31 / 75
31
しおりを挟む
ふたりきりになる。
と言ってもお互いに侍女侍従を控えさせているので、まったくのふたりきりではないが、ちらちらと視線を合わせ、交わし、逸らすもどかしい姿に、ニーナは拳を握りしめていた。
可愛らしいとも言えるが、じれったくて、後ろからパルティアに向けてアレクシオスを突き飛ばしてやりたくなったほどである。
「あの、ではこちらの進捗を話そう」
せっかくいい雰囲気だったのに、アレクシオスが仕事の話を始めてしまい、ニーナは地団駄を踏む。ふと見ると、アレクシオスの侍従も拳を握りしめて食い入るようにふたりを見つめていた。
アレクシオスが席を立ち、大きな籠を持って来るとパルティアの前に置いて、また座り直す。
「これ、アメニティですわね」
ソープや優しい手触りのタオルなどが詰め込まれており、顔を寄せると品の良さを感じさせる優しい香りが鼻に届いた。
「素敵な香りだわ」
「メニアがこの地域の花を教えてくれたので、使ってみたんだ」
メニアはパルティアがエルシドで最初に親しくなった平民の少女の一人である。
静養施設ができたらもちろんそこで働いてもらうつもりでいるが、地元との繋がりに一役買ってくれている。
ダルディーンたちとともに建物を建てる地元の大工たちは、メニアが紹介してくれ、設計の準備が出来たらすぐ仕事に入れるように待機している。
パルティアはその待機期間も全額ではないながらも一定の日当を払うと決めており、工事が始まるまでも大工たちは安心して待つことができたのだった。
翌日、その大工たちとダルディーン、現場監督になるミルツたちの顔合わせが行われた。
設計図はダルディーンが夜通しで描き上げ、資材の手配も済ませており、それが届いたらすぐ建築開始だ。
「これは随分シンプルな装飾ですね」
大工のフィンが意外そうに言う。
「貴族が泊まると言っても疲れて休むための場所だから、装飾は控えめに、でもほら」
ダルディーンが、貴族の好みそうな装飾を目立たぬよう配置していることを、図面を手に指し示す。
「なるほど」
「やってくれるかな?」
ダルディーンとミルツ、大工の棟梁が話し込むとパルティアは茶の用意を手配してその場を離れた。
「出来上がりが楽しみだ」
「本当に!」
建築が始まると、パルティアはダルディーンとミルツにそちらを任せて、アレクシオス、そしてメニアとエリオラ、アンシュという三人の少女たちと相談を重ねる。
パルティアはこの三人を中心に任せるつもりでいたが、話を進めるほどに、貴族相手に慣れた者が必要だと痛感するようになっていた。
言葉遣いや所作など、このままが彼女たちらしさなのだが、それがいいという者だけではないだろうと気がつくことが節々にあったから。
「アレクシオス様、ご相談がありますの」
と言ってもお互いに侍女侍従を控えさせているので、まったくのふたりきりではないが、ちらちらと視線を合わせ、交わし、逸らすもどかしい姿に、ニーナは拳を握りしめていた。
可愛らしいとも言えるが、じれったくて、後ろからパルティアに向けてアレクシオスを突き飛ばしてやりたくなったほどである。
「あの、ではこちらの進捗を話そう」
せっかくいい雰囲気だったのに、アレクシオスが仕事の話を始めてしまい、ニーナは地団駄を踏む。ふと見ると、アレクシオスの侍従も拳を握りしめて食い入るようにふたりを見つめていた。
アレクシオスが席を立ち、大きな籠を持って来るとパルティアの前に置いて、また座り直す。
「これ、アメニティですわね」
ソープや優しい手触りのタオルなどが詰め込まれており、顔を寄せると品の良さを感じさせる優しい香りが鼻に届いた。
「素敵な香りだわ」
「メニアがこの地域の花を教えてくれたので、使ってみたんだ」
メニアはパルティアがエルシドで最初に親しくなった平民の少女の一人である。
静養施設ができたらもちろんそこで働いてもらうつもりでいるが、地元との繋がりに一役買ってくれている。
ダルディーンたちとともに建物を建てる地元の大工たちは、メニアが紹介してくれ、設計の準備が出来たらすぐ仕事に入れるように待機している。
パルティアはその待機期間も全額ではないながらも一定の日当を払うと決めており、工事が始まるまでも大工たちは安心して待つことができたのだった。
翌日、その大工たちとダルディーン、現場監督になるミルツたちの顔合わせが行われた。
設計図はダルディーンが夜通しで描き上げ、資材の手配も済ませており、それが届いたらすぐ建築開始だ。
「これは随分シンプルな装飾ですね」
大工のフィンが意外そうに言う。
「貴族が泊まると言っても疲れて休むための場所だから、装飾は控えめに、でもほら」
ダルディーンが、貴族の好みそうな装飾を目立たぬよう配置していることを、図面を手に指し示す。
「なるほど」
「やってくれるかな?」
ダルディーンとミルツ、大工の棟梁が話し込むとパルティアは茶の用意を手配してその場を離れた。
「出来上がりが楽しみだ」
「本当に!」
建築が始まると、パルティアはダルディーンとミルツにそちらを任せて、アレクシオス、そしてメニアとエリオラ、アンシュという三人の少女たちと相談を重ねる。
パルティアはこの三人を中心に任せるつもりでいたが、話を進めるほどに、貴族相手に慣れた者が必要だと痛感するようになっていた。
言葉遣いや所作など、このままが彼女たちらしさなのだが、それがいいという者だけではないだろうと気がつくことが節々にあったから。
「アレクシオス様、ご相談がありますの」
23
お気に入りに追加
885
あなたにおすすめの小説
あなたの仰ってる事は全くわかりません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。
しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。
だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。
全三話
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜
水都 ミナト
恋愛
精霊王を信仰する王国で、マナの扱いに長けた侯爵家の娘・ナターシャ。彼女は五歳でレイモンド王太子殿下の婚約者に抜擢された。
だが、レイモンドはアイシャ公爵令嬢と想い合っていた。アイシャはマナの扱いが苦手で王族の婚約者としては相応しくないとされており、叶わない恋であった。
とある事件をきっかけに、ナターシャは二人にある提案を持ち掛けるーーー
これはレイモンドとアイシャ、そしてナターシャがそれぞれの幸せを掴むまでのお話。
※1万字程度のお話です。
※他サイトでも投稿しております。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】
あくの
恋愛
女性が高等教育を受ける機会のないこの国においてバイユ公爵令嬢ヴィクトリアは父親と交渉する。
3年間、高等学校にいる間、男装をして過ごしそれが他の生徒にバレなければ大学にも男装で行かせてくれ、と。
それを鼻で笑われ一蹴され、鬱々としていたところに状況が変わる出来事が。婚約者の第二王子がゆるふわピンクな妹、サラに乗り換えたのだ。
毎週火曜木曜の更新で偶に金曜も更新します。
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
【完結】隣国の騎士と駆け落ちするために殺したはずの冷徹夫がなぜか溺愛してきます
古都まとい
恋愛
【第23回角川ビーンズ小説大賞1次選考通過作】
貧民窟出身のメルフェリーゼ20歳。2年前、14歳年上でユルハ王国第二王子のアウストルと結婚した。しかし、年上の夫はメルフェリーゼに指一本触れず、会話もない。冷めた結婚生活、周囲からは世継ぎだけを望まれる日々。
ある日、城に隣国の騎士だという男が大怪我をして運び込まれてきた。怪我によって国へ戻れなくなった騎士は、一冬の療養中、メルフェリーゼの孤独に触れて恋に落ちる。孤独と依存の果て、メルフェリーゼは夫を殺し、騎士との駆け落ちを選ぶが――。
「他の男のものになることを、俺が許すと思ったか?」
そこに立っていたのは、殺したはずの夫。
殺人からはじまる、溺愛生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる