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第8話 茶会
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王妃の茶会に招かれた日。
リイサとミラ夫人は新しいドレスを纏い、もちろん素晴らしい刺繍の絹手袋をはめて王妃の庭へと向かった。
「ミラ様、リイサ嬢、この度は愚息が本当に申し訳ございませんでしたわ」
ふたりの姿を見て立ち上がるとさっと頭を下げた王妃に、びっくりしたミラが王妃以上に深く頭を下げたのでリイサも頭を下げようとしたのだが。
ズキンッ!
後頭部の傷あとに鋭い痛みが走り、ふらついてテーブルに手をついてしまう。
「リイサっ!」
「だ、大丈夫ですわ」
前屈みのままじっと痛みが引くのを待ち、ゆっくりと体を起こすと、ミラと王妃が目玉が落ちそうなほど目を開いて見つめていた。
「顔色が良くないわ、やっぱりまだ早かったのね。わたくしが気が急いて呼んだばかりにごめんなさいリイサ嬢」
「いえ、王妃様。急に頭を深く下げたからだと思います。ゆっくりと動けば大丈夫ですから」
「とにかく座って」
王妃はクッションとオットマンにブランケット、温かなミルクを運ばせ、リイサが寛いで座れるようにてきぱきと指示を出す。
庭のガゼボだが、まるで部屋のソファに座っているように調えられ、リイサは漸く頬に赤みもさしてきた。
「少し休んでから帰る方がいいと思うわ」
居た堪れない気持ちの王妃に、リイサは微笑みかけた。
「もう十分して頂いておりますゆえ、これ以上のお気遣いは」
─何この口調!あたしじゃないみたい!─
リイサの口から、まるで本当の貴族令嬢のような言葉が次から次から紡ぎだされていく。
─リイサ、貴女もまだあたしの中のどこかにいるのかしら─
いや、リイサの魂は頭を打ちつけて亡くなった時に二柱の神の間でトレードされ、既に他の世界で赤子に生まれ変わっている。
貴族の習慣やマナーにリイサが慣れただけであった。
王妃の庭で暖かくぬくぬくと過ごしていると、ガルシア第一王子が現れた。
王妃と同じように、王家の一員とは思えぬほど深く腰を折り謝罪を述べ始めたのでリイサは慌てて止めようとしたのだが、一向に顔を上げず長い長い謝罪を止めようとしない。
「殿下、お願いですからもうお止めになってください」
泣き落としのように頼んで、ガルシアは漸く顔を上げた。
「私は知っていて諌めなかったのだ、あの子爵令嬢との付き合いを。そこまで馬鹿ではないだろうと、いつか目を覚ますと思っていた。しかし私の甘さでリイサ嬢を危険に晒してしまって、正直あわす顔がないと思っている」
「いえ、きっとわたくしの力不足でございましょう。わたくしがニーラス殿下をお諌めしても、改めては下さらなかったと聞いておりますわ。ですから殿下もお気になさらずに。ほら!わたくしこうして生きて戻りましたのですから」
腕を広げておどけて見せたリイサは、それまでのきりりとした公爵令嬢の面影はなく、天真爛漫な少女のようで、ガルシアは思わず胸がドキリと大きく鼓動したのを感じて戸惑った。
リイサとミラ夫人は新しいドレスを纏い、もちろん素晴らしい刺繍の絹手袋をはめて王妃の庭へと向かった。
「ミラ様、リイサ嬢、この度は愚息が本当に申し訳ございませんでしたわ」
ふたりの姿を見て立ち上がるとさっと頭を下げた王妃に、びっくりしたミラが王妃以上に深く頭を下げたのでリイサも頭を下げようとしたのだが。
ズキンッ!
後頭部の傷あとに鋭い痛みが走り、ふらついてテーブルに手をついてしまう。
「リイサっ!」
「だ、大丈夫ですわ」
前屈みのままじっと痛みが引くのを待ち、ゆっくりと体を起こすと、ミラと王妃が目玉が落ちそうなほど目を開いて見つめていた。
「顔色が良くないわ、やっぱりまだ早かったのね。わたくしが気が急いて呼んだばかりにごめんなさいリイサ嬢」
「いえ、王妃様。急に頭を深く下げたからだと思います。ゆっくりと動けば大丈夫ですから」
「とにかく座って」
王妃はクッションとオットマンにブランケット、温かなミルクを運ばせ、リイサが寛いで座れるようにてきぱきと指示を出す。
庭のガゼボだが、まるで部屋のソファに座っているように調えられ、リイサは漸く頬に赤みもさしてきた。
「少し休んでから帰る方がいいと思うわ」
居た堪れない気持ちの王妃に、リイサは微笑みかけた。
「もう十分して頂いておりますゆえ、これ以上のお気遣いは」
─何この口調!あたしじゃないみたい!─
リイサの口から、まるで本当の貴族令嬢のような言葉が次から次から紡ぎだされていく。
─リイサ、貴女もまだあたしの中のどこかにいるのかしら─
いや、リイサの魂は頭を打ちつけて亡くなった時に二柱の神の間でトレードされ、既に他の世界で赤子に生まれ変わっている。
貴族の習慣やマナーにリイサが慣れただけであった。
王妃の庭で暖かくぬくぬくと過ごしていると、ガルシア第一王子が現れた。
王妃と同じように、王家の一員とは思えぬほど深く腰を折り謝罪を述べ始めたのでリイサは慌てて止めようとしたのだが、一向に顔を上げず長い長い謝罪を止めようとしない。
「殿下、お願いですからもうお止めになってください」
泣き落としのように頼んで、ガルシアは漸く顔を上げた。
「私は知っていて諌めなかったのだ、あの子爵令嬢との付き合いを。そこまで馬鹿ではないだろうと、いつか目を覚ますと思っていた。しかし私の甘さでリイサ嬢を危険に晒してしまって、正直あわす顔がないと思っている」
「いえ、きっとわたくしの力不足でございましょう。わたくしがニーラス殿下をお諌めしても、改めては下さらなかったと聞いておりますわ。ですから殿下もお気になさらずに。ほら!わたくしこうして生きて戻りましたのですから」
腕を広げておどけて見せたリイサは、それまでのきりりとした公爵令嬢の面影はなく、天真爛漫な少女のようで、ガルシアは思わず胸がドキリと大きく鼓動したのを感じて戸惑った。
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