上 下
66 / 149
夢は交錯する

第9話

しおりを挟む
「「えっ!にせもの?」」

 父子は声を揃えて反応した。

「あの、偽物ってどうしてわかったんですか?」
「私がローリスに滞在した際、本当のノーラン様を、あ、ノーラン様は婚約者だった方のお名前なのですが、彼を診たことのあるお医者様がいらして、髪色などが全く違ったのですわ」

 てっきり自分たちの書状だと拳を握りかけたのに、それより前から気がついていたようだと知って、ヤーリッツはちょっとだけ残念に思った。

「そういえば婚約者のご母堂様はシルベスの方らしく、銀髪に菫のような瞳の色だったそうですの。そういえばノアラン様も銀髪に菫色の瞳ですわね!」
「あ、ああ!でもシルベスでは珍しい色ではないですよ」

 ノアランは言い訳し、視線を反らす。

「そうなのですね!」
「それで?」

 さり気なくヤーリッツが先を促した。

「ええ、女医の記録がございましたので、それを陛下にお届けし、ご判断を仰ぎましたの」

 ─そうだったのか。では─

 ヤーリッツとノアランが己の考えに沈むより早く、カーラは話を続けていく。

「陛下は偽のノーラン様を詰問されたそうです。すると別人だとすぐに告白したのですって」
「それは偽物が息子だと辺境伯を騙していたのかね?」
「いいえ、ローリス辺境伯がご子息を見失ったことを何年も隠蔽され、行方不明を知らずに召喚された陛下を欺くため、身代わりになる者を探して連れて行ったそうです」

「それが、真実?ええっ!」
「まさか!そんな愚か者が辺境伯なんて嘘だろう」

 父子の胸中は酷く乱れていた。

 ─そんな愚か者が私の父だなんて、信じたくない─

と、泣きたくなったノアラン。

 ─そんな愚か者が父だなんてかわいそう過ぎる!しかしノアは聡明な母親似だ、間違いない─

 そうは思うが、どうやって息子を慰めようかと悩むヤーリッツ。

「そういえば、ちょうどその頃我がシーズンの屋敷に不思議な手紙が届きましたのよ」

 父子はハッとした。

「ノーラン様は偽物だと告発する、御本人からと思われるお手紙でしたの」
「そ、その手紙はどうなさったのです?」
「勿論それも陛下にお届けしましたわ」
「コーテズの国王陛下はそれをどうなさったのです?辺境伯の実の息子が現れたらどうすると?」

 カーラが話し終えるのを待てず、食い気味にヤーリッツが押していく。

「ええ、コーテズ国内では既に公示されたのですが、陛下は真のノーラン様が現れても連座は問わないということ。
それとノーラン様の御祖母様と曾祖母様が持参された財産と領地、保有されていた男爵位をお渡しすると。

でも他国にいらっしゃるから、コーテズでお触れが出たとはご存知ないのでしょうね、静かに暮らしたいと手紙にございましたの」

 ノアランは、あまりの情報量に目をぱちくりとまばたきを繰り返していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

推しの負けヒロインの親友ポジに転生したので全力で推しを勝たせたいと思います!

むこう
恋愛
普通の女子大生だった私、天童雅には、心から愛する異世界恋愛小説のキャラクターがいた。 名前はリリア。リリアは「負けヒロイン」──正ヒロインに王子様を奪われ、幸せを掴めない彼女。 しかしドジっ子で自信がないけれど、何事にも一生懸命な彼女に私は惹かれていた。 そんなある日、彼女のフィギュアを手に入れて大満足で家に帰る途中、突然の事故に遭い気がつけばその物語の中に転生していた!しかも、私は彼女の親友ポジションのキャラクターに転生していたのだ。 これはもう、神様が私に与えたチャンスかもしれない!大好きな彼女を勝たせるために、私は彼女を全力でサポートし、毎日彼女を褒めちぎって自己肯定感を高める作戦に出る!二人で一緒に王子様を目指し、正ヒロインに挑む日々が始まる──! 彼女が幸せになれる未来を、私が創ってみせる!

とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと

未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。 それなのにどうして連絡してくるの……?

好き。ずっと。

野兎 いちご
恋愛
幼稚園からの幼馴染の男の子。 同い年の男の子。 大好き。大好き大好き大好き。 でも、あの子は私の事別に好きじゃないみたい? 私の気持ち、知ってるくせに。 でもいいの。そんなあなたが好きだから。

single tear drop

ななもりあや
BL
兄だと信じていたひとに裏切られた未知。 それから3年後。 たった一人で息子の一太を育てている未知は、ある日、ヤクザの卯月遥琉と出会う。 素敵な表紙絵は絵師の佐藤さとさ様に描いていただきました。 一度はチャレンジしたかったBL大賞に思いきって挑戦してみようと思います。 よろしくお願いします

【完結】小国の婚約破棄騒動とその行方

かのん
恋愛
 これは少し普通とは違う婚約破棄騒動のお話。  婚約破棄の真相と、運命に翻弄される小国の少女の勇敢な決断のお話。  ハッピーエンドかは、人それぞれの解釈によるかもしれません。コメディ要素が今回はありませんので、それでもかまわない方は読んで下さい。  一話完結です。

処理中です...