65 / 75
65
しおりを挟む
メラロニアスが加わったことで、施設、特に他国人が多い地域の対策がより細やかになった。
効果はすぐに現れる。使い勝手が格段によくなったと、それは船乗りから船乗りへ、キャラバンからキャラバンへとどんどん広がった。
最初にメラロニアスは他国の言葉が話せる者を各施設に必ず一人以上置くよう進言した。サービスだけではなく、習慣や文化の違いにより起こりうるトラブルの予防にも力を入れる。
その一環で自らも使用人に向けて語学のトレーニングを行いながら、簡単な挨拶、簡単な案内、質問の対応力、日常会話と、段階を追ってレベルが上がるごとに手当を出すようパルティアに勧めた。
学べばそれだけ収入が増えると聞けば、やる気そこそこの者も頑張ってみようという気になる。そうしていつしか、パルティアとアレクシオスの宿泊施設で働く者は二カ国以上の言葉を操ることが普通となり、他国から客を連れての接待に利用されることも増えていった。
担当のメイドが通訳として連れ出されることも増え、宿泊事業の他、通訳派遣業にも手を広げた。
メイドより通訳のほうが短い時間で高い収入を得られるため、メラロニアスの語学研修も大変な人気で、留学仲間をひとり引き抜いてきたほどである。
平民であっても採用されれば一から教育を受けられ、よりよい仕事をすることができると噂になると、働きたいという者が殺到するようになり、人を選ぶことが一つの仕事になったがとうとう手が回らなくなった。
そこでパルティアは、エルシドの古参メイドであるエリオラとアンシュを呼び、採用面談はふたりに任せることにした。
一足先にメイド長になったメニアとともに、エルシドでパルティアと親しくなった平民の娘たちで、メニア同様信頼できる使用人である。
「ようやく私たちもパルティア様のお役に立てるのですね」
アンシュが言うと、パルティアは驚いたように首を振った。
「何を言うの!貴女たちは今までだってすごく役に立つ素晴らしい仕事をしてきたわ。これからはもぉっと活躍してもらおうということなの。よろしくね」
パルティアとアレクシオスは、決して無闇に事業を拡大しているわけではなく、自信がないときもあるのだが、蓋を開けてみるとどれもこれも成功してしまう!
ほんの数年でエンダライン侯爵家は宿泊観光業の宗主くらいに言われるようになっていた。
「なんだか少し疲れたわ」
珍しくパルティアが早くに横になっていると聞き、アレクシオスが早馬で帰宅した。
「パーチィ!具合が悪いと聞いた、大丈夫なのか?医者には?」
「大丈夫よ、ちょっと疲れただけ。お医者様は明朝いらしてくださるわ」
翌朝、心配症で繊細で過保護なアレクシオスは、診察中おろおろと部屋のまわりを歩き回る。医師が出てくると待ちきれずすぐに訊ねて。
「それで、パルティアは?」
「はい、おめでとうございます」
「おめでとうとはなんだ!具合が悪いと言っているのに!ん?おめでとう?えっ?」
「御懐妊でございます」
皆の動きが止まる。
結婚以来五年、まったく気配もなく、少し諦めかけていたのだから。
「やったあー!」
いつも穏やかで冷静なアレクシオスとは思えないほどの、歓喜の絶叫が廊下に響き渡った。
効果はすぐに現れる。使い勝手が格段によくなったと、それは船乗りから船乗りへ、キャラバンからキャラバンへとどんどん広がった。
最初にメラロニアスは他国の言葉が話せる者を各施設に必ず一人以上置くよう進言した。サービスだけではなく、習慣や文化の違いにより起こりうるトラブルの予防にも力を入れる。
その一環で自らも使用人に向けて語学のトレーニングを行いながら、簡単な挨拶、簡単な案内、質問の対応力、日常会話と、段階を追ってレベルが上がるごとに手当を出すようパルティアに勧めた。
学べばそれだけ収入が増えると聞けば、やる気そこそこの者も頑張ってみようという気になる。そうしていつしか、パルティアとアレクシオスの宿泊施設で働く者は二カ国以上の言葉を操ることが普通となり、他国から客を連れての接待に利用されることも増えていった。
担当のメイドが通訳として連れ出されることも増え、宿泊事業の他、通訳派遣業にも手を広げた。
メイドより通訳のほうが短い時間で高い収入を得られるため、メラロニアスの語学研修も大変な人気で、留学仲間をひとり引き抜いてきたほどである。
平民であっても採用されれば一から教育を受けられ、よりよい仕事をすることができると噂になると、働きたいという者が殺到するようになり、人を選ぶことが一つの仕事になったがとうとう手が回らなくなった。
そこでパルティアは、エルシドの古参メイドであるエリオラとアンシュを呼び、採用面談はふたりに任せることにした。
一足先にメイド長になったメニアとともに、エルシドでパルティアと親しくなった平民の娘たちで、メニア同様信頼できる使用人である。
「ようやく私たちもパルティア様のお役に立てるのですね」
アンシュが言うと、パルティアは驚いたように首を振った。
「何を言うの!貴女たちは今までだってすごく役に立つ素晴らしい仕事をしてきたわ。これからはもぉっと活躍してもらおうということなの。よろしくね」
パルティアとアレクシオスは、決して無闇に事業を拡大しているわけではなく、自信がないときもあるのだが、蓋を開けてみるとどれもこれも成功してしまう!
ほんの数年でエンダライン侯爵家は宿泊観光業の宗主くらいに言われるようになっていた。
「なんだか少し疲れたわ」
珍しくパルティアが早くに横になっていると聞き、アレクシオスが早馬で帰宅した。
「パーチィ!具合が悪いと聞いた、大丈夫なのか?医者には?」
「大丈夫よ、ちょっと疲れただけ。お医者様は明朝いらしてくださるわ」
翌朝、心配症で繊細で過保護なアレクシオスは、診察中おろおろと部屋のまわりを歩き回る。医師が出てくると待ちきれずすぐに訊ねて。
「それで、パルティアは?」
「はい、おめでとうございます」
「おめでとうとはなんだ!具合が悪いと言っているのに!ん?おめでとう?えっ?」
「御懐妊でございます」
皆の動きが止まる。
結婚以来五年、まったく気配もなく、少し諦めかけていたのだから。
「やったあー!」
いつも穏やかで冷静なアレクシオスとは思えないほどの、歓喜の絶叫が廊下に響き渡った。
33
お気に入りに追加
885
あなたにおすすめの小説
あなたの仰ってる事は全くわかりません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。
しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。
だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。
全三話
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜
水都 ミナト
恋愛
精霊王を信仰する王国で、マナの扱いに長けた侯爵家の娘・ナターシャ。彼女は五歳でレイモンド王太子殿下の婚約者に抜擢された。
だが、レイモンドはアイシャ公爵令嬢と想い合っていた。アイシャはマナの扱いが苦手で王族の婚約者としては相応しくないとされており、叶わない恋であった。
とある事件をきっかけに、ナターシャは二人にある提案を持ち掛けるーーー
これはレイモンドとアイシャ、そしてナターシャがそれぞれの幸せを掴むまでのお話。
※1万字程度のお話です。
※他サイトでも投稿しております。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】
あくの
恋愛
女性が高等教育を受ける機会のないこの国においてバイユ公爵令嬢ヴィクトリアは父親と交渉する。
3年間、高等学校にいる間、男装をして過ごしそれが他の生徒にバレなければ大学にも男装で行かせてくれ、と。
それを鼻で笑われ一蹴され、鬱々としていたところに状況が変わる出来事が。婚約者の第二王子がゆるふわピンクな妹、サラに乗り換えたのだ。
毎週火曜木曜の更新で偶に金曜も更新します。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる