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54話
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「ところでそのアレンという伯爵子息は、どうやってナミリア様の財産を奪えるというの?財産狙うならワンド子爵なんかを間に挟まず、自分がナミリア様の配偶者になったほうがいいじゃない?」
思ったことをそのまま訊ねるロリーンに、ベリートが答える。
「いや、ジメンクス伯爵家はその頃喪に服しており、再婚話は出せなかったでしょう」
「誰か亡くなったの?」
「アレン・ジメンクスの奥方です」
ロリーンは心から驚いて口が閉まらないようだ。
「奥様はおいくつくらいで亡くなったの?」
「二十一」
「若いのに気の毒に」
「ええ」
「ご病気で?」
「・・・たぶん」
「たぶんって?」
「これも証拠はないのですが、いろいろと噂はあったようです」
まるでロリーンの問いを予想していたかのように、ベリートが粗悪な紙に書かれた切り抜きをテーブルに並べると、皆で一斉に覗き込む。
「・・・」
「噂って?」
「はい、亡くなられた若奥様はとても健康で、それは婚姻前にご実家で受けられた健康確認診断でも医師のお墨付きを受けています。そのため亡くなられたとき、ご両親である子爵夫妻は厳密な死因の調査を求めたそうなのですが」
「原因はわからなかったの?」
ミヒアの眉尻は怪訝そうに吊り上がったままだ。
「いえ、病死に間違いない、これ以上妻の亡骸を晒したくないと言って有耶無耶にしたらしいです」
「なんだかイヤな展開ね」
ロリーンも呟いた。
「ねえその子爵ってどちらの家門なの?」
付き合いの薄い貴族の婚姻まで頭に入っているわけではない。特に偏った社交しかしなかったロリーンの場合は、そういった情報には疎かった。
「意外ね、女性たちの集まりならそういう噂がすぐ流れそうなのに」
苦笑するミヒアに、ロリーンが言い返す。
「私の生徒さんたちは噂話に踊らされたりはしないのよ」
「そう、それはちょっと残念ね」
ミヒアは今度はニヤリと笑った。
「すみません、話を続けても?」
「ああごめんなさいね」
割って入ったのはドレインである。
イールズの内偵からの報告と、自分が調べた様々な情報を明かしていき、最後に皆を見回してからうっかり失言を溢した。
「最初ローズリーから聞いたときはもっと簡単な話と思っていましたが、これは相当根深そうですね」
反応したのはミヒアだ。
「ワンド子爵から聞いた?あなた、自分でおかしいと感じて調べ、事態に気づいたのではなかったかしら?」
「え?は?あっ!」
鋭い視線でミヒアに舐められると、ドレインは寒気を覚えた。
「あなた、ワンド子爵を庇って嘘をついたのね?違う?」
「あ・・・」
「本当のことを話しなさい!今すぐにっ」
怒りの気を発散し始めたミヒアがドレインに迫る。
その顔は上司のメッへーよりはるかに怖い!怖すぎた!
ドレインはミヒアの視線から逃れようと俯いたが、その脳天にビシビシと突き刺さるような圧を感じるのだ。
商会の使用人たちは、ミヒア夫人の裏の顔を見られるのが楽しみと言っていたが、ドレインにはそんな気はこれっぽっちも起きなかった。
今ドレインは、ミヒアの真の恐ろしさを知らずに思いつきで嘘をついた己を張り飛ばしてやりたかったが、にげるわけにはいかない。覚悟を決めねば。
そう思って顔をあげると、ナミリアたちに背を向け、自分に躙り寄ってくるミヒアの目が自分を射殺さんとばかりにギラついている。
その迫力に、ドレインは思わず歯を食いしばった。
思ったことをそのまま訊ねるロリーンに、ベリートが答える。
「いや、ジメンクス伯爵家はその頃喪に服しており、再婚話は出せなかったでしょう」
「誰か亡くなったの?」
「アレン・ジメンクスの奥方です」
ロリーンは心から驚いて口が閉まらないようだ。
「奥様はおいくつくらいで亡くなったの?」
「二十一」
「若いのに気の毒に」
「ええ」
「ご病気で?」
「・・・たぶん」
「たぶんって?」
「これも証拠はないのですが、いろいろと噂はあったようです」
まるでロリーンの問いを予想していたかのように、ベリートが粗悪な紙に書かれた切り抜きをテーブルに並べると、皆で一斉に覗き込む。
「・・・」
「噂って?」
「はい、亡くなられた若奥様はとても健康で、それは婚姻前にご実家で受けられた健康確認診断でも医師のお墨付きを受けています。そのため亡くなられたとき、ご両親である子爵夫妻は厳密な死因の調査を求めたそうなのですが」
「原因はわからなかったの?」
ミヒアの眉尻は怪訝そうに吊り上がったままだ。
「いえ、病死に間違いない、これ以上妻の亡骸を晒したくないと言って有耶無耶にしたらしいです」
「なんだかイヤな展開ね」
ロリーンも呟いた。
「ねえその子爵ってどちらの家門なの?」
付き合いの薄い貴族の婚姻まで頭に入っているわけではない。特に偏った社交しかしなかったロリーンの場合は、そういった情報には疎かった。
「意外ね、女性たちの集まりならそういう噂がすぐ流れそうなのに」
苦笑するミヒアに、ロリーンが言い返す。
「私の生徒さんたちは噂話に踊らされたりはしないのよ」
「そう、それはちょっと残念ね」
ミヒアは今度はニヤリと笑った。
「すみません、話を続けても?」
「ああごめんなさいね」
割って入ったのはドレインである。
イールズの内偵からの報告と、自分が調べた様々な情報を明かしていき、最後に皆を見回してからうっかり失言を溢した。
「最初ローズリーから聞いたときはもっと簡単な話と思っていましたが、これは相当根深そうですね」
反応したのはミヒアだ。
「ワンド子爵から聞いた?あなた、自分でおかしいと感じて調べ、事態に気づいたのではなかったかしら?」
「え?は?あっ!」
鋭い視線でミヒアに舐められると、ドレインは寒気を覚えた。
「あなた、ワンド子爵を庇って嘘をついたのね?違う?」
「あ・・・」
「本当のことを話しなさい!今すぐにっ」
怒りの気を発散し始めたミヒアがドレインに迫る。
その顔は上司のメッへーよりはるかに怖い!怖すぎた!
ドレインはミヒアの視線から逃れようと俯いたが、その脳天にビシビシと突き刺さるような圧を感じるのだ。
商会の使用人たちは、ミヒア夫人の裏の顔を見られるのが楽しみと言っていたが、ドレインにはそんな気はこれっぽっちも起きなかった。
今ドレインは、ミヒアの真の恐ろしさを知らずに思いつきで嘘をついた己を張り飛ばしてやりたかったが、にげるわけにはいかない。覚悟を決めねば。
そう思って顔をあげると、ナミリアたちに背を向け、自分に躙り寄ってくるミヒアの目が自分を射殺さんとばかりにギラついている。
その迫力に、ドレインは思わず歯を食いしばった。
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