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シルベスでの出会い
第11話
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カーラの泊まるホテルに、約束どおり、ノアランから招待状が届いたのは翌朝だ。
「カーラ様、昨日の麗しのお方から茶会のお招きがございましたわ」
ナラの言葉に、とてもうれしそうにカーラが振り向く。
「見せて」
翌々日とある。
「すぐお返事を用意するから使者を待たせておいて」
「はいそのように。楽しみですね」
わざわざ訊くこともないのだが、あまりにうれしそうな顔をしたカーラに思わず言ってしまった。
もうカーラが昨日出会ったばかりの素敵な令息に、どんな思いを寄せたかわかってしまう。
王命を果たすのが公爵家に生まれた自分の使命だと、常に自らに言い聞かせ、律しているがまだ17歳なのだ。
決して決められた道を逸脱することはしないだろう、カーラの生まれたての淡い思いに、ナラはツンと来るものがあり、胸をトントンと叩いて誤魔化した。
ノアランの元に使いを返すと、カーラは気持ちを切り替える。
「さあ!トイル、昨日の続きを回りましょう」
今日もルブが荷物持ちにされ、不貞腐れた顔で後ろからついて歩く。
「昨日は結局ヴァーミル様に案内された店になっちゃったから、今日はトイルお勧めの二軒目から行くわよ!」
元気いっぱいのカーラと、体を鍛えているのはヘアピンを大量に持つためではないと、口を尖らせるルブのギャップに、エイミとボビンが笑っていた。
「カーラ様、この店ですわ」
今日の店はカンザシと呼ばれるヘアアクセサリーである。
一本差しのものや数本を組み合わせたもの、造花があしらわれている物など、初めて見る髪飾りにカーラの目が吸い付いている。
「カンザシ?これはどうやって使うものなの?」
一本の棒を、しっとりと艶のある塗料で彩り、小さな石や貝の粉が散らされている。
ぶら下げられているウィッグを手に取ったトイルが器用に指先を動かし、毛束をくるくるりと纏めてそこに簪を差し込んでいく。一本の棒に過ぎないというのに、毛束は丸く安定した。
「へえ!すごいわね」
ナラも興味津々だ。
「二本ならこうして」
もっと安定感が高められた。
「これ、他のところでは見たことがないんですよね。カンザシっていう名前も聞いたことがなくて」
「じゃあ店主に聞いてみましょうよ!」
カーラの行動は早い。
「ごきげんよう!」
店の奥に声をかけると、少し経って老齢の主が漸く姿を現した。
「これはいらっしゃいませ」
一人でやっているのだろうか。
随分と警戒心の薄い店だと、ナラが心配になったほどである。
「ちょっと教えて下さいませんこと?」
「カーラ様、昨日の麗しのお方から茶会のお招きがございましたわ」
ナラの言葉に、とてもうれしそうにカーラが振り向く。
「見せて」
翌々日とある。
「すぐお返事を用意するから使者を待たせておいて」
「はいそのように。楽しみですね」
わざわざ訊くこともないのだが、あまりにうれしそうな顔をしたカーラに思わず言ってしまった。
もうカーラが昨日出会ったばかりの素敵な令息に、どんな思いを寄せたかわかってしまう。
王命を果たすのが公爵家に生まれた自分の使命だと、常に自らに言い聞かせ、律しているがまだ17歳なのだ。
決して決められた道を逸脱することはしないだろう、カーラの生まれたての淡い思いに、ナラはツンと来るものがあり、胸をトントンと叩いて誤魔化した。
ノアランの元に使いを返すと、カーラは気持ちを切り替える。
「さあ!トイル、昨日の続きを回りましょう」
今日もルブが荷物持ちにされ、不貞腐れた顔で後ろからついて歩く。
「昨日は結局ヴァーミル様に案内された店になっちゃったから、今日はトイルお勧めの二軒目から行くわよ!」
元気いっぱいのカーラと、体を鍛えているのはヘアピンを大量に持つためではないと、口を尖らせるルブのギャップに、エイミとボビンが笑っていた。
「カーラ様、この店ですわ」
今日の店はカンザシと呼ばれるヘアアクセサリーである。
一本差しのものや数本を組み合わせたもの、造花があしらわれている物など、初めて見る髪飾りにカーラの目が吸い付いている。
「カンザシ?これはどうやって使うものなの?」
一本の棒を、しっとりと艶のある塗料で彩り、小さな石や貝の粉が散らされている。
ぶら下げられているウィッグを手に取ったトイルが器用に指先を動かし、毛束をくるくるりと纏めてそこに簪を差し込んでいく。一本の棒に過ぎないというのに、毛束は丸く安定した。
「へえ!すごいわね」
ナラも興味津々だ。
「二本ならこうして」
もっと安定感が高められた。
「これ、他のところでは見たことがないんですよね。カンザシっていう名前も聞いたことがなくて」
「じゃあ店主に聞いてみましょうよ!」
カーラの行動は早い。
「ごきげんよう!」
店の奥に声をかけると、少し経って老齢の主が漸く姿を現した。
「これはいらっしゃいませ」
一人でやっているのだろうか。
随分と警戒心の薄い店だと、ナラが心配になったほどである。
「ちょっと教えて下さいませんこと?」
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