44 / 149
ローリスの秘密
第8話
しおりを挟む
カーラ一行の馬車は、ローリス家に疑われることもなくシーズン公爵家に辿り着いた。
五日の旅程だったが工夫を凝らし、半日以上早く帰館したのだ。
「カーラ!」
父ビルスが待ち受けていた。
「手短にするのですぐ話せるか?」
「はい、大丈夫ですわ」
本当はくたくただが、まずは重要なことだけ擦り合わせてから休めばいいと、父について執務室に入る。
「よく無事に帰ってきた!」
こどもの頃のように娘の額にキスをした父親は、落ち着いたアースカラーのソファを勧めると、ボビンが届けたいくつかの資料をテーブルに広げた。
「これなんだが、よく手に入ったな」
「ええ、運が良かったのですわ。王都やシーズンの医師なら患者の秘密をペラペラ話すような者はおりませんもの。辺境のような医師が少なく、先生と崇められていろいろ許されてしまう風土があったからこそですわね」
カーラの言葉で辺境の医療レベルが想像でき、ビルスは額に皺を寄せた。
「そんなお顔なさらないで、お父様。お喋りで秘密を秘密とも思わない医者でも、人を助ける一助にはなっておりますのよ」
褒めているのか貶しているのか。
「今、陛下が本当のノーランを捜させている」
「左様でございますか。でもローリス様が散々捜して見つからなかったから、あの偽物がいるのではございませんか」
「ああ、そうなんだがな」
もっと、いなくなったばかりの頃に王家が捜せば容易に見つけられただろうと思うと、ビルスはマトウ・ローリスの顔面に一発食らわせてやりたくなった。
「そういえばシルベスからやたらと手紙や荷物が届いているようだったぞ」
「っ!」
「シルベスに知人などいたのか?」
「知り合ったのですわ!待たされている間に旅行に参りましたの。そこで素晴らしい商品を見つけたので、自分で商会でも起こそうかなって思っておりますのよ」
シビアな空気が一気に緩む。
「おい、なんだその話は初耳だぞ」
「ええ、初めて話しましたもの。
それがですね、すっごーく素晴らしいお品ですの!絶対に売れるものですから、ご安心くださいませ」
「いや、別におまえのことだから失敗するとは思わぬが、そうなった経緯くらいは聞かせてくれ」
公爵家という立場のため、少しでも縁がほしいと来る烏合の衆の中には、いかにも良い顔を見せつつ腹黒い者も多い。
若い頃はビルスにも、少しくらいなら利用されてもいいと思っていた時代があったが、ある出来事から人の業の深さを知り、以来徹底的に排除している。
結果はもちろんだが、そこに辿り着くための始まりや経緯に不審な点は無いかも知ることが大切だと考えるようになっていた。
五日の旅程だったが工夫を凝らし、半日以上早く帰館したのだ。
「カーラ!」
父ビルスが待ち受けていた。
「手短にするのですぐ話せるか?」
「はい、大丈夫ですわ」
本当はくたくただが、まずは重要なことだけ擦り合わせてから休めばいいと、父について執務室に入る。
「よく無事に帰ってきた!」
こどもの頃のように娘の額にキスをした父親は、落ち着いたアースカラーのソファを勧めると、ボビンが届けたいくつかの資料をテーブルに広げた。
「これなんだが、よく手に入ったな」
「ええ、運が良かったのですわ。王都やシーズンの医師なら患者の秘密をペラペラ話すような者はおりませんもの。辺境のような医師が少なく、先生と崇められていろいろ許されてしまう風土があったからこそですわね」
カーラの言葉で辺境の医療レベルが想像でき、ビルスは額に皺を寄せた。
「そんなお顔なさらないで、お父様。お喋りで秘密を秘密とも思わない医者でも、人を助ける一助にはなっておりますのよ」
褒めているのか貶しているのか。
「今、陛下が本当のノーランを捜させている」
「左様でございますか。でもローリス様が散々捜して見つからなかったから、あの偽物がいるのではございませんか」
「ああ、そうなんだがな」
もっと、いなくなったばかりの頃に王家が捜せば容易に見つけられただろうと思うと、ビルスはマトウ・ローリスの顔面に一発食らわせてやりたくなった。
「そういえばシルベスからやたらと手紙や荷物が届いているようだったぞ」
「っ!」
「シルベスに知人などいたのか?」
「知り合ったのですわ!待たされている間に旅行に参りましたの。そこで素晴らしい商品を見つけたので、自分で商会でも起こそうかなって思っておりますのよ」
シビアな空気が一気に緩む。
「おい、なんだその話は初耳だぞ」
「ええ、初めて話しましたもの。
それがですね、すっごーく素晴らしいお品ですの!絶対に売れるものですから、ご安心くださいませ」
「いや、別におまえのことだから失敗するとは思わぬが、そうなった経緯くらいは聞かせてくれ」
公爵家という立場のため、少しでも縁がほしいと来る烏合の衆の中には、いかにも良い顔を見せつつ腹黒い者も多い。
若い頃はビルスにも、少しくらいなら利用されてもいいと思っていた時代があったが、ある出来事から人の業の深さを知り、以来徹底的に排除している。
結果はもちろんだが、そこに辿り着くための始まりや経緯に不審な点は無いかも知ることが大切だと考えるようになっていた。
0
お気に入りに追加
409
あなたにおすすめの小説
迅英の後悔ルート
いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。
この話だけでは多分よく分からないと思います。
えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
推しの負けヒロインの親友ポジに転生したので全力で推しを勝たせたいと思います!
むこう
恋愛
普通の女子大生だった私、天童雅には、心から愛する異世界恋愛小説のキャラクターがいた。
名前はリリア。リリアは「負けヒロイン」──正ヒロインに王子様を奪われ、幸せを掴めない彼女。
しかしドジっ子で自信がないけれど、何事にも一生懸命な彼女に私は惹かれていた。
そんなある日、彼女のフィギュアを手に入れて大満足で家に帰る途中、突然の事故に遭い気がつけばその物語の中に転生していた!しかも、私は彼女の親友ポジションのキャラクターに転生していたのだ。
これはもう、神様が私に与えたチャンスかもしれない!大好きな彼女を勝たせるために、私は彼女を全力でサポートし、毎日彼女を褒めちぎって自己肯定感を高める作戦に出る!二人で一緒に王子様を目指し、正ヒロインに挑む日々が始まる──!
彼女が幸せになれる未来を、私が創ってみせる!
とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと
未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。
それなのにどうして連絡してくるの……?
好き。ずっと。
野兎 いちご
恋愛
幼稚園からの幼馴染の男の子。
同い年の男の子。
大好き。大好き大好き大好き。
でも、あの子は私の事別に好きじゃないみたい?
私の気持ち、知ってるくせに。
でもいいの。そんなあなたが好きだから。
single tear drop
ななもりあや
BL
兄だと信じていたひとに裏切られた未知。
それから3年後。
たった一人で息子の一太を育てている未知は、ある日、ヤクザの卯月遥琉と出会う。
素敵な表紙絵は絵師の佐藤さとさ様に描いていただきました。
一度はチャレンジしたかったBL大賞に思いきって挑戦してみようと思います。
よろしくお願いします
【完結】小国の婚約破棄騒動とその行方
かのん
恋愛
これは少し普通とは違う婚約破棄騒動のお話。
婚約破棄の真相と、運命に翻弄される小国の少女の勇敢な決断のお話。
ハッピーエンドかは、人それぞれの解釈によるかもしれません。コメディ要素が今回はありませんので、それでもかまわない方は読んで下さい。
一話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる