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第38話 

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 ジュールはトーソルドの愛人だったルイーフの住まいと仕事先を探し出すと、まずアニエラに本人に慰謝料の請求書を出すよう勧めた。

 届けられたアニエラの書状を読んだルイーフは、それを丸めて捨てたが。

「なにこれ、慰謝料?こっちがもらいたいわよ。こっちは青春捧げて結婚もできなかったんだからね」

 そう毒を吐きながら。

「予想はしていたが、本当にうんともすんとも言ってこないな」

 ジュールは、アニエラに裁判所に行こうと誘った。

「おとなしく慰謝料払えばよかったと後悔させてやろう!」

 ジュールは城の文官で、このような訴事に明るい。訴状はジュールがさくさくと作成してやることにした。
何しろ不貞を知る証人はいくらでもいるのだ、一人づつ証言を集めて追加資料を作成した。
 アニエラ自ら連絡を取ったジョリス・メーラー子爵なども証言をし、愚かにも裁判の召喚状を無視したルイーフは罪を認めたと判断されて一方的に審理が進み、あっという間にルイーフに支払い命令が下されることに。

「な、なによこれ!」

 とても払いきれない金額の慰謝料が書かれた命令書を、怒りに任せて破ろうとしたルイーフだったが、それを届けた使いがその腕を掴んで止めた。

「待ちなさい!それは法に則り下された命令書で、違えてはならぬ物ですよ。破いても無駄ですし、それをすればあなたの心証は悪くなるだけです」
「なぜ私があの女に金を払わなくちゃいけないのよっ、こんな金額冗談じゃないわ」
「あなたの事情は私の知るところではございません。払うべきと裁判官が定めるほどのことをなさったのでしょう?払えないなら払えるようにするしかないのです。一度に払えないならあなたは裁判所に出頭し、支払いの計画を立ててこの奥様に認めてもらわねばなりませんね」

 ルイーフは呆然と立ち尽くしていた。
裁判所の使いとは玄関先でやり取りしたため、近所の煩い雀たちが好奇心を隠さぬ顔で覗き込んでいる。

 ─失敗した!これではあっという間に噂が広がってしまうじゃない!─

 書状を受け取り、その場で話したりせずにすぐに室内に入るべきだった。話があるなら裁判所に行って話すべきだったのだ。

 ルイーフの顔は怒りなのか焦りなのか、赤く汗ばんでいる。

 その町は平民街の中でも元貴族の者が多く住む町で、ルイーフのように貴族のタウンハウスで通いの使用人を務める者がほとんど。
城勤めの者がいたらだらしない近衛騎士の噂を知られたかもしれないが、平民街では夫婦を装って暮らすルイーフとトーソルドの不貞をわざわざ疑う者はいなかったので、今までは静かに暮らすことができたというのに。
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