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パルティアは、ゾロアにデリスと同じ匂いを感じていた。
─不動産を扱う地場の商会なら数字に強い上、メンシアに人脈があり、しかも貴族─
「ドロアド男爵」
そう呼ぶと、ゾロアは恐縮して頭を下げた。
「ゾロアで結構でございます」
「そう、ではゾロア様、私のこともパルティアとお呼びくださいな」
「め、滅相もない」
「これから貴方の力をたくさん借りようと思っておりますのよ、私。毎回エンダライン侯爵令嬢パルティア様とか呼ばれたらまだるっこしくてたまりませんわ。はい、パルティアと呼んでみて」
ゾロアが困ってニーナを見ると、こくこく首を振っている。
しかたなさそうに恐る恐るという体で。
「ぱ、パルティア様」
呼んだゾロアに「よろしくてよ」と気持ちよさそうに笑ってみせた。
「一度エルシドの施設をゾロア様に見てもらいたいわ」
「あのパルティア様、様はお止め頂けないでしょうか?ムズムズします」
「そうですわ、パルティア様。ゾロアに様など不要でございます」
自分で言うのはまだわからないでもないが、ニーナにまでばっさりやられて肩を竦めたゾロアに、パルティアは吹き出して笑い続けている
「パルティア様、笑いすぎですわよ」
「ご、ごめ・・なさ」
ニーナのお陰で早くも打ち解けたゾロアに、今考えていることを伝えていく。
「すると、山の中に拓かれた静かな広い土地と、そこに行くための整備された山道、貴族相手でも十分に対応できる地元の使用人・・・は平民でもよろしいのでしょうか?」
「エルシドは支配人と護衛以外は、メイド長以外すべて地元平民を雇っていますの。でもメイド長や支配人たちがしっかり教育しているから、まったく遜色なく仕事をこなしていますわ。それも貴方に一度見てもらいたいと思っております」
ゾロアも土地を扱う商人なので、エルシドの静養施設について話を聞いたことはあった。静養に来る貴族が増え、町が活性化されて大変な利益を産んでいると。
しかしその利益は経営する貴族の懐に入っているものだと思っていたのだが、パルティアの話を聞くとどうも違うようだと気づいた。
「ん?そうね、もちろん私や共同経営者にも利益が入るわ。でも元は、良い仕事に就く機会が少ない地元の平民たちに教育を施して、永続して安心して働いてもらうために作ったのよ。だからメンシアに施設を作るとしたら、地元の平民を雇わなくては意味がないの」
こともなさげに言うパルティアの、平民に対する愛情に驚く。
「しかし、エンダライン侯爵の領地でもないのになぜそこまで?」
「私、いろいろあってエルシドで静養しているとき、平民の少女たちと親しくなりましたの。彼女たちから教えられた話は、傷ついた私の辛さなどとは全然違う。私たち貴族は安定した生活の上で傷ついたり笑ったり喜んだりしているけれど、平民には安定した生活すらないものがたくさんいると知ったのですわ」
ふうっと息を吐く。
「私がしていることは、ごく一部の者に手を差し伸べているだけだということはわかっておりますの。でも、ほんの一握りの人にでも良い仕事に就く機会が作れたら、それでも十分だと・・いえ、そう思おうとしているだけかもしれませんわね」
珍しくパルティアがそんなことを言ったので、ニーナが前に歩み出た。
「パルティア様、メニアたちだけではございませんわ!あの施設ができてから、その周囲のどれほどの平民に仕事が増えたことか。パルティア様が作ったのは一つの施設ですが、それをきっかけにみんなが頑張れるようになったのですわ」
─不動産を扱う地場の商会なら数字に強い上、メンシアに人脈があり、しかも貴族─
「ドロアド男爵」
そう呼ぶと、ゾロアは恐縮して頭を下げた。
「ゾロアで結構でございます」
「そう、ではゾロア様、私のこともパルティアとお呼びくださいな」
「め、滅相もない」
「これから貴方の力をたくさん借りようと思っておりますのよ、私。毎回エンダライン侯爵令嬢パルティア様とか呼ばれたらまだるっこしくてたまりませんわ。はい、パルティアと呼んでみて」
ゾロアが困ってニーナを見ると、こくこく首を振っている。
しかたなさそうに恐る恐るという体で。
「ぱ、パルティア様」
呼んだゾロアに「よろしくてよ」と気持ちよさそうに笑ってみせた。
「一度エルシドの施設をゾロア様に見てもらいたいわ」
「あのパルティア様、様はお止め頂けないでしょうか?ムズムズします」
「そうですわ、パルティア様。ゾロアに様など不要でございます」
自分で言うのはまだわからないでもないが、ニーナにまでばっさりやられて肩を竦めたゾロアに、パルティアは吹き出して笑い続けている
「パルティア様、笑いすぎですわよ」
「ご、ごめ・・なさ」
ニーナのお陰で早くも打ち解けたゾロアに、今考えていることを伝えていく。
「すると、山の中に拓かれた静かな広い土地と、そこに行くための整備された山道、貴族相手でも十分に対応できる地元の使用人・・・は平民でもよろしいのでしょうか?」
「エルシドは支配人と護衛以外は、メイド長以外すべて地元平民を雇っていますの。でもメイド長や支配人たちがしっかり教育しているから、まったく遜色なく仕事をこなしていますわ。それも貴方に一度見てもらいたいと思っております」
ゾロアも土地を扱う商人なので、エルシドの静養施設について話を聞いたことはあった。静養に来る貴族が増え、町が活性化されて大変な利益を産んでいると。
しかしその利益は経営する貴族の懐に入っているものだと思っていたのだが、パルティアの話を聞くとどうも違うようだと気づいた。
「ん?そうね、もちろん私や共同経営者にも利益が入るわ。でも元は、良い仕事に就く機会が少ない地元の平民たちに教育を施して、永続して安心して働いてもらうために作ったのよ。だからメンシアに施設を作るとしたら、地元の平民を雇わなくては意味がないの」
こともなさげに言うパルティアの、平民に対する愛情に驚く。
「しかし、エンダライン侯爵の領地でもないのになぜそこまで?」
「私、いろいろあってエルシドで静養しているとき、平民の少女たちと親しくなりましたの。彼女たちから教えられた話は、傷ついた私の辛さなどとは全然違う。私たち貴族は安定した生活の上で傷ついたり笑ったり喜んだりしているけれど、平民には安定した生活すらないものがたくさんいると知ったのですわ」
ふうっと息を吐く。
「私がしていることは、ごく一部の者に手を差し伸べているだけだということはわかっておりますの。でも、ほんの一握りの人にでも良い仕事に就く機会が作れたら、それでも十分だと・・いえ、そう思おうとしているだけかもしれませんわね」
珍しくパルティアがそんなことを言ったので、ニーナが前に歩み出た。
「パルティア様、メニアたちだけではございませんわ!あの施設ができてから、その周囲のどれほどの平民に仕事が増えたことか。パルティア様が作ったのは一つの施設ですが、それをきっかけにみんなが頑張れるようになったのですわ」
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