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夢は交錯する

第16話

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「ねえトイル、ディルドラができるという花のようなヘアスタイルって、本当にディルドラしかできないの?弟子はいないのかしら?あなたそれを見たことがあるのよね?」
「見たことはあります、かなり難しい技術ですわ」
「そう・・・。ねえ、ディルドラに師匠のような人はいないのかしら?」

 何気なく閃いたカーラの言葉に、トイルは「あ!」と気がついた。

「そういえばディルドラ先輩はもともとエレンド伯爵家にいたはずです」
「ではヴァーミル侯爵様にご紹介頂けないか聞いてみようかしら」
「紹介してもらってどうなさるのです?」
「その人にトイルを教えてもらうか、または引き抜く!」

「エレンド伯爵様にお目にかかったら、その侍女に紹介してもらうおつもりでしょ?その方を引き抜いたら、ヴァーミル侯爵様のお顔を潰すのではありませんか?」
「だから、すぐに引き抜いたりはしなーい」

 ふふふっと、何とも楽しそうにカーラが笑う。

「時間をかけてほとぼりが冷めた頃に引き抜けばいいのよ」

 ─黒い・・・─

 口にしなかったエイミは、心のなかで自分を褒めた。





 せっかく美しく編み上げた髪を湯浴み前に解したときの、カーラの悲しそうなこと。
 しかし髪を洗うためには仕方ない。
 ナラとエイミもトイルと一緒に解きながら、ディルドラの技術の痕跡を確かめる。
トリートメントされてよく梳かれた髪は、まったく絡むこともなく、するすると解れていく。
 細部まで気遣われたディルドラの編み込みは、あっという間にすとんと伸びてしまった。

「カーラ様の御髪ってさらさらの髪で、いつもは羨ましいと思うのですけど、今は残念でなりませんわ」

 ナラが解けた髪を名残惜しそうに撫でた。
そのナラとエイミも編み上げた髪を纏めている。

「私が髪を下ろすときは、トイルがやってくれる?」

 顔を見合わせた護衛侍女たちは、どう編み込みされているのか確認するのをトイルに任せたようだ。
 トイルも頷いて、やる気を見せた。




 ─ディルドラのような髪結いができる者を探せたら、コーテズでヘアサロンを任せてもいいわね。花のようなまとめ髪が出来なくても、あのシャボンとオイルトリートメントだけで十分やれると思うし─


 ディルドラのオイルトリートメントは湯浴みの際に侍女たちがやるのと何が違うのだろうと思ったが、服を着たままでも髪を洗え、つやつやさらさらの髪を手にすることができるのは例えばタウンハウスを持たない爵位の低い貴族の夫人や令嬢たちなら、たまに王都に来たときの贅沢に丁度いいだろう。
 タウンハウスを持っていても、城の夜会に出なければならないとき、田舎貴族の侍女ではたかが知れている。実際カーラも、随分と時代遅れのまとめ髪で夜会に現れる令嬢を見たことが何度もあった。

 ─例えば出先でドレスを着替えなければならないとき、ドレスや靴もトータルコーディネートで借りられて、ヘアメイクまでできるサロンはどう?─

「あーっ!話が大きくなりすぎてるわ」

 カーラは叫び声を上げたあと、布団を被った。
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