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ローリスの秘密

第3話

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 ボビンは近くに干してあった、少し汚れの残る上着を肩にかけ、頭をボサボサにすると、しゃがみこんで土に触れた手で顔を汚す。

「じゃあ行ってくる、いい子で待っていてくれよ」

 大木に繋いだ馬の尻をポンポンと叩いて角砂糖を与えると、ボビンは疲れたように背中を丸めて歩き出す。その足は土砂崩れの現場へ向かっていた。









 ボビン・トアラーは、先代シーズン公爵アレオルトが第3王子だった頃から仕えていたイベル・トアラー男爵の孫で、代々影を努めてきた。幼少より徹底的に仕込まれ、齢15からカーラの傍らで過ごしている。
 ある時は御者兼護衛、ある時は探索者として公私に渡りカーラを守り支えているのだ。
 カーラの長所短所を良く知り、痒い所に手が届く男であるが、互いに恋慕の情はまったくない。どちらかと言うと兄妹のような存在か。

 土砂崩れの現場で、ノーランの姿を確認したあと、隠していた馬の元に戻り、飛び乗った。

「ハッ」

 鞭を入れると馬のスピードがあがる。
馬を休ませる以外は休憩を取らず、シーズン領へと駆け抜けて行った。






「ボビン、よく戻った!カーラはどうだ」
「ビルス様、カーラ様は元気にお過ごしになられております」
「何よりだ。ところで戻ってきたのはこの前の書状の件か?」
「はい、しかし新たな真実に辿り着き、ビルス様のご判断を仰ぎたく戻りました」
「聞こう!」


 ビルスの側にはボビンの父ケイル・トアラーが控え、目線で合図を交わした。

「こちらが入手したものです」
「なんだ?その汚いものは」
「はい、それはローリスの奥方様だったカメリア様の、ノーラン様出産の記録です」
「何っ!」

 ビルスは引ったくるように読み漁り、末頁にたどり着く前に、怒りのあまりその顔は赤黒く染まり始めた。

「これは・・・もちろん本当のことだな」
「はい。紙の黄ばみやインクの変色からも古さがわかるように17年前の物です。ノーラン様の母君のための記録に、たまたまノーラン様の特徴が書かれていたのを偶然見つけました」
「見つけた経緯は?」

 偽造ではないことも確認する。

「ローリスに着いた時に、念のため健康診断を受けたのですが、その医師がよく喋る方で、カーラ様がノーラン様の婚約者だと知るといろいろ教えてくれたのです。当時奥方の産後を診た女医についても教えてくれ、この資料は女医がくれたものでございます」

 読み終えたものをケイルに渡したビルスは、座り込んで何かを考えている。

「赤子の髪色は銀髪で特徴ある黒子がある」
「はい、残念ながらというか、喜ばしいというか、黒目黒髪のノーラン様の右耳たぶには黒子はありませんでした」



 ─マトウ・・・・大変なことをしでかしたな。王命の反故だけでなく、国王を謀るとは─


 考えに沈むビルスにケイルが声をかける。

「して、我らはどう致しましょうか。カーラ様がローリスにいる間に風雲急を告げるような事態になると、カーラ様に危害が及ぶ可能性もございますので、どこかに退避してからの方が」
「平気でこれほど馬鹿げた嘘をつく奴等だ。何をするかまったく読めんから、カーラは一旦シーズンに戻るほうがいいだろう。先代に死んだふりでもしてもらうか?」
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