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シルベスでの出会い
第10話
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翌日、ノアランは母が茶会に出かける日を確認し、その不在を狙ってカーラ・シーズンに招待状を用意した。
「しかしどうして母上はあんなにコーテズの方を毛嫌いされるのだろうな」
父は何か知っているようだったが、言うつもりはなさそうだ。口の固さに定評のある父は崩せないと諦め、まず執事のヅーリを捕まえた。
「ノア様、お呼びでしょうか?」
「父上から、母上には秘密の茶会について聞いているか?」
「はい、先程伺いました」
「これをフルフラウホテルに宿泊しているカーラ・シーズン公爵令嬢に届けてもらいたい」
「シーズン公爵?」
「コーテズ王国の方だ」
「・・・・・・・・・あ、ああ!先代王弟が臣籍降下して興された公爵家で御座いますね」
妙な間があったヅーリの反応は不自然だった。
「なあヅーリ、訊きたいことがあるんだ。昨夜母上に御令嬢の話をしたら様子がおかしくなった。コーテズの貴族がヴァーミルに来るなんて裏があるとまで仰って、本当におかしかったんだよ。しかし父上は機嫌が悪いのだろうなどと言って。明らかに何か理由があって、父上も知ってる様子なのに誤魔化すのだ!
ヅーリ、何か知っているなら教えてくれないか?」
真剣に問うたが、執事は何も答えなかった。
「それは私にはわからないことでございます。誤魔化している訳ではございませんよ。本当に知らないのです。私がここに来るより前に何かあったのかもしれませんね」
確かにヅーリは屋敷に来て10年ほど。
それより前から屋敷にいる使用人は・・・と考えると、誰もいないことに気がついた。
─何故だろう?─
普通、これだけ古い貴族家には、それこそ先祖代々同じ家が仕え続けているものなのに。
17歳になって初めて、自分の家にも貴族らしい不可思議な謎があることに気づいてしまった。
─そうだ、兄上が戻られたら聞いてみよう─
ノアランには二つ上の兄キーシュがいる。今は王太子の視察に同行して留守をしているが、あと5日もすれば戻るはずなのだ。
「覚えているといいが」
「何か仰いましたか?」
「いや、何でもない。それより茶会の件だが、そんなに大袈裟なものでなくて良い。仕事の話をしたいので、話の邪魔にならない程度の菓子と、花茶を気に入られたようだから用意しておいてくれ」
「土産はご用意いたしますか?」
「そうだな。では我が地でこれから名産品と呼ばれることになるはずの髪の装飾品を見繕うから商会を呼んでくれ。」
ヅーリは令息の意外な申し出に、彼をじぃっとと見つめたが、気づいていないようだ。普通、女性が身につけるものを贈るのは、例え土産でもそういう仲の時だけであると。
そんな執事の視線を気にすることもなく、ノアランは、きっとどんなものでも喜んでくれるだろうと、凄まじい熱意で小さなピンの素晴らしさを語ったカーラを思い出して微笑んでいた。
「しかしどうして母上はあんなにコーテズの方を毛嫌いされるのだろうな」
父は何か知っているようだったが、言うつもりはなさそうだ。口の固さに定評のある父は崩せないと諦め、まず執事のヅーリを捕まえた。
「ノア様、お呼びでしょうか?」
「父上から、母上には秘密の茶会について聞いているか?」
「はい、先程伺いました」
「これをフルフラウホテルに宿泊しているカーラ・シーズン公爵令嬢に届けてもらいたい」
「シーズン公爵?」
「コーテズ王国の方だ」
「・・・・・・・・・あ、ああ!先代王弟が臣籍降下して興された公爵家で御座いますね」
妙な間があったヅーリの反応は不自然だった。
「なあヅーリ、訊きたいことがあるんだ。昨夜母上に御令嬢の話をしたら様子がおかしくなった。コーテズの貴族がヴァーミルに来るなんて裏があるとまで仰って、本当におかしかったんだよ。しかし父上は機嫌が悪いのだろうなどと言って。明らかに何か理由があって、父上も知ってる様子なのに誤魔化すのだ!
ヅーリ、何か知っているなら教えてくれないか?」
真剣に問うたが、執事は何も答えなかった。
「それは私にはわからないことでございます。誤魔化している訳ではございませんよ。本当に知らないのです。私がここに来るより前に何かあったのかもしれませんね」
確かにヅーリは屋敷に来て10年ほど。
それより前から屋敷にいる使用人は・・・と考えると、誰もいないことに気がついた。
─何故だろう?─
普通、これだけ古い貴族家には、それこそ先祖代々同じ家が仕え続けているものなのに。
17歳になって初めて、自分の家にも貴族らしい不可思議な謎があることに気づいてしまった。
─そうだ、兄上が戻られたら聞いてみよう─
ノアランには二つ上の兄キーシュがいる。今は王太子の視察に同行して留守をしているが、あと5日もすれば戻るはずなのだ。
「覚えているといいが」
「何か仰いましたか?」
「いや、何でもない。それより茶会の件だが、そんなに大袈裟なものでなくて良い。仕事の話をしたいので、話の邪魔にならない程度の菓子と、花茶を気に入られたようだから用意しておいてくれ」
「土産はご用意いたしますか?」
「そうだな。では我が地でこれから名産品と呼ばれることになるはずの髪の装飾品を見繕うから商会を呼んでくれ。」
ヅーリは令息の意外な申し出に、彼をじぃっとと見つめたが、気づいていないようだ。普通、女性が身につけるものを贈るのは、例え土産でもそういう仲の時だけであると。
そんな執事の視線を気にすることもなく、ノアランは、きっとどんなものでも喜んでくれるだろうと、凄まじい熱意で小さなピンの素晴らしさを語ったカーラを思い出して微笑んでいた。
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