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夢は交錯する
第21話
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キャメイリアも生温かい目で息子を見守った。
キャメイリアはずっと怖れていた。
いつかマトウがこどもを取り戻しに来るのではないかと。
真実を知ったノアランが、ヤーリッツとは血が繋がらないのだからとマトウの元へ去ってしまうのではないかと。
生まれて2週間もしないノアランを隠してローリスから帰った日、偶然にも同窓生のヤーリッツと出逢うことができた。
互いに顔を見知ったくらいだったが、事情を訊ねたヤーリッツに堰を切ったように泣きながら話すと、静かに頷きながら聞いたヤーリッツはすぐ、ヴァーミル邸の敷地の奥にある離れにキャメイリアとノアランを匿ってくれたのだ。
ローリスから着いて間もないときで、人目に触れることも殆ど無いまま、ひっそりと隠されたキャメイリア。
シルベスとコーテズの発音の違いにも気づかなかったマトウとその一派は、それ故キャメイリアとノアランを見つけることはできなかった。
ヤーリッツに保護されたキャメイリアとノアランは当初はごく普通のお客様だった。
しかし、奥まった離れと言っても一つの敷地にいたことで、散歩に出たキーシュに見つかり、何故かキーシュはキャメイリアを母だと思い込んだ。
「とーしゃ!かーしゃいたの!あかしゃんと!おとーとうまれたの?」
その少し前、病に倒れたキーシュの実母は儚く空へ還っていたのだが、2歳にもならない幼すぎたキーシュには理解できなかった。
療養していてなかなか会うことが叶わなかったため、顔もうろ覚え。
そこに生まれて間もない赤ん坊を抱いた女性が現れたのだ。それが母と弟だと思い込んだキーシュを不憫に思い、誰も止めることができないまま、毎日キャメイリアとノアランの元に通うようになってしまった。
キャメイリアは最初は酷く戸惑った。
見ず知らず・・・いや、顔を見る限り、幼かったヤーリッツはこんなだったろうとわかるのだが、小さな男の子が「かーしゃ!」と言って抱きついてくるのだから。
しかしノアランの手を握り「おとーとかあいいね」とうれしそうに頭を撫でる姿を見て、謝罪に訪れたヤーリッツの話を聞いてから、いつしかキーシュもこどもとして受け入れていた。
朝から晩までキャメイリアに張り付き、本邸に戻ろうとしないキーシュを毎日迎えに来るヤーリッツと、心が通い合うようになるのに時間はかからず。
「もしできたらなのだが、キーシュの本当の母に・・・私の妻になってもらえないだろうか?私もノアの父になりたい・・・。ふたりをずっと守り続けると神に誓いたいんだ」
キャメイリアはやさしく微笑み頷いて、ヴァーミル侯爵夫人に迎え入れられたのだった。
ヤーリッツが二人の秘密をこどもたちに暴露し、家族の絆をより強めたあと、キャメイリアのカーラへの怖れは軽減された。
そこにカーラがヴァーミルにとってどれほどの力となるかをノアランから熱弁され、今日の食事会に繋がったのだが。
キャメイリアの支度中に早く訪れたカーラから齎されたマトウの話を聞き、本当にノアランはコーテズから、ローリス辺境伯から解放されたと知る。
それはキャメイリアにとり、あらゆる憂いが溶けて消えていくような、晴れやかで幸せに満ち足りた瞬間だった。
キャメイリアはずっと怖れていた。
いつかマトウがこどもを取り戻しに来るのではないかと。
真実を知ったノアランが、ヤーリッツとは血が繋がらないのだからとマトウの元へ去ってしまうのではないかと。
生まれて2週間もしないノアランを隠してローリスから帰った日、偶然にも同窓生のヤーリッツと出逢うことができた。
互いに顔を見知ったくらいだったが、事情を訊ねたヤーリッツに堰を切ったように泣きながら話すと、静かに頷きながら聞いたヤーリッツはすぐ、ヴァーミル邸の敷地の奥にある離れにキャメイリアとノアランを匿ってくれたのだ。
ローリスから着いて間もないときで、人目に触れることも殆ど無いまま、ひっそりと隠されたキャメイリア。
シルベスとコーテズの発音の違いにも気づかなかったマトウとその一派は、それ故キャメイリアとノアランを見つけることはできなかった。
ヤーリッツに保護されたキャメイリアとノアランは当初はごく普通のお客様だった。
しかし、奥まった離れと言っても一つの敷地にいたことで、散歩に出たキーシュに見つかり、何故かキーシュはキャメイリアを母だと思い込んだ。
「とーしゃ!かーしゃいたの!あかしゃんと!おとーとうまれたの?」
その少し前、病に倒れたキーシュの実母は儚く空へ還っていたのだが、2歳にもならない幼すぎたキーシュには理解できなかった。
療養していてなかなか会うことが叶わなかったため、顔もうろ覚え。
そこに生まれて間もない赤ん坊を抱いた女性が現れたのだ。それが母と弟だと思い込んだキーシュを不憫に思い、誰も止めることができないまま、毎日キャメイリアとノアランの元に通うようになってしまった。
キャメイリアは最初は酷く戸惑った。
見ず知らず・・・いや、顔を見る限り、幼かったヤーリッツはこんなだったろうとわかるのだが、小さな男の子が「かーしゃ!」と言って抱きついてくるのだから。
しかしノアランの手を握り「おとーとかあいいね」とうれしそうに頭を撫でる姿を見て、謝罪に訪れたヤーリッツの話を聞いてから、いつしかキーシュもこどもとして受け入れていた。
朝から晩までキャメイリアに張り付き、本邸に戻ろうとしないキーシュを毎日迎えに来るヤーリッツと、心が通い合うようになるのに時間はかからず。
「もしできたらなのだが、キーシュの本当の母に・・・私の妻になってもらえないだろうか?私もノアの父になりたい・・・。ふたりをずっと守り続けると神に誓いたいんだ」
キャメイリアはやさしく微笑み頷いて、ヴァーミル侯爵夫人に迎え入れられたのだった。
ヤーリッツが二人の秘密をこどもたちに暴露し、家族の絆をより強めたあと、キャメイリアのカーラへの怖れは軽減された。
そこにカーラがヴァーミルにとってどれほどの力となるかをノアランから熱弁され、今日の食事会に繋がったのだが。
キャメイリアの支度中に早く訪れたカーラから齎されたマトウの話を聞き、本当にノアランはコーテズから、ローリス辺境伯から解放されたと知る。
それはキャメイリアにとり、あらゆる憂いが溶けて消えていくような、晴れやかで幸せに満ち足りた瞬間だった。
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