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 ランバルディ・セリアズ公爵は非常に厳格なことで知られている。
人にも、また自分にも厳しいと言われるが唯一、亡くなった妻に生き写しのアレクシオスにだけは甘かった。



「シリドイラ家とは切っても切れぬ仲と伺っておりましたが、よろしいのですか」

 カーライルが訊ねたとき、それまでの丁寧な物腰や表情ががらりと厳しいものに変わった。

 ─これだ、この厳しさが本来のランバルディ・セリアズ公爵─

「派閥力学上、大切と考えてはいたが、信用ならぬものと繋がる気はない。窮地に手を差し伸べてくれる者こそが本物の友。どちらを選ぶべきかは言わずもがなだ」

 シリドイラを切り捨てると気持ちを固めたことが言葉の端々から読み取れる。
 それまでどれほどいがみ合おうと、筆頭貴族同士が手を組むと決めたら傘下はすべて右に倣うものだ。先祖代々の経緯もあり、味方にできるなど考えたこともなかった相手だが、味方になったらこれほど力強い相手はいないだろう。
 今、是と答えるだけで、それを手にすることができる。

 カーライルはにこやかに手を差し出し、ランバルディと握手を交わした。

「ところでパルティア様はお幾つでいらっしゃるのかな」

 握手をしたまま、ランバルディが訊ねる。

「じきに19になります」
「我がアレクシオスは今21。よい年回りだと思いませんかな。まあ、今は互いに傷を癒やすことが何より大切だが、次男故、いつか良い先に婿に出してやりたいと思うておりますことを是非、その胸に留め置いて頂きたい」

 これにはさすがのカーライルも驚きすぎて呆然とした。
 共同出資や派閥の協定でも十分凄いと思っていたが、ランバルディはパルティアの次の婚約者にセリアズの次男を求めよと言っているのだから。

「もったいなきお言葉、光栄至極に存じます」
「うむ。忘れずにいてくれれば今はそれで十分だ。今はな」

 ─昨日の敵は今日の友とは良く言ったものだ─

 カーライルは、ランバルディが帰ったあとも興奮が収まらず、それこそ一日中騒ぎっぱなしでスーラ夫人に何度も怒られる羽目になった。

 夜、少し落ち着いてきたところで、数日後には戻るはずのパルティアに便りを書く。
 セリアズ公爵と手を携えることができたのはパルティアのお陰であること、共同出資事業は両家とも大歓迎であること。
 ただランバルディがアレクシオスの婿入り先を早くもパルティアに定めたらしいことだけは秘密にしておいた。

 手紙を受け取ったのはパルティアだけではない。
アレクシオスにも父ランバルディからの手紙が届けられていた。
帰宅を心待ちにしているが、エンダライン侯爵との相談が非常にうまくいったことや、パルティアとの共同事業の準備があるなら滞在を延ばしても構わないこと。
 シリドイラより慰謝料が支払われたことなどがずらずら書かれていたが、堅苦しい文章の中に無事を喜ぶ気持ちが溢れており、父の思いに気づいたアレクシオスは自らの命を大切にしなければと大いに反省したのであった。
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