77 / 80
第4章
第77話 穏やかな時間
しおりを挟む
国王はキャロラ第二夫人とトローザー第三王子、ターナル伯爵一族は速やかに毒杯を、それに遅れて、ミイヤは貴族を謀ろうとした平民として見せしめに公開処刑されると決めた。
ソイスト侯爵家での夕餉のあと。
「最期にミイヤと話をしたければ時間を下さるそうだが、皆どうする?」
家族四人で寛いでいたとき、急に思い出したマーカスが切り出した。
「アレと交わす言葉などございませんわ」
リラの言葉に当然のように一堂頷く。
「それよりトリーたちの結婚が遅れてしまうことが心配ですわ」
一度振り切れたリラは、ミイヤに対し誰よりも冷たく厳しかった。
ユートリーを思うリラとミイヤを切り捨てるリラを見て、マーカスもサルジャンも、ただ優しくにこにこしているだけではない彼女の二面性を初めて知り、決してここまで怒らせるようなことをしてはいけないと肝に銘じる。
「お母様、遅れると言ってもほんの少しのことですし、それだけ家族と一緒に過ごせるのですから私はそれもうれしいですわ」
ほんのりと微笑むユートリーが場を和ませて。
「そうだな。私もそう思うよ。そうだ、せっかくだから家族四人で旅行でも行かないか?」
マーカスの思いつきは素晴らしいものだった。
ミイヤを引き取ってからというもの、いつも不憫な末っ子が行きたいところに行っていた。本当の家族だけの旅行など、もう8年近く行っていない。
「素敵ね!どこがいいかしら、海?山?湖?」
そう言うリラに、マーカスは
「全部行けばいい!二週間もあれば回れるぞ!」
湖のある山に行って、帰りに海に寄る。
サルジャンとユートリーはこどものように水辺ではしゃぎ、山の幸を、そして海の幸を堪能した。
「もっとこうして皆で旅行に行きたかったですわ」
ユートリーが寂しそうにぽつんと零し、ぼんやりしていたと思うと急に声を上げた。
「私が結婚しても、お兄様が結婚しても、それぞれの家族全員が参加して一緒に旅行するのはどうかしら!」
一度家族を失う恐怖、二度と会えなくなる悲しみを強く感じたソイスト侯爵家は、以前より格段にその絆を強めていた。
一緒にいられる時間は思いの外短いかもしれないのだ。
「そうだな、しかしナイジェルス殿下はそれいいと仰るかな」
「ええ、もちろん。そうに決まっていますわ!」
自信満々にユートリーが宣言する。
「そうしたらもっと賑やかに楽しくすごせますわね」
「では海と山に別荘でも買うか!」
調子に乗ったマーカスを、いつもなら大きな金を使うときは一度計画を立ててからと窘めるリラだが今日は違う。
「それ、よろしいわね!孫が出来ても皆で泊まれるようにベッドルームが多い別荘がいいわ!」
ソイスト侯爵家に戻ったリラは、胸にぽっかりと空いた穴を埋めるため子犬を飼い始めた。
絹のように艷やかな長い白い被毛を持つその犬は、伝説のフェンリルの姿絵とよく似ていて、子犬のころから大きな体躯をしていたが、あっという間に牛ほどの大きさに育つ。リラとユートリーは目に入れても痛くないほどに大きすぎる犬を可愛がり、マーカスとサルジャンは、ふたりには可愛がるものが必要なのだと改めて知ったのだった。
ソイスト侯爵家での夕餉のあと。
「最期にミイヤと話をしたければ時間を下さるそうだが、皆どうする?」
家族四人で寛いでいたとき、急に思い出したマーカスが切り出した。
「アレと交わす言葉などございませんわ」
リラの言葉に当然のように一堂頷く。
「それよりトリーたちの結婚が遅れてしまうことが心配ですわ」
一度振り切れたリラは、ミイヤに対し誰よりも冷たく厳しかった。
ユートリーを思うリラとミイヤを切り捨てるリラを見て、マーカスもサルジャンも、ただ優しくにこにこしているだけではない彼女の二面性を初めて知り、決してここまで怒らせるようなことをしてはいけないと肝に銘じる。
「お母様、遅れると言ってもほんの少しのことですし、それだけ家族と一緒に過ごせるのですから私はそれもうれしいですわ」
ほんのりと微笑むユートリーが場を和ませて。
「そうだな。私もそう思うよ。そうだ、せっかくだから家族四人で旅行でも行かないか?」
マーカスの思いつきは素晴らしいものだった。
ミイヤを引き取ってからというもの、いつも不憫な末っ子が行きたいところに行っていた。本当の家族だけの旅行など、もう8年近く行っていない。
「素敵ね!どこがいいかしら、海?山?湖?」
そう言うリラに、マーカスは
「全部行けばいい!二週間もあれば回れるぞ!」
湖のある山に行って、帰りに海に寄る。
サルジャンとユートリーはこどものように水辺ではしゃぎ、山の幸を、そして海の幸を堪能した。
「もっとこうして皆で旅行に行きたかったですわ」
ユートリーが寂しそうにぽつんと零し、ぼんやりしていたと思うと急に声を上げた。
「私が結婚しても、お兄様が結婚しても、それぞれの家族全員が参加して一緒に旅行するのはどうかしら!」
一度家族を失う恐怖、二度と会えなくなる悲しみを強く感じたソイスト侯爵家は、以前より格段にその絆を強めていた。
一緒にいられる時間は思いの外短いかもしれないのだ。
「そうだな、しかしナイジェルス殿下はそれいいと仰るかな」
「ええ、もちろん。そうに決まっていますわ!」
自信満々にユートリーが宣言する。
「そうしたらもっと賑やかに楽しくすごせますわね」
「では海と山に別荘でも買うか!」
調子に乗ったマーカスを、いつもなら大きな金を使うときは一度計画を立ててからと窘めるリラだが今日は違う。
「それ、よろしいわね!孫が出来ても皆で泊まれるようにベッドルームが多い別荘がいいわ!」
ソイスト侯爵家に戻ったリラは、胸にぽっかりと空いた穴を埋めるため子犬を飼い始めた。
絹のように艷やかな長い白い被毛を持つその犬は、伝説のフェンリルの姿絵とよく似ていて、子犬のころから大きな体躯をしていたが、あっという間に牛ほどの大きさに育つ。リラとユートリーは目に入れても痛くないほどに大きすぎる犬を可愛がり、マーカスとサルジャンは、ふたりには可愛がるものが必要なのだと改めて知ったのだった。
11
お気に入りに追加
743
あなたにおすすめの小説
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
酷いことをしたのはあなたの方です
風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。
あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。
ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。
聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。
※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。
※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。
※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。
侍女から第2夫人、そして……
しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。
翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。
ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。
一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。
正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。
セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる