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 ─パーチィって呼ばれているんだな─

 結婚して一年近く過ぎた頃、パルティアの従兄弟メラロニアス・メンデバーが久しぶりに顔を出した。
 パルティアたちの結婚式の直前、他国に行っていたメラロニアスは落馬して骨を折った。そのために式に来ることが出来ず、今日本当に久しぶりに姿を見せたのだ。

「ああ、メラルー!大怪我をしたと聞いて心配したのよ!治って本当によかったわ。もう大丈夫なの?」
「ああ。そうでなければ帰っては来られなかった、パーチィは幸せそうだね!安心したよ」
「ええとっても幸せよ!ありがとう。私の旦那様を紹介するわ」

 にこやかにメラロニアスを、そしてアレクシオスを紹介し、

「設計士のダルディーンはメラルーのお友だちで、彼が紹介してくれたの」
「それは!私たちの事業はダルディーンがいないと成り立ちません!礼を言います」

 貴族らしくぴしっと礼をすると、メラルーは背中をもぞもぞと窮屈そうに動かした。

「そういう貴族的なのはどうも苦手で、気楽に付き合ってもらいたいな。親戚になったのだし」

 そう言われても、最初から砕けた態度のメラロニアスのようなわけには行かないが。
しかし人を警戒させない雰囲気に、アレクシオスの気持ちもほぐれ、すぐ旧知のように打ち解けることができた。

「ところでパーチィ、ダルディーンから聞いたけど、一体いくつの宿を建てるつもりだ?」
「私たちも最初はエルシドとメンシアだけのつもりだったのだけど、いくつ建てても予約が取れないと言われて」
「それは貴族用?平民向け?」
「どちらもよ」
「成功の秘訣はなに?」
「さあ、何かしら?」

 パルティアの視線が困ったようにアレクシオスを見る。

「何が成功のもとかわからずに、成功し続けているなんて、それで拡大していくのは恐ろしくないのか?」
「恐ろしいって、何を?」
「大枚かけているのに失敗したらとか、考えないのか?」
「・・・ないわ」

 アレクシオスが、そしてメラロニアスが苦笑する。

「まさか野生の勘か?」

 小首を傾げたパルティアが思いついたように言う。

「いいえ、強いて言うならリサーチは徹底しているわ」
「リサーチ?」
「そう、メンシアの支配人でゾロアという者がいるのだけれど、彼は元はメンシアで不動産業をしていたの。今の土地選びや、施設のグレードや設備、サービスを決めるのは全部ゾロアから聞いたことをもとにリサーチしているのよ。経営方針はエルシドの支配人のデリスがアドバイスをくれるし、使用人たちの教育はメイド長のテーミアに任せられる。誰か一人ではだめ、ゾロアとデリスと私たちで皆で集めた情報を精査し、戦略を立てていれば失敗なんてしないのだと思うわ」

 パルティアが、満足気に小さくフッと息を吐いた。

「そうだったのか、いきあたりばったりで奇跡的に上手くいったのかと思っていたよ」
「まあ、ひどいわ!私はともかく旦那様は慎重な方よ」
「しかし私は考えすぎてなかなか決めきれないから、パルティアの決断力がやはり必要だよ」

 いつの間にか手を取り合っている若い夫婦を眺めながら、メラロニアスが変な顔をしている。

「それは惚気というやつか?お熱いことだな」

 フンっと鼻を鳴らして、見ていられないという風にそっぽを向いた。
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