63 / 75
63
しおりを挟む
─パーチィって呼ばれているんだな─
結婚して一年近く過ぎた頃、パルティアの従兄弟メラロニアス・メンデバーが久しぶりに顔を出した。
パルティアたちの結婚式の直前、他国に行っていたメラロニアスは落馬して骨を折った。そのために式に来ることが出来ず、今日本当に久しぶりに姿を見せたのだ。
「ああ、メラルー!大怪我をしたと聞いて心配したのよ!治って本当によかったわ。もう大丈夫なの?」
「ああ。そうでなければ帰っては来られなかった、パーチィは幸せそうだね!安心したよ」
「ええとっても幸せよ!ありがとう。私の旦那様を紹介するわ」
にこやかにメラロニアスを、そしてアレクシオスを紹介し、
「設計士のダルディーンはメラルーのお友だちで、彼が紹介してくれたの」
「それは!私たちの事業はダルディーンがいないと成り立ちません!礼を言います」
貴族らしくぴしっと礼をすると、メラルーは背中をもぞもぞと窮屈そうに動かした。
「そういう貴族的なのはどうも苦手で、気楽に付き合ってもらいたいな。親戚になったのだし」
そう言われても、最初から砕けた態度のメラロニアスのようなわけには行かないが。
しかし人を警戒させない雰囲気に、アレクシオスの気持ちもほぐれ、すぐ旧知のように打ち解けることができた。
「ところでパーチィ、ダルディーンから聞いたけど、一体いくつの宿を建てるつもりだ?」
「私たちも最初はエルシドとメンシアだけのつもりだったのだけど、いくつ建てても予約が取れないと言われて」
「それは貴族用?平民向け?」
「どちらもよ」
「成功の秘訣はなに?」
「さあ、何かしら?」
パルティアの視線が困ったようにアレクシオスを見る。
「何が成功のもとかわからずに、成功し続けているなんて、それで拡大していくのは恐ろしくないのか?」
「恐ろしいって、何を?」
「大枚かけているのに失敗したらとか、考えないのか?」
「・・・ないわ」
アレクシオスが、そしてメラロニアスが苦笑する。
「まさか野生の勘か?」
小首を傾げたパルティアが思いついたように言う。
「いいえ、強いて言うならリサーチは徹底しているわ」
「リサーチ?」
「そう、メンシアの支配人でゾロアという者がいるのだけれど、彼は元はメンシアで不動産業をしていたの。今の土地選びや、施設のグレードや設備、サービスを決めるのは全部ゾロアから聞いたことをもとにリサーチしているのよ。経営方針はエルシドの支配人のデリスがアドバイスをくれるし、使用人たちの教育はメイド長のテーミアに任せられる。誰か一人ではだめ、ゾロアとデリスと私たちで皆で集めた情報を精査し、戦略を立てていれば失敗なんてしないのだと思うわ」
パルティアが、満足気に小さくフッと息を吐いた。
「そうだったのか、いきあたりばったりで奇跡的に上手くいったのかと思っていたよ」
「まあ、ひどいわ!私はともかく旦那様は慎重な方よ」
「しかし私は考えすぎてなかなか決めきれないから、パルティアの決断力がやはり必要だよ」
いつの間にか手を取り合っている若い夫婦を眺めながら、メラロニアスが変な顔をしている。
「それは惚気というやつか?お熱いことだな」
フンっと鼻を鳴らして、見ていられないという風にそっぽを向いた。
結婚して一年近く過ぎた頃、パルティアの従兄弟メラロニアス・メンデバーが久しぶりに顔を出した。
パルティアたちの結婚式の直前、他国に行っていたメラロニアスは落馬して骨を折った。そのために式に来ることが出来ず、今日本当に久しぶりに姿を見せたのだ。
「ああ、メラルー!大怪我をしたと聞いて心配したのよ!治って本当によかったわ。もう大丈夫なの?」
「ああ。そうでなければ帰っては来られなかった、パーチィは幸せそうだね!安心したよ」
「ええとっても幸せよ!ありがとう。私の旦那様を紹介するわ」
にこやかにメラロニアスを、そしてアレクシオスを紹介し、
「設計士のダルディーンはメラルーのお友だちで、彼が紹介してくれたの」
「それは!私たちの事業はダルディーンがいないと成り立ちません!礼を言います」
貴族らしくぴしっと礼をすると、メラルーは背中をもぞもぞと窮屈そうに動かした。
「そういう貴族的なのはどうも苦手で、気楽に付き合ってもらいたいな。親戚になったのだし」
そう言われても、最初から砕けた態度のメラロニアスのようなわけには行かないが。
しかし人を警戒させない雰囲気に、アレクシオスの気持ちもほぐれ、すぐ旧知のように打ち解けることができた。
「ところでパーチィ、ダルディーンから聞いたけど、一体いくつの宿を建てるつもりだ?」
「私たちも最初はエルシドとメンシアだけのつもりだったのだけど、いくつ建てても予約が取れないと言われて」
「それは貴族用?平民向け?」
「どちらもよ」
「成功の秘訣はなに?」
「さあ、何かしら?」
パルティアの視線が困ったようにアレクシオスを見る。
「何が成功のもとかわからずに、成功し続けているなんて、それで拡大していくのは恐ろしくないのか?」
「恐ろしいって、何を?」
「大枚かけているのに失敗したらとか、考えないのか?」
「・・・ないわ」
アレクシオスが、そしてメラロニアスが苦笑する。
「まさか野生の勘か?」
小首を傾げたパルティアが思いついたように言う。
「いいえ、強いて言うならリサーチは徹底しているわ」
「リサーチ?」
「そう、メンシアの支配人でゾロアという者がいるのだけれど、彼は元はメンシアで不動産業をしていたの。今の土地選びや、施設のグレードや設備、サービスを決めるのは全部ゾロアから聞いたことをもとにリサーチしているのよ。経営方針はエルシドの支配人のデリスがアドバイスをくれるし、使用人たちの教育はメイド長のテーミアに任せられる。誰か一人ではだめ、ゾロアとデリスと私たちで皆で集めた情報を精査し、戦略を立てていれば失敗なんてしないのだと思うわ」
パルティアが、満足気に小さくフッと息を吐いた。
「そうだったのか、いきあたりばったりで奇跡的に上手くいったのかと思っていたよ」
「まあ、ひどいわ!私はともかく旦那様は慎重な方よ」
「しかし私は考えすぎてなかなか決めきれないから、パルティアの決断力がやはり必要だよ」
いつの間にか手を取り合っている若い夫婦を眺めながら、メラロニアスが変な顔をしている。
「それは惚気というやつか?お熱いことだな」
フンっと鼻を鳴らして、見ていられないという風にそっぽを向いた。
23
お気に入りに追加
885
あなたにおすすめの小説
あなたの仰ってる事は全くわかりません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。
しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。
だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。
全三話
精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜
水都 ミナト
恋愛
精霊王を信仰する王国で、マナの扱いに長けた侯爵家の娘・ナターシャ。彼女は五歳でレイモンド王太子殿下の婚約者に抜擢された。
だが、レイモンドはアイシャ公爵令嬢と想い合っていた。アイシャはマナの扱いが苦手で王族の婚約者としては相応しくないとされており、叶わない恋であった。
とある事件をきっかけに、ナターシャは二人にある提案を持ち掛けるーーー
これはレイモンドとアイシャ、そしてナターシャがそれぞれの幸せを掴むまでのお話。
※1万字程度のお話です。
※他サイトでも投稿しております。
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】
あくの
恋愛
女性が高等教育を受ける機会のないこの国においてバイユ公爵令嬢ヴィクトリアは父親と交渉する。
3年間、高等学校にいる間、男装をして過ごしそれが他の生徒にバレなければ大学にも男装で行かせてくれ、と。
それを鼻で笑われ一蹴され、鬱々としていたところに状況が変わる出来事が。婚約者の第二王子がゆるふわピンクな妹、サラに乗り換えたのだ。
毎週火曜木曜の更新で偶に金曜も更新します。
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
婚約者様にお子様ができてから、私は……
希猫 ゆうみ
恋愛
アスガルド王国の姫君のダンス教師である私には婚約者がいる。
王室騎士団に所属する伯爵令息ヴィクターだ。しかしある日、突然、ヴィクターは子持ちになった。
神官と女奴隷の間に生まれた〝罪の子〟である私が姫君の教師に抜擢されたのは奇跡であり、貴族に求婚されたのはあり得ない程の幸運だった。
だから、我儘は言えない……
結婚し、養母となることを受け入れるべき……
自分にそう言い聞かせた時、代わりに怒ってくれる人がいた。
姫君の語学教師である伯爵令嬢スカーレイだった。
「勝手です。この子の、女としての幸せはどうなるのです?」
〝罪の子〟の象徴である深紅の瞳。
〝罪の子〟を片時も忘れさせない〝ルビー〟という名前。
冷遇される私をスカーレイは〝スノウ〟と呼び、いつも庇護してくれた。
私は子持ちの婚約者と結婚し、ダンス教師スノウの人生を生きる。
スカーレイの傍で生きていく人生ならば〝スノウ〟は幸せだった。
併し、これが恐ろしい復讐劇の始まりだった。
そしてアスガルド王国を勝利へと導いた国軍から若き中尉ジェイドが送り込まれる。
ジェイドが〝スノウ〟と出会ったその時、全ての歯車が狂い始め───……
(※R15の残酷描写を含む回には話数の後に「※」を付けます。タグにも適用しました。苦手な方は自衛の程よろしくお願いいたします)
(※『王女様、それは酷すぎませんか?』関連作ですが、時系列と国が異なる為それぞれ単品としてお読み頂けます)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる