上 下
47 / 100

47話

しおりを挟む
 一息ついたあと、ふたりはドレインが口を開くのを静かに待った。
呼吸を整える姿を見るに、よほどのことなのだと想像がついたから。

「ローズリー・ワンドには付き合っていた女性がいました」

 バレてしまうかもしれないが、せめてもの恩情のつもりで過去形にして話していた。

「その女性がレンラ令嬢との結婚をローズリーに勧めたようで」

 怪訝な顔をしたミヒアは速攻で「何故?」と突っ込んだ。

「私が調べたところローズリーとレンラ令嬢を結婚させ、令嬢の財産を奪おうと考えたようです」
「財産を奪う?何を馬鹿なことを。そんなの相手を・・!」
「そう、たぶんその女はそのつもりです。証拠はありませんが、私の推測ではそうしてローズリーが財産を手にしたら、今度は女がローズリーと結婚してその財産を奪い、最後にそれを手土産に恋人と結婚するつもりかと」

 ミヒアとナミリアは顔を見合わせた。
複雑にからみ合い、何がなんだかわからなくなったのだ。

 ドレインはカバンからメモとペンを出して図解してやった。
ローズリーと女、女とその恋人と矢印で繋げていく。

「こうなったら、ここがこうしようと・・・するかと」

 愕然としたミヒアとナミリア。
先に我に返ったのはミヒアの方だ。

「なんてこと!それが本当なら大変なことよナミリアさん」
「ミヒア様、私どうしたらよろしいのかしら、ローズリー様のことも心配ですわ」
「大丈夫よ!事が知れた以上、私たちイールズ家とレンラ家が全力でを守るから心配しないで」

 手を握り合ったあと、ミヒアはドレインを見た。

「どうして発覚したのか、経緯を聞いても?」
「はい。まずローズリーが昔の恋人をメイドに雇ってやっていると聞いて、驚いたことから始まりました。その女性がおとなしくメイドなどするような性格ではない上、普段はローズリーの目が届かない別邸にいると聞き、心配になったのです」

 別邸と聞いて、ミヒアはピンときた。
 ローズリー・ワンドは暫く前まで足繁く別邸に通っていた。それが最近遠のいていると金をやって見張らせた農民が言っていたらしい。

「そう・・・。そこからどうしてここまでの話がわかったの?」
「まず私はローズリーとは幼馴染で、ワンド子爵家とも親しくしてきました。使用人もよく知る者が多いのです。
そして私は王宮で調査官として勤めており、調べごとは得意です」
「調査官?」

 ナミリアは首を傾げたが、ミヒアはああ!と納得した顔をした。


「ワンド別邸はその女一人に任されており、少し見張っただけですぐ、商人らしい恋人のひとりが来ました。女はローズリーが不在の時に恋人と子爵家で逢引きしており、その時に話していたのを・・・ゴホン!・・・聞いたのです」

 ドレインは盗み聞きしたと言いかけて、慌てて誤魔化した。

「また女にはもう一人貴族の恋人がおり、こちらが本命のようですが、どんな会話を交わしたか今まだ掴めておりません」

 頷いたミヒアが疑問点を訊ねていく。

「はっきりと財産を奪うとか話しているのを聞いたのかしら?」
「はい、私がこの耳で聞いたので間違いありません」
「そう・・・。ワンド子爵はそのことを知っているの?」
「知ってはいるのですが、残念ながらそれが何を意図するか、はっきりわかっていないようです。もともとは真っ正直な男ですから、意味を理解したら引くと思いますよ」

 ドレインは何故、エランディアにナミリアの財産を奪おうと言われたとき頷いてしまったのかと、疑問に思ったのだが。
 今自分の口を通して発せられた言葉で、ローズリーはことがナミリアの命をも、とは理解していなかったのだと改めて腹に落ちた。

 そしてミヒアは、女がはっきりとローズリーに迫ったから、ローズリーは女に距離を置くようになったのだろうと考えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

愚かな貴族を飼う国なら滅びて当然《完結》

アーエル
恋愛
「滅ぼしていい?」 「滅ぼしちゃった方がいい」 そんな言葉で消える国。 自業自得ですよ。 ✰ 一万文字(ちょっと)作品 ‪☆他社でも公開

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

処理中です...