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 オートリアス・ベンベローは、元はベンベロー侯爵の次男であった。

 それが今や薄汚い鉱夫と成り果て、稼いだ金はすべて実家に吸い上げられて、寮で生き長らえる食事をすることしか楽しみがない。
 初めに送られた鉱山には、自分を陥れた弟エイリズがいた。
 見つけてすぐに持たされていたツルハシで殴りかかり、何発か食らわせてやった。
顔や腕、足から血が噴き出したのを見て、やってやったという気持ちになれた。
 しかしその後、人が少なくやたらと暗いこの金山に送り込まれた。

「問題を起こす者は人不足の鉱山であってもいらない」と。

 聞いたところによると、新たな居場所は既にほぼ掘り尽くされ、今残って採掘しているのは僅かに新たな鉱脈が見つからないかを探っているだけらしい。
見込みも少ないから俸給も安いそうだが、だからといって危険には違いない。
むしろ人が少なく、新たな設備や装備が導入されないため、より危険なのかもしれない。

「よお新入り、なんでこんなところに来た?なんかやらかしたか?」

 年取った男が興味深そうに話かけてきた。
 以前の自分なら汚らしい平民の相手など金を貰ってもしなかっただろうが、小さな灯りしかない闇の中にいると妙に人恋しくなり、問いに答えるうちに親しくなっていった。

「なんだ、おまえご領主様の息子様なのか?いや、あの息子様でしたか」
「そんな使い慣れない言葉はいい。ここに送られた時点で、私はただのオートリアスになってしまったんだから」
「お、オートリアスさま」
「オートリアスでいいぞ」

 ひとり、ふたりと仲間の輪は広がり、いつしかきつい仕事にも慣れていく。

「なあ、なぜみんなろくに金も出なくなったここで頑張り続けるんだ?私と違い、好きなところへ行けるだろう?」

 ずっと気になっていたことを切り出すと、男たちは笑って言うのだ。

「そりゃあ夢だよ、オーティー。ここは打ち捨てられた金山だが、実はまだ見つかっていない金脈があるとも言われているのさ。それをもし見つけたら、それこそ俺らが一生かかっても持つことができない報奨をご領主様が下さることになっている。幸い時折僅かに採れる金でも十分に暮らしていけるからな」
「そうそう、俺たちみたいな年寄りには、全盛の鉱山はきつすぎるが、ここなら続けられるしな」

 オートリアスにはこれでもきついのだが、男たちはケロリとしている。

 ─そうか、ではエイリズのところはもっともっと大変ということか─

 そう言えば、見つけた弟は土まみれで傷だらけで痩せ細っていた。
 実際、この鉱山の寮で出される食事も若いオートリアスにはまったく足りない量だったが、増やしてほしいと言うこともできず、空きっ腹を抱えて力なくツルハシを振っていた。
 それを見かねたここの老鉱夫たちは、問題を起こして追放された領主の息子だと知ったあとも何一つ変わることなく、優しく食べ物を分けてくれているのだ。

「なあロビー、他の鉱山でも仲間同士こんなに仲が良いのが普通なのか?」
「んー、そうだなあ、こういうところもあれば、成績で俸給が変わるところは足を引っ張りあってなあ、危なくてとても働けねぇと思った所もあったよ。本当は危険な作業だからこそ、助け合いが大切なんだがなあ」
「そうか・・・私は恵まれていたんだな」

 ─エイリズは、怪我はどうしただろう─

 自分の身を振り返ることができるようになって初めて、怪我をさせた弟のことが心配になった。
憎い弟だが、こどもの頃はいつもついてきて可愛かった。



 
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