上 下
27 / 149
シルベスでの出会い

第11話

しおりを挟む
 カーラの泊まるホテルに、約束どおり、ノアランから招待状が届いたのは翌朝だ。

「カーラ様、昨日の麗しのお方から茶会のお招きがございましたわ」

 ナラの言葉に、とてもうれしそうにカーラが振り向く。

「見せて」

 翌々日とある。

「すぐお返事を用意するから使者を待たせておいて」
「はいそのように。楽しみですね」

 わざわざ訊くこともないのだが、あまりにうれしそうな顔をしたカーラに思わず言ってしまった。
 もうカーラが昨日出会ったばかりの素敵な令息に、どんな思いを寄せたかわかってしまう。
王命を果たすのが公爵家に生まれた自分の使命だと、常に自らに言い聞かせ、律しているがまだ17歳なのだ。
 決して決められた道を逸脱することはしないだろう、カーラの生まれたての淡い思いに、ナラはツンと来るものがあり、胸をトントンと叩いて誤魔化した。


 ノアランの元に使いを返すと、カーラは気持ちを切り替える。

「さあ!トイル、昨日の続きを回りましょう」

 今日もルブが荷物持ちにされ、不貞腐れた顔で後ろからついて歩く。

「昨日は結局ヴァーミル様に案内された店になっちゃったから、今日はトイルお勧めの二軒目から行くわよ!」

 元気いっぱいのカーラと、体を鍛えているのはヘアピンを大量に持つためではないと、口を尖らせるルブのギャップに、エイミとボビンが笑っていた。



「カーラ様、この店ですわ」

 今日の店はカンザシと呼ばれるヘアアクセサリーである。
一本差しのものや数本を組み合わせたもの、造花があしらわれている物など、初めて見る髪飾りにカーラの目が吸い付いている。

「カンザシ?これはどうやって使うものなの?」

 一本の棒を、しっとりと艶のある塗料で彩り、小さな石や貝の粉が散らされている。
 ぶら下げられているウィッグを手に取ったトイルが器用に指先を動かし、毛束をくるくるりと纏めてそこに簪を差し込んでいく。一本の棒に過ぎないというのに、毛束は丸く安定した。

「へえ!すごいわね」

 ナラも興味津々だ。

「二本ならこうして」

 もっと安定感が高められた。

「これ、他のところでは見たことがないんですよね。カンザシっていう名前も聞いたことがなくて」
「じゃあ店主に聞いてみましょうよ!」

 カーラの行動は早い。

「ごきげんよう!」

 店の奥に声をかけると、少し経って老齢の主が漸く姿を現した。

「これはいらっしゃいませ」

 一人でやっているのだろうか。
随分と警戒心の薄い店だと、ナラが心配になったほどである。

「ちょっと教えて下さいませんこと?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

処理中です...