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「メンシアに?おりますけど」
「そう!じゃあ私に紹介して頂戴」
「え?紹介ですか?」
「ええ。メンシアの人々や土地を知らなければできないと思うから」

 パルティアはやるならばしっかりと、エルシドの施設で見つけた様々な不備を改善した状態でと考え、それができないならやらないことにしようと決めていた。
 そのためには、メニアたちのような協力者が必要だ。信頼できて、離れていても任せられる人々が。

 パルティアがニーナと護衛を連れメンシアに向かったのは翌日。短めの旅支度をして馬車一台、五日ほどの予定である。

「勝手に長閑なところかと思っていたけど、港町なのね」
「ご存知ありませんでしたの?」

 意外そうにニーナが突っ込む。

「だいたいなんとなくはわかるけど、細かなところまではね。ニーナ、ご実家に寄りたいのではなくて?」
「あー。うーん?どうでしょう」
「何よそれ。はっきりお言いなさい。寄りたいなら寄るわ」
「・・・あまり寄りたくないです」

 家族大好きなパルティアには驚きの一言だ。

「折り合いが良くないのですわ、兄嫁と」
「ニーナの実家って子爵よね?」
「はい。男爵家から嫁いできた兄嫁は私が気に入らないようで」
「ふーん。そういうの、話には聞いたことがあるけれど。お母さまもご健在なのでしょう?お母さまと兄嫁さまはうまくやっていらっしゃるの?」

 無言のニーナを見て、聞かずとも答えがわかる。

「そう、それならなおさらのこと、お母さまにあなたの顔を見せて差し上げましょう。大丈夫よ、侯爵家の私がついておりますもの」

 普段のパルティアは、家の力に物を言わせるようなことをすることはしない。
が、妙にキラキラした目を見せているのがニーナにはむしろ不安であった。

「まずはメンシアにね」



 メンシアはエルシドとは違い、海と山に挟まれた町である。
港町のため活気があり、騒がしい。

「アレクシオス様ったらこんな賑やかなところがいいなんて、何故かしら」
「港側ではなく、山側ではありませんか?少し山に入ると静かなところがございますわ。それに山からなら海も見えて、素晴らしい眺望ですのよ」

 パルティアはあちらこちらを見渡しながら歩いている。
 食べ物、人の顔、建物。
エルシドとは違い、全体にせかせかして慌ただしい。
魚を焼く香ばしい匂い、誰かの怒鳴り声、潮の香りが様々入り混じり、どうも落ち着かない。

「では山へ行ってみましょうか」

 馬車の窓を開けて、山道に踏み込んでいくと揺れが一層大きくなるが、取り戻された静けさと緑を感じさせる空気にホッとする。

「私は、やっぱりこちらのほうがよいと思うわ」

 いくつかある低い山を登ったり下りたりしてみた。どこも馬車が通れる道が整備・・・というほどではないが、移動はしやすくなっている。
 手に入れることができる土地と、そこで働く信頼できる人々が見つけられるかにより答えが決まるのだが。

「港から馬車で20分ほど上がったところに売地があるそうですわ」

 ニーナが旧知の不動産屋を訪ねて戻ってきた。

「案内させますか?」
「まだやるとは決めていないのだけど」

 しかしニーナは馬車まで不動産屋をひっぱってきた

「私がお仕えしているエンダライン侯爵家のパルティア様よ。パルティア様、これは幼馴染みのゾロア・ドルアド男爵です」
「まあ、男爵が不動産屋さんなの?」
「ええ、男爵と申しましても領地もないですし、士官するか商会を起こすかしかありませんから」
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