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シルベスでの出会い
第8話
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その日は、ノアランに案内された店をまわり、宿まで送ってもらって別れを告げた。
「では改めて招待状を用意致しますので、よろしくお願い致します」
腰を折り、礼をする姿が流れるような美しい動きで、それはボビンでさえも目が吸い付くほど洗練されていて。
「眼福・・・」
エイミがとても小さく呟いたのが聞こえた。
「ヴァーミル様、とっても素敵な方でしたね」
侍女たちは皆、ノアランの虜になったらしい。まるでノアランが空に浮かんでいるように、視線を空に向けてうっとりしている。
「ああいう方がカーラ様の旦那様ならよかったのに」
エイミは特に、ローリス父子を嫌っている。
城で面会したときに連れていたのだが、その印象が悪かったらしい。
実際婚姻となったら、エイミは連れていけないかもしれないとカーラが密かに心配したほどだ。
「そういえば、偽物だとわかれば婚約は解消されるのよね」
少なくともあんな、蛇のように纏わりつく視線の男とは結婚しなくて済む。
次がノアラン・ヴァーミルというわけには行かないけれど。
「早く彼が彼ではないことを証明したいわ!」
それはエイミだけでなく、ナラやトイルも頷いた。
屋敷に戻ったノアランは、夕餉のあと父ヤーリッツ・ヴァーミル侯爵に相談があると持ちかけた。
「コーテズ王国の公爵令嬢が、市井の小さな店のピンを?」
「そうなんです。ものすごく気にいっていて、追加で作って送るようにと頼んだそうで」
「そんなに評価されるような物が、市井にあったのか?」
「私たち男にはわからないことですが、母上ならもしかしたら」
「そうだな、そのピンはあるのか?」
「はい、一本だけですが貰いました」
「ではリアに見てもらおう」
ヴァーミル侯爵夫人キャメイリアが呼ばれると、父子で額をくっつけそうな勢いで話している。
「おお、リア!」
「お呼びになりました?」
「ああ。それ、このピンを見て何か感じることがあったら教えてくれないか」
嫋やかに微笑んだキャメイリアは、ノアランのように大きな子どもがいるようには見えない美しさである。
ふわぁと甘やかな香りを振りまきながら、ノアランが差し出したピンを受け取った。
「これは?」
指先ですぅっと触れたかと思うと自分の髪に挿してみて、あら!と驚いてみせる。
「これ、どうなさいましたの?」
「ノアが街中で見つけたのだよ」
「そう、なんていうか、痛くないの!とっても滑らかだわ」
「もし他のピンよりすごく高かったとしても、母上はこれを買いますか」
ノアランに聞かれたキャメイリアは、迷うこともなく「もちろん」と答えた。
「殿方はお使いにならないからおわかりにならないでしょうね。髪をまとめるピンって」
自分の纏めた髪の中に指先を入れて、しばらくもぞもぞしたと思うと、顔を顰めながら小さなピンを数本と毛束とともに引っ張り出す。
「ここに触れてみて」
キャメイリアが差し出したピンを、ノアランが指の腹でスッと撫でると、アッと漏らした。
「こんなに違うものなのか!」
「では改めて招待状を用意致しますので、よろしくお願い致します」
腰を折り、礼をする姿が流れるような美しい動きで、それはボビンでさえも目が吸い付くほど洗練されていて。
「眼福・・・」
エイミがとても小さく呟いたのが聞こえた。
「ヴァーミル様、とっても素敵な方でしたね」
侍女たちは皆、ノアランの虜になったらしい。まるでノアランが空に浮かんでいるように、視線を空に向けてうっとりしている。
「ああいう方がカーラ様の旦那様ならよかったのに」
エイミは特に、ローリス父子を嫌っている。
城で面会したときに連れていたのだが、その印象が悪かったらしい。
実際婚姻となったら、エイミは連れていけないかもしれないとカーラが密かに心配したほどだ。
「そういえば、偽物だとわかれば婚約は解消されるのよね」
少なくともあんな、蛇のように纏わりつく視線の男とは結婚しなくて済む。
次がノアラン・ヴァーミルというわけには行かないけれど。
「早く彼が彼ではないことを証明したいわ!」
それはエイミだけでなく、ナラやトイルも頷いた。
屋敷に戻ったノアランは、夕餉のあと父ヤーリッツ・ヴァーミル侯爵に相談があると持ちかけた。
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「そうだな、そのピンはあるのか?」
「はい、一本だけですが貰いました」
「ではリアに見てもらおう」
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「おお、リア!」
「お呼びになりました?」
「ああ。それ、このピンを見て何か感じることがあったら教えてくれないか」
嫋やかに微笑んだキャメイリアは、ノアランのように大きな子どもがいるようには見えない美しさである。
ふわぁと甘やかな香りを振りまきながら、ノアランが差し出したピンを受け取った。
「これは?」
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「そう、なんていうか、痛くないの!とっても滑らかだわ」
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「ここに触れてみて」
キャメイリアが差し出したピンを、ノアランが指の腹でスッと撫でると、アッと漏らした。
「こんなに違うものなのか!」
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