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84話
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トリュースがメルサに断って地下道から隣りの建物に入ると、イールズ商会のバッグヤードはいつもと何ら変わらぬバタバタした慌ただしさで、思わずホッと息を吐いた。
まだ僅かな付き合いだが、表面を取り繕った貴族とは違い、実に家族的で、その中にいるだけで胸があたたまるのだ。
「ただいま」
思わず声をかけると、動きを止めた使用人たちが口々に「おかえり」と応えてくれる。
家族を亡くしたトリュースは、縁あって知り合うことができたミヒアと彼女に仕える使用人たちと出会えた幸運に感謝した。
「ミヒア様がお待ちだよ」
息子のようだと何くれと世話を焼く年嵩のアリラが、二階を指差して教えてくれる。
「ありがとう」
疲れているはずなのに、軽い足取りで階段をのぼっていった。
コンコンとノックすると、中から「どうぞ」と声がする。
扉を開けると室内では既にテーブル一面に広げられた写し紙を、ミヒアが覗き込んでいた
「やっと来たな」
「おかえりなさい。すごい成果だけど・・・トリュースあなた大丈夫?」
ミヒアのそれは、ゲイザードの所業に気づいたにほかならない心からの労り。
「大丈夫です、もしかしてと疑ってはいたので・・・」
慰めたものか、励ましたものか悩ましく、二人の年長者は暫し黙りこくった。
しかしトリュースはその沈黙を破り、晴れやかに笑ってみせたのだ。
「本当に大丈夫です!兄の言動に違和感を覚え、家を出てホングレイブの名を捨てた時から、いろいろと覚悟はしていました。血を分けた兄ですから、そうでなければいいと願っていましたが、はっきりと両親の仇だとわかって、今はスッキリしています。私への気遣いも兄への手心も一切不要です」
毅然と言い放つトリュースの心からの言葉。
それが二人にも伝わった。
「やはりトルグス子爵家にも金が渡されていたんだな」
「・・・その件なのだけど、実はお客様の中でトルグス家の令息をご存知の方がいらして教えてくれたのだけど。ちょうどアレンの奥様が亡くなられた頃に賭博でかなり負けがこんでいたそうなのよ。その返済に追われてあちらこちらに借金を申し込んでいたのに、ぴたりと来なくなったって」
「なんか繋がってきましたね」
頷いて、ペンと紙を取って何か書き留めたあとに、ミヒアがベルを鳴らす。
すぐに足音が聞こえ、使用人のひとりが顔を出した。
「これ、誰か使いを出して」
「城ですか?」
「渡せば飛んで来るだろうけど、急ぎだと言うようにね」
「「城ですか?」」
使用人が姿を消すと、ドミーたちが声を揃えて訊ねた。
「ええ、ドレインをね。きっと飛んで来る。
これが何処に隠されているかわかったのだから、ここから先は権限のある人たちにやってもらいましょう」
「っ!でもっ」
トリュースが食い下がるが。
「正直、この証拠でホングレイブ伯爵夫妻とトリュースの妹さんへの危害を断罪するのは難しいと思うの。一応あちらは伯爵だし、私たちが踏み込みすぎるのは危険だけど、でもやりようはある。
これを美味しい証拠だと喜ぶ役人を動かすのよ。いい?トリュース。なんでも自分でやらなくてはいけないわけではないわ。適材適所、その時にもっとも力や立場を発揮する者を使うのは、悪いことではないのよ。むしろその方が早く目的に辿り着けるのだから、使わなければ損!」
ニッと笑うミヒアだが、その顔に疲れが見え、トリュースは言葉を飲み込んで頷いてみせたのだった。
まだ僅かな付き合いだが、表面を取り繕った貴族とは違い、実に家族的で、その中にいるだけで胸があたたまるのだ。
「ただいま」
思わず声をかけると、動きを止めた使用人たちが口々に「おかえり」と応えてくれる。
家族を亡くしたトリュースは、縁あって知り合うことができたミヒアと彼女に仕える使用人たちと出会えた幸運に感謝した。
「ミヒア様がお待ちだよ」
息子のようだと何くれと世話を焼く年嵩のアリラが、二階を指差して教えてくれる。
「ありがとう」
疲れているはずなのに、軽い足取りで階段をのぼっていった。
コンコンとノックすると、中から「どうぞ」と声がする。
扉を開けると室内では既にテーブル一面に広げられた写し紙を、ミヒアが覗き込んでいた
「やっと来たな」
「おかえりなさい。すごい成果だけど・・・トリュースあなた大丈夫?」
ミヒアのそれは、ゲイザードの所業に気づいたにほかならない心からの労り。
「大丈夫です、もしかしてと疑ってはいたので・・・」
慰めたものか、励ましたものか悩ましく、二人の年長者は暫し黙りこくった。
しかしトリュースはその沈黙を破り、晴れやかに笑ってみせたのだ。
「本当に大丈夫です!兄の言動に違和感を覚え、家を出てホングレイブの名を捨てた時から、いろいろと覚悟はしていました。血を分けた兄ですから、そうでなければいいと願っていましたが、はっきりと両親の仇だとわかって、今はスッキリしています。私への気遣いも兄への手心も一切不要です」
毅然と言い放つトリュースの心からの言葉。
それが二人にも伝わった。
「やはりトルグス子爵家にも金が渡されていたんだな」
「・・・その件なのだけど、実はお客様の中でトルグス家の令息をご存知の方がいらして教えてくれたのだけど。ちょうどアレンの奥様が亡くなられた頃に賭博でかなり負けがこんでいたそうなのよ。その返済に追われてあちらこちらに借金を申し込んでいたのに、ぴたりと来なくなったって」
「なんか繋がってきましたね」
頷いて、ペンと紙を取って何か書き留めたあとに、ミヒアがベルを鳴らす。
すぐに足音が聞こえ、使用人のひとりが顔を出した。
「これ、誰か使いを出して」
「城ですか?」
「渡せば飛んで来るだろうけど、急ぎだと言うようにね」
「「城ですか?」」
使用人が姿を消すと、ドミーたちが声を揃えて訊ねた。
「ええ、ドレインをね。きっと飛んで来る。
これが何処に隠されているかわかったのだから、ここから先は権限のある人たちにやってもらいましょう」
「っ!でもっ」
トリュースが食い下がるが。
「正直、この証拠でホングレイブ伯爵夫妻とトリュースの妹さんへの危害を断罪するのは難しいと思うの。一応あちらは伯爵だし、私たちが踏み込みすぎるのは危険だけど、でもやりようはある。
これを美味しい証拠だと喜ぶ役人を動かすのよ。いい?トリュース。なんでも自分でやらなくてはいけないわけではないわ。適材適所、その時にもっとも力や立場を発揮する者を使うのは、悪いことではないのよ。むしろその方が早く目的に辿り着けるのだから、使わなければ損!」
ニッと笑うミヒアだが、その顔に疲れが見え、トリュースは言葉を飲み込んで頷いてみせたのだった。
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