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87話 ドーラス・メーツ
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ドミーとトリュース、ドレインの三人がミヒアを囲んでいる。
正確には商会でミヒアの下僕と呼ばれている男たちと見慣れない男がひとり。
貴族財産管理部の査察官ドーラス・メーツである。
「先日頂いた・・資料を元に収支報告書を確認してみたところ」
ドレインが視線をやると、ドーラスはあとを引き取って話し出した。
「これは確かに申告されていない金銭のやり取りのようです。まずジメンクス家のこの金は申告されていないもののようでした。そうなるとこの金は、誰かを騙すなど、なにか不正な手段でジメンクス伯爵家が入手したのかもしれません」
「そして裏金にしたと?」
「その可能性が高いですね」
ここまでの話を聞いて、トリュースが手をあげた。
「あの、国はそんなに詳細に各家の金の出し入れを管理しているんですか?」
一貴族の収支をそこまで把握しているとは流石に思わず、驚いたのだ。
「各貴族家について収支報告書の他、取引した契約書や領収証などの控えはすべて残すことになっているので」
トリュースが疑問を口にした。
「・・・貴族だけですか?何故そこまで?」
「知らぬ間に力を蓄えられ、謀反など起こされては困りますからね。ジェールンガ事件をご存知ないですか?」
ドーラスが口にしたジェールンガ事件は、二代前にあったジェールンガという裕福な侯爵家が、夫人の出身国と手を組み、この国の簒奪を企てた謀反のことだ。
「あ!」
「あれ以来、貴族財産管理部が起ち上げられ、他国の貴族との縁組や、特に伯爵以上の貴族家の財産監視が厳しくなったのです。毎年必ず」
「収支報告と財産の開示を求められる?」
「そのとおりです」
ドレス数枚程度ならともかく、収支報告に載せないまとまった額の金の出入りが発覚すると疑われる。一度疑われたら、その先もずっと疑われ続ける。
まともな貴族なら後々を思えばやらないはずと思いたいが、実際ジメンクス伯爵家のような二重帳簿は何度か摘発されていた。
「貴族ってガチガチなんだな」
平民のドミーは、お偉い貴族がそんな我慢をしていることを初めて知り、肩を竦める。
「貴族は身分を笠に着ることもあるけど、義務と責任、守らねばならない細則やマナーも多いのよ。ただ威張り散らしているわけじゃない。貴族の中にもどうにもできない強烈な序列があるから、威張り散らすのはそういう鬱憤かもしれないわね」
貴族の仲間入りをしたあと、かなり苦労したミヒアの言葉には重みがある。
「トリュースのように生来の貴族にはわからないかもしれないけど」
何かを言い返したかったが、図星をさされたトリュースは言葉を飲み込むしかなかった。
「ところで、貴族財産管理部は動いてくださるのかしら」
「それはお答えできません」
ドーラスが淡々と答えると、ムッとしたドミーが腰を上げかけたが。
「本来は!です。しかし今回は情報提供者ですから特別にお教えいたしましょう」
ニヤッと笑んだドーラスは先を続ける。
「ご内密に願いますよ。勿論動きます。
いままで様々な疑惑がありながら、噂以上の確証を掴めずにいたジメンクスをあげる、待望の好機ですからね」
「ああ」
警戒心の強いジメンクス伯爵家は守りが固い。
今回は違法なやり方で突破したが、かつて外に証拠などが流出したことは一度もなかった。
「じゃあどんなやり方で入手したかはお咎めなしかしら?」
笑うような睨むようなミヒアの視線を受け止めたドーラスは、誤魔化すようコホッと咳払いしたあとに呟いた。
「皆さん!間違いのないようお願いしたいのですが、これは匿名の善意の密告ですからね。ありがたいことに、証拠が間違いなく存在することが判ったので、我々はこれを突破口に本丸に辿り着くだけです」
フフッとドーラスが笑った。
正確には商会でミヒアの下僕と呼ばれている男たちと見慣れない男がひとり。
貴族財産管理部の査察官ドーラス・メーツである。
「先日頂いた・・資料を元に収支報告書を確認してみたところ」
ドレインが視線をやると、ドーラスはあとを引き取って話し出した。
「これは確かに申告されていない金銭のやり取りのようです。まずジメンクス家のこの金は申告されていないもののようでした。そうなるとこの金は、誰かを騙すなど、なにか不正な手段でジメンクス伯爵家が入手したのかもしれません」
「そして裏金にしたと?」
「その可能性が高いですね」
ここまでの話を聞いて、トリュースが手をあげた。
「あの、国はそんなに詳細に各家の金の出し入れを管理しているんですか?」
一貴族の収支をそこまで把握しているとは流石に思わず、驚いたのだ。
「各貴族家について収支報告書の他、取引した契約書や領収証などの控えはすべて残すことになっているので」
トリュースが疑問を口にした。
「・・・貴族だけですか?何故そこまで?」
「知らぬ間に力を蓄えられ、謀反など起こされては困りますからね。ジェールンガ事件をご存知ないですか?」
ドーラスが口にしたジェールンガ事件は、二代前にあったジェールンガという裕福な侯爵家が、夫人の出身国と手を組み、この国の簒奪を企てた謀反のことだ。
「あ!」
「あれ以来、貴族財産管理部が起ち上げられ、他国の貴族との縁組や、特に伯爵以上の貴族家の財産監視が厳しくなったのです。毎年必ず」
「収支報告と財産の開示を求められる?」
「そのとおりです」
ドレス数枚程度ならともかく、収支報告に載せないまとまった額の金の出入りが発覚すると疑われる。一度疑われたら、その先もずっと疑われ続ける。
まともな貴族なら後々を思えばやらないはずと思いたいが、実際ジメンクス伯爵家のような二重帳簿は何度か摘発されていた。
「貴族ってガチガチなんだな」
平民のドミーは、お偉い貴族がそんな我慢をしていることを初めて知り、肩を竦める。
「貴族は身分を笠に着ることもあるけど、義務と責任、守らねばならない細則やマナーも多いのよ。ただ威張り散らしているわけじゃない。貴族の中にもどうにもできない強烈な序列があるから、威張り散らすのはそういう鬱憤かもしれないわね」
貴族の仲間入りをしたあと、かなり苦労したミヒアの言葉には重みがある。
「トリュースのように生来の貴族にはわからないかもしれないけど」
何かを言い返したかったが、図星をさされたトリュースは言葉を飲み込むしかなかった。
「ところで、貴族財産管理部は動いてくださるのかしら」
「それはお答えできません」
ドーラスが淡々と答えると、ムッとしたドミーが腰を上げかけたが。
「本来は!です。しかし今回は情報提供者ですから特別にお教えいたしましょう」
ニヤッと笑んだドーラスは先を続ける。
「ご内密に願いますよ。勿論動きます。
いままで様々な疑惑がありながら、噂以上の確証を掴めずにいたジメンクスをあげる、待望の好機ですからね」
「ああ」
警戒心の強いジメンクス伯爵家は守りが固い。
今回は違法なやり方で突破したが、かつて外に証拠などが流出したことは一度もなかった。
「じゃあどんなやり方で入手したかはお咎めなしかしら?」
笑うような睨むようなミヒアの視線を受け止めたドーラスは、誤魔化すようコホッと咳払いしたあとに呟いた。
「皆さん!間違いのないようお願いしたいのですが、これは匿名の善意の密告ですからね。ありがたいことに、証拠が間違いなく存在することが判ったので、我々はこれを突破口に本丸に辿り着くだけです」
フフッとドーラスが笑った。
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