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「わかった、わかったからそんなにあの、口に放り込むのを止めてくれないだろうか」

 飲み込むとすぐ次、すぐ次と、どんどんと飲ませようとするパルティアに音を上げた。

「そんなに続けざまに飲ませられたらスープで溺れてしまう」
「まあ、よろしいではありませんか!溺れたかったのでしょう?ささっ、どうぞどうぞ」

 そう言って笑いながら、またスープを飲ませようと待ち受けるのだ。

「ああ、もう貴女ってひとは」

 とうとう青年まで笑い始める。

「はっ、ははは。・・・・ああ、久しぶりに笑ったな」

 満面幸せそうににっこにこのパルティアを見て、自分の笑い声が彼女を笑ませたと気づいた青年は、もう一度照れくさそうに少しだけ笑って見せた。

「申し遅れました、私エンダライン侯爵家の長女パルティアと申します」

 青年は驚いたような顔をした。そして言いにくそうにこう名乗った。

「私は・・・ランバルディ・セリアズ公爵の次男アレクシオスと申します」
「え?セリアズ公爵のご令息?それってまさか?」
「ああ、たぶんそのまさか・・・かと」

 オートリアスの駆け落ち相手、ライラ・シリドイラ侯爵令嬢の婚約者・・・。

「私、よくあの湖畔で貴方をお見かけしていたのです。辛そうな悲しそうな姿はまさにここに来た頃の私だと思いましたの。だから助けなくてはと思ったのですけど、どうやら本当に私は私自身を助けたようですわね」

 ちょっとだけ肩を竦めて、困ったように笑って見せた。

「セリアズ公爵ご令息様」
「私は貴女にお助け頂いた身、アレクシオスで結構です」
「では、私のこともパルティアとお呼びになりますわね」
「え」
「どうぞ。パルティアとお呼びになってみて」
「え、いや、あの、え、エンダライン侯爵ご令嬢・・・」
「では私もセリアズ公爵ご令息様とお呼びしますわ」

 ふっ、ふふっとどちらともなく笑い出す。

「ああ、貴女と話していると自然と笑ってしまうな」
「ええ、私もですわ」

 ふともの思いに耽ったパルティアが、はっきりとアレクシオスに視線を合わせた。

「しばらく社交界は私たちを気の毒がるでしょうけれど、セリアズ公爵ご令息様はもうひとりではありませんわ。これからは私という同志がおりますから、それをお忘れなく」
「あ、ああ、ありがとう。私のこともそう思ってくれたらうれしい。あの・・・やはり、その呼び方はちょっとあれだと思いませんか?アレクシオスと。私もパルティア様とお呼びしますから」

 たった今、アレクシオスは自ら一歩踏み出した。

「ええ、そうですわね!私もそれがよろしいと思いますわ、アレクシオス様」

 期せずして同じ傷を負った二人。
それぞれを心配した親の偶然の思いつきで、エリシドで巡り逢うことになったのだった。
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