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ローリスの秘密

第8話

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 カーラ一行の馬車は、ローリス家に疑われることもなくシーズン公爵家に辿り着いた。
 五日の旅程だったが工夫を凝らし、半日以上早く帰館したのだ。

「カーラ!」

 父ビルスが待ち受けていた。

「手短にするのですぐ話せるか?」
「はい、大丈夫ですわ」

 本当はくたくただが、まずは重要なことだけ擦り合わせてから休めばいいと、父について執務室に入る。

「よく無事に帰ってきた!」

 こどもの頃のように娘の額にキスをした父親は、落ち着いたアースカラーのソファを勧めると、ボビンが届けたいくつかの資料をテーブルに広げた。

「これなんだが、よく手に入ったな」
「ええ、運が良かったのですわ。王都やシーズンの医師なら患者の秘密をペラペラ話すような者はおりませんもの。辺境のような医師が少なく、先生と崇められていろいろ許されてしまう風土があったからこそですわね」

 カーラの言葉で辺境の医療レベルが想像でき、ビルスは額に皺を寄せた。

「そんなお顔なさらないで、お父様。お喋りで秘密を秘密とも思わない医者でも、人を助ける一助にはなっておりますのよ」

 褒めているのか貶しているのか。

「今、陛下が本当のノーランを捜させている」
「左様でございますか。でもローリス様が散々捜して見つからなかったから、あの偽物がいるのではございませんか」
「ああ、そうなんだがな」

 もっと、いなくなったばかりの頃に王家が捜せば容易に見つけられただろうと思うと、ビルスはマトウ・ローリスの顔面に一発食らわせてやりたくなった。

「そういえばシルベスからやたらと手紙や荷物が届いているようだったぞ」
「っ!」
「シルベスに知人などいたのか?」
「知り合ったのですわ!待たされている間に旅行に参りましたの。そこで素晴らしい商品を見つけたので、自分で商会でも起こそうかなって思っておりますのよ」

 シビアな空気が一気に緩む。

「おい、なんだその話は初耳だぞ」
「ええ、初めて話しましたもの。
それがですね、すっごーく素晴らしいお品ですの!絶対に売れるものですから、ご安心くださいませ」
「いや、別におまえのことだから失敗するとは思わぬが、そうなった経緯くらいは聞かせてくれ」

 公爵家という立場のため、少しでも縁がほしいと来る烏合の衆の中には、いかにも良い顔を見せつつ腹黒い者も多い。
 若い頃はビルスにも、少しくらいなら利用されてもいいと思っていた時代があったが、ある出来事から人の業の深さを知り、以来徹底的に排除している。
 結果はもちろんだが、そこに辿り着くための始まりや経緯に不審な点は無いかも知ることが大切だと考えるようになっていた。
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