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第3章
第57話 影とは
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「そういえばセルは屋敷内にも姿はありません」
「どういうことだ?」
「ええ、屋敷の中で囁かれている噂では、どうも庭師の一人と駆け落ちしたようです」
「なっ!駆け落ち?ふざけるなよ、冗談だろう?」
「いえ、それが本当らしいのです。実際ソイスト家の庭師が一人急にいなくなり、書き置きもあったようです」
トローザーは額に青筋を立てて怒っているが、影の男はため息をついただけ。
影は影としてしか生きられない。潜入のために相手を騙して結婚し、生涯自分を偽って使命を果たすことも少なくない。
もし好きな男ができたら、逃げたくなってもおかしくないのだ。逃げ切れるかはわからないが。
話を終えた影をソイスト侯爵家に帰らせると、トローザーは次の影を呼び出した。
国王は三人の息子に平等な機会を与えていたが、トローザーには危うさがあると感じていた。
母譲りの野心家だが、実力や人格は二人の兄に劣り、勤勉とも言えない。しかし不思議なほど自信を持っており、自己主張が誰よりも強い。
国王と王妃はどの影をどの王子につけるかを相談の上で決めていた。王妃もその選別に関わっているということは、より優れた者はゴールダインとナイジェルスのそばに。
下手に忠誠心の強い優秀すぎる者をつけるのは、トローザーには不安要素にしかならないと考え、末王子には兄王子に比べると詰めが甘く、特に探索能力に劣る者たちが選ばれていた。
「早急に兄上を見つけねば!すべてミイヤに被せて、ソイスト家もろとも葬り去ってやる計画が、兄上が見つからねば進まんぞ。こちらの手勢たちはまだ見つからないのか?」
「はい、申し訳ございません。しかし、やはりこれだけ探して見つからないということは、返り討ちに遭って殿下たちとともに川に落ち、流されたのではないでしょうか」
ふぅっとトローザーがため息ともなんとも言いようのない息を吐き出し、影をじろりと見た。
「あの日以来同じ言葉しか聞いていない、そろそろ違う報告ができるようにしたまえ」
一度主と決まれば、裏切ることは許されない契約を結ぶのが影である。
例え国王と王妃から与えられた影であっても、トローザーを主とする契約を結べば、その情報を元の主である国王や王妃に漏らすことはない。
そのせいか、兄の暗殺の後始末を影たちにさせていても、未だ違和感さえ感じることのない鈍感なトローザーであった。
「父上に折り入ってお話がございます」
ゴールダイン王子が父である国王に宛てて面会を申請すると、晩餐後に私室を訪ねるよう報せが届いた。
晩餐は一切それに触れることなく。
指定の時間に、秘かに国王の私室をゴールダイン王子が訪ねていた。
「珍しいな、おまえがこのような」
父の言葉を最後まで聞くこともなく、ゴールダインが手紙を差し出す。
「まずはこちらをお読みください」
折りたたまれたそれを受け取り、開いていくと顔色が変わる。
「ゴルディ、これはいつ?書かれたことは本当なのか」
「はい、これはビブラスからソイストのサルジャンが直接受け取って、今日届けられたものです」
「ああ、無事がわかって安堵したが」
「誰が味方がわからず、相当苦労してソイスト家に繋ぎを取ったようです」
「そんな時でも間違いなく信用が置けるのがソイストか」
「はい、しかし今ソイストの中でも・・・」
ゴールダインの小さな声は王の耳に吸い込まれていき、王は深いため息とともに苦しそうに瞳を閉じた。
「どういうことだ?」
「ええ、屋敷の中で囁かれている噂では、どうも庭師の一人と駆け落ちしたようです」
「なっ!駆け落ち?ふざけるなよ、冗談だろう?」
「いえ、それが本当らしいのです。実際ソイスト家の庭師が一人急にいなくなり、書き置きもあったようです」
トローザーは額に青筋を立てて怒っているが、影の男はため息をついただけ。
影は影としてしか生きられない。潜入のために相手を騙して結婚し、生涯自分を偽って使命を果たすことも少なくない。
もし好きな男ができたら、逃げたくなってもおかしくないのだ。逃げ切れるかはわからないが。
話を終えた影をソイスト侯爵家に帰らせると、トローザーは次の影を呼び出した。
国王は三人の息子に平等な機会を与えていたが、トローザーには危うさがあると感じていた。
母譲りの野心家だが、実力や人格は二人の兄に劣り、勤勉とも言えない。しかし不思議なほど自信を持っており、自己主張が誰よりも強い。
国王と王妃はどの影をどの王子につけるかを相談の上で決めていた。王妃もその選別に関わっているということは、より優れた者はゴールダインとナイジェルスのそばに。
下手に忠誠心の強い優秀すぎる者をつけるのは、トローザーには不安要素にしかならないと考え、末王子には兄王子に比べると詰めが甘く、特に探索能力に劣る者たちが選ばれていた。
「早急に兄上を見つけねば!すべてミイヤに被せて、ソイスト家もろとも葬り去ってやる計画が、兄上が見つからねば進まんぞ。こちらの手勢たちはまだ見つからないのか?」
「はい、申し訳ございません。しかし、やはりこれだけ探して見つからないということは、返り討ちに遭って殿下たちとともに川に落ち、流されたのではないでしょうか」
ふぅっとトローザーがため息ともなんとも言いようのない息を吐き出し、影をじろりと見た。
「あの日以来同じ言葉しか聞いていない、そろそろ違う報告ができるようにしたまえ」
一度主と決まれば、裏切ることは許されない契約を結ぶのが影である。
例え国王と王妃から与えられた影であっても、トローザーを主とする契約を結べば、その情報を元の主である国王や王妃に漏らすことはない。
そのせいか、兄の暗殺の後始末を影たちにさせていても、未だ違和感さえ感じることのない鈍感なトローザーであった。
「父上に折り入ってお話がございます」
ゴールダイン王子が父である国王に宛てて面会を申請すると、晩餐後に私室を訪ねるよう報せが届いた。
晩餐は一切それに触れることなく。
指定の時間に、秘かに国王の私室をゴールダイン王子が訪ねていた。
「珍しいな、おまえがこのような」
父の言葉を最後まで聞くこともなく、ゴールダインが手紙を差し出す。
「まずはこちらをお読みください」
折りたたまれたそれを受け取り、開いていくと顔色が変わる。
「ゴルディ、これはいつ?書かれたことは本当なのか」
「はい、これはビブラスからソイストのサルジャンが直接受け取って、今日届けられたものです」
「ああ、無事がわかって安堵したが」
「誰が味方がわからず、相当苦労してソイスト家に繋ぎを取ったようです」
「そんな時でも間違いなく信用が置けるのがソイストか」
「はい、しかし今ソイストの中でも・・・」
ゴールダインの小さな声は王の耳に吸い込まれていき、王は深いため息とともに苦しそうに瞳を閉じた。
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