「まあ、どうなさいましたの、こんなところで」
「貴女を待っていました。主がお会いしたいと申しておりまして」
「ええっ本当に?本当ですか?」
「もしご都合がよろしければ、今からお連れしたいのですが」
ルブはニッコリと笑うと、手で少し離れた馬車を指し示した。
「歩いて行ってもいいんですが、うちの主はあまり気の長い人ではないものですから」
紹介者を介して既に面識があり、仕事の話をしているとはいえ、いきなり迎えに来て馬車に乗れと言われたら警戒するかもしれないと、人の良さそうな顔で言ったルブだが、ヘシーときたら警戒どころかうれしそうに頭を下げる。
「ありがとうございます」
そしていそいそと馬車に向かって歩き出した。
「あ、あのっ」
逆にルブが引き留め、「いいんですか?そんな簡単に乗っちゃって?」と聞いてしまったほど、ヘシーは警戒心が薄かった。
早足で先回りし、馬車の扉を開けて乗せてやると、ヘシーがぺこりとまた頭を下げる。
腰の低い女性だが裏方の経験しかないヘシー。
もしカーラの店に立ち、接客もすることになるなら、あまりにへりくだってペコペコしないようにマナーを教えたほうが良さそうだと、ルブは妙にヘシーが気になり、心配でたまらなくなった。
それが特別な想いの始まりだとルブが気づくのは、まだかなり先のお話し。
「これをその彼女が考えて縫ったというの?スケッチ帳も貸してくれたの?早く見せて」
スケッチ帳を覗き込むのはカーラとトイル。パラパラとページを捲るたびに歓声があがる。
ナラとエイミは持ち込まれたドレスを吊るし、縫製などの検分を始めていた。
「もっと上質な素材で縫わせてみたいですね」
「そうね。お針子さんの手当ではサンプルドレスを縫うのも大変でしょうから。こちらから素材を提供して縫わせてみましょう」
そんな声が聞こえ、カーラが顔を覗かせる。
「縫製はどうかしら」
「ええ。さすがに高級アトリエにいただけあって、細かく一定間隔で目を揃えてますし、裁断や糸の篝方もとてもよいと思います」
厳しいナラが褒める腕前だとわかり、カーラは針子が確実に抑えられたとホッと息を吐く。
「スケッチの方はどうですか」
「それがね」
「あら!」
「素敵!」
見せられたナラたちもスケッチ帳に釘付けになった。
持ち込んだルブは、その様子から彼女がカーラの探し人だったのだと遅まきながら気づく。
「ルブ、戻ったばかりで悪いけど、もう一度お使いを頼まれて!」
さっき会ったばかりのヘシーの元へ、また足を向けた。
今度は使用人が使う小さな馬車に乗り、聞いていた午後の臨時仕事が終わるまで、小さな店の前でヘシーを待ち侘びる。
教会の鐘とともに針子たちが店から吐き出されると、ルブは目当ての針子に声をかけた。
「ヘシーさん、先ほどぶりです!」
「まあ、どうなさいましたの、こんなところで」
「貴女を待っていました。主がお会いしたいと申しておりまして」
「ええっ本当に?本当ですか?」
「もしご都合がよろしければ、今からお連れしたいのですが」
ルブはニッコリと笑うと、手で少し離れた馬車を指し示した。
「歩いて行ってもいいんですが、うちの主はあまり気の長い人ではないものですから」
紹介者を介して既に面識があり、仕事の話をしているとはいえ、いきなり迎えに来て馬車に乗れと言われたら警戒するかもしれないと、人の良さそうな顔で言ったルブだが、ヘシーときたら警戒どころかうれしそうに頭を下げる。
「ありがとうございます」
そしていそいそと馬車に向かって歩き出した。
「あ、あのっ」
逆にルブが引き留め、「いいんですか?そんな簡単に乗っちゃって?」と聞いてしまったほど、ヘシーは警戒心が薄かった。
早足で先回りし、馬車の扉を開けて乗せてやると、ヘシーがぺこりとまた頭を下げる。
腰の低い女性だが裏方の経験しかないヘシー。
もしカーラの店に立ち、接客もすることになるなら、あまりにへりくだってペコペコしないようにマナーを教えたほうが良さそうだと、ルブは妙にヘシーが気になり、心配でたまらなくなった。
それが特別な想いの始まりだとルブが気づくのは、まだかなり先のお話し。
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