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65 頼み事

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 リイサが提案し、ソルベートが練り上げた受付ゲートのシステムは国王からも支持を得ることができ、すんなりと話が進んでいった。
 女性の名札は、やはりブローチ型に嵌め込むタイプしてドレスにも合わせやすくすることになり、もちろんサリンドン商会もサレンドラ家出入りの宝飾工房に意匠を依頼した。

「ドレスは流行もあるし、それに毎回同じものを身につけるというのはね」

 ミラ夫人が試作をドレスに当てて、不満を述べる。

「そうですわね、では思い切ってブローチはオーダーメイドにしてみてはいかがかしら」
「オーダーメイド?」
「ええ。但しパーティーや茶会と言った社交用限定ですが。
その時は決まりきった名札ではなく、名札プレートを嵌め込める物ならどこで頼んでもよいとしたらいかがかしら」
「それでは開発者の権利がもったいないではないか」

 家族に混じりこんだソルベートが言う。そういうことにすぐ気づくのが彼らしいとサレンドラの人々は口角を上げた。

「まあでもこのくらいはよろしいと思いますわ。ブローチの留め方に一つ考えがございますの。その開発登録がなされれば、ブローチの留め具だけでも売り上げになると思いますもの」

 ブローチは台座裏に穴が空いており、ドレスに毎回縫い付けて使うように作られている。
 ミラが夜会に行く度に侍女たちが縫い付けたり糸を切ってはずしたりをくり返すのを見て、安全ピンがないのか調べてみたのだ。無いとわかると安全ピンの絵を描いてホートンに渡した。

「これはなんですか?」
「安全ピン」
「え?なに?アンジェンピ?」
「んー、ちょっと違うけど似ていることは間違いないわね」
「何に使うんです?」
「様々なものを留めるの」
「どうやって?」
「口では説明が難しいわ。宝飾工房か例えば針を作る職人とか、知り合いはいないかしら?」
「宝飾工房はすぐ頼める知人がいますが、金物の方は少しお時間を頂きたいです」
「ええ、少しくらい待つのは構わないわ」

 ホートンが金物細工師を探す間、リイサは名札ブローチの意匠を考えていた。
 しかし、残念ながらリイサは美しいものを造形するセンスに欠けていた。いくら考えても素敵な意匠は浮かんでこないのだ。

「はあー、やっぱり付け焼き刃では貴族の求めるものなんて思いつかないわ。だれかデザイナーを探さないと」

 もちろん宝飾工房でもデザイナーを抱えているはずだが、ホートンの今までの伝手では高位貴族が気にいるものが作れるか微妙とも思っていた。

「そうだわ!」

リイサは母の部屋に向かった。

「お母さま、入ってもよろしいでしょうか」
「ええ、もちろんよリィ」

 刺繍をしていたミラは隣の椅子を勧め、侍女に茶を淹れさせる。

「あの。そろそろ季節も変わりますしロザマリーナ様をお呼びしたいのですが」

 サレンドラ家ではメルトニウスも含めた皆が、社交用の衣装すべてをロザマリーナに頼んでいる。

「そうね、そういえばしばらく呼んでいなかったわ」
「実は少しロザマリーナ様にご相談があるのですけど、お呼びする際にそれも伝えてほしいのです」
「相談?」
「ええ、例のブローチの意匠。ホートンも知り合いの宝飾工房に当たってくれていますが、爵位の高い貴族には」
「ああ、そうね。ホートン男爵の今までの人脈ではたかが知れているわ。確かにロザマリーナなら適任者を紹介してくれるでしょう」
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