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22話

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「そう、そんなことがあったのね、でもナミリアさんが先に進む気持ちを持てたことは良かったと、心から思っているわ」

 このところ仕事のためにほぼ毎日イールズ商会に通うナミリアが、ミヒアにローズリー・ワンド子爵について報告しているところだ。

「ディルーストを忘れないで欲しいと思う気持ちもあるけれど、それよりもあの子の分まで幸せになってほしいから」

 ホッとしたような笑顔が、ミヒアの胸中を語っている。
それを見てナミリアも安堵した。
ともに仕事をしていく関係なのだ、ミヒアとロリーンには認められたい。

(認められたい?)

 自分の心の声に呆然とした。

 出会ったばかりのローズリーを、ふたりにも認めてもらいたいなどと、自分は何を考えているのかと。

 まだディルーストを亡くして一年経ってもいないというのに。

 壁を見つめる視線が固まっていることに、その理由に、ミヒアが気がついた。

「ナミリアさん、私もディルーストも貴女が幸せになってくれることが一番の望みなのよ。貴女を大切にしてくださる方に出会えたなら、私はうれしい」

 そう言って、ナミリアを抱き寄せた。






 黙って見ていたロリーンは、ワンド子爵という名に聞き覚えがあったが、これという功績も目立つこともなかった記憶に首を傾げた。

(こういう事情だから政略的なことは棚上げして、本人たちの相性がよければ良いことになさったのかしら)

 酷い言い方だが、年齢的につりあう相手を探すことを優先すれば、これという特筆できることもないが、だからこそ婚約者が見つからなかった人柄だけの男も見つかるだろう。

 レンラ子爵家には金がある。
人柄さえ良ければと手を打ったのかもしれないと、自分を納得させることにした。


「ナミリア様、私たちと事業を起こすことは話したの?」
「いえまだですわ。まだ一度しかお会いしておりませんもの」
「そう、それなら暫くは伏せておいたほうがいいかもしれないわね」
「そうね」

 ロリーンの言葉にミヒアが同意した。

「女性の仕事を嫌がる殿方もいらっしゃるし、逆にそれを当てに働かなくなる殿方もいるから、よく見極めてから話したほうがいいと思うわ。って人を狂わせることもあるものだから、それだけは慎重にね」

 ナミリアの瞳を覗き込み、いつになく真剣にミヒアが説く。

 

 ミヒアが渡した財産のことだとナミリアも気づき、ローズリー・ワンドはそんな男ではないと心の何処かで思いながらも、深く頷いてみせた。
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