上 下
22 / 75

22

しおりを挟む
「パルティア様!ダルディーン・ムイゾリオ様が応接にてお待ちでございます」
「そう!すぐに行くわ」

 ニーナを連れて部屋を出ると、ベニーと護衛のトライドがいる。

「行きましょ!ベニー、彼はどんな方?」
「これと言って特徴もない、普通の貴族の青年でございますな」
「何その言い方!もっと言い様があるでしょう?」

 パルティアがベニーにつっこんだが、それ以上聞く間もなくベニーが応接の扉を開けた。
 息を整える時間もなく、パルティアは開いた扉の向こうにいたダルディーン・ムイゾリオといきなり顔を合わせることになったのだが。

「あ、どうも。ダルディーン・ムイゾリオでございます」

 ベニーが言うとおり、ブラウンの緩いくせのある髪にブラウンの瞳で、ごくごく平凡な容姿をしている。声も高すぎず低すぎず印象に残るものがない。
 そんなことをぼんやりと思い浮かべながら、顔には出さずににっこりと

「ようこそいらしてくださいました。パルティア・エンダラインと申します」

執事が淹れた茶を勧め、少しは世間話でもするのかと思っていたダルディーンだったが、パルティアは時間を惜しむようにサッと大きな紙を広げた。

「これは?」
「建てたい建物の私の意匠のイメージですわ」
「へえ」

 そう言うと。
ドアランのように馬鹿にしたりはせず、指先でパルティアの拙い線を辿っていく。

「この建物の用途は?」
「都会に疲れ、静養が必要な貴族のための施設と考えております」
「貴族向け?それにしては装飾が少ないのではありませんか?」

 パルティアとダルディーンは、お互いに話し合うことができる相手と認識した。

「訳あって私自身がしばらく静養しなければなりませんでした。そのときの経験で、社交界から遠くにその身を置きたいとき、華美に飾られた処より何にもないコテージの方がまだ休まるものを感じましたわ。でも平民向けのコテージでは貴族の身には足りないこともあるとわかりましたから、貴族故の苦しさを穏やかに癒やし、でも過不足なく静養できる施設を作ろうと思いましたの」
「なるほど。観光のような華やかさや楽しさは不要と」
「そうですわね、医者に静養を勧められるような者にとっては、むしろそのような場は苦しいものですから」

 パルティアは、ベニーに冷めてきた茶を淹れ替えるよう言い付けて、先を続ける。

「でも人は我儘なもの。心が少し上向きになると、何もないことが寂しくも感じてしまうのです。
まわりを見る余裕ができたときに、良く見たら上質な装飾が施されていたという風に造りたいのですけれど、こんなお話でおわかり頂けますかしら?」

 パルティアが見上げたダルディーンの目は爛々としていた。

「す・・ばらしい!素晴らしいお考えです!」

 装飾が少なければ、報酬も少なくなりがちだが、わかりやすくゴテゴテした物ではないだけで、心休まる品の良い装飾を求めている。
話を聞く限り、ダルディーンが常々建ててみたいと思っている意匠に近いようだ。
 パルティアが描いた紙を引き寄せると、ダルディーンは思いつくままをすごい勢いで描き込み始め、パルティアとニーナたちはそれをきょとんと見守っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの仰ってる事は全くわかりません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。  しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。  だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。 全三話

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜

水都 ミナト
恋愛
精霊王を信仰する王国で、マナの扱いに長けた侯爵家の娘・ナターシャ。彼女は五歳でレイモンド王太子殿下の婚約者に抜擢された。 だが、レイモンドはアイシャ公爵令嬢と想い合っていた。アイシャはマナの扱いが苦手で王族の婚約者としては相応しくないとされており、叶わない恋であった。 とある事件をきっかけに、ナターシャは二人にある提案を持ち掛けるーーー これはレイモンドとアイシャ、そしてナターシャがそれぞれの幸せを掴むまでのお話。 ※1万字程度のお話です。 ※他サイトでも投稿しております。

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】

あくの
恋愛
 女性が高等教育を受ける機会のないこの国においてバイユ公爵令嬢ヴィクトリアは父親と交渉する。  3年間、高等学校にいる間、男装をして過ごしそれが他の生徒にバレなければ大学にも男装で行かせてくれ、と。  それを鼻で笑われ一蹴され、鬱々としていたところに状況が変わる出来事が。婚約者の第二王子がゆるふわピンクな妹、サラに乗り換えたのだ。 毎週火曜木曜の更新で偶に金曜も更新します。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

処理中です...