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第3章
第50話 再会
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気づいたことをサルジャンが口にする。
「陛下はナイジェルス殿下に王位継承権の放棄はしないよう諌められていたと聞きました」
「そうだ。トローザー王子とナイジェルス殿下のふたりが残ったら?」
「ナイジェルス殿下が最有力候補になるでしょうね。そうか、ナイジェルス殿下はどちらに転んでもトローザー王子には何よりも邪魔な存在、だから先に後ろ盾ごと消してしまおうと?」
「そんなところだろうな。差し詰めミイヤに罪を被せてソイストごと潰すつもりだろう」
呆れたという顔を親子は向けあうと、わかりやすいほどサルジャンが顔を顰めた。
「王妃陛下がお生みになられたふたりの王子を害せば、誰がやったかは考えずともとわかるし、逃げ切れんだろう。しかしナイジェルス殿下だけならどうだ?犯人の証拠が見つからなければ怪しいという噂以上にならないかも知れない。
そこでトローザー王子が強力な後ろ盾を掴んだとしたらどうなるだろうな」
その心当たりがあった。
「イスハの公女ですね」
「そうだ、公女なら他国の最高位貴族で、我が王家の血筋でもあり、後ろ盾としては申し分ないどころかこれ以上ないほど強力だ。婚約が公表されるまでの間に形勢を逆転するつもりだったのではないか?」
隠された密室での話し合いを終え、マーカスとサルジャンが出てくると、ユートリーの部屋は人形が入った棺だけになっている。
「タラを呼べ。それとミイヤの部屋を徹底的に調べるぞ」
その頃。
リラ夫人とユートリーは別邸に馬車を滑り込ませたところだった。
高く大きな木が多い森の奥、誰も気づかないようなところに不似合いな瀟洒な屋敷が建っている。
「やっと着いたけど、こんな屋敷があったなんて私初めて知ったわ」
不満そうな母の顔に、ユートリーが笑みを溢していると。
「トリー!」
ナイジェルス王子が屋敷から駆け寄って、抱き寄せた。
「ナイジェルス様ご無事で!」
「ああ、心配かけてすまなかった。トリーも無事で本当に良かった」
人目も憚らずにぎゅぅっと抱きしめあうふたり。
しかし誰ひとり諌めるわけでもなく、温かな目で見守った。
先に我に返ったのはナイジェルスだ。
「あ、ああ、リラ夫人もいたのか」
「はい殿下。おりましてよ最初からずっとここに。ご無事でようございましたわ」
にこーっと何か含んだような笑いを浮かべている。
「でも私のことなどはよろしいのです、殿下とユートリーが無事ということが何よりも大切でございますから」
屋敷に入ると、そこは本宅に比べすべてが質素に作られていることがわかる。装飾も簡素なものだが、だからといって安っぽいわけではない。無駄な手をかけていないだけの良い造りの屋敷だった。
「トリー、毒は口にしていないと聞いているが大丈夫だったのか」
「ええ、入れるところを見ていたから」
「そうか、それは良かったと言うべきか」
ユートリーは複雑な顔をしたが当然と言えよう。
毒を盛られるのは貴族ならあり得ないことではないが、だからといって良くあることでもない。王子の婚約者になったからこそ起きたのだ。サルジャンから話を聞いたナイジェルスは、そう考えて人知れず気に病んでいた。
「もちろん良かったのです、おかげで反撃できますもの。今頃私が死んだと思って浮かれているでしょうけれど、倍返し、いえ何倍も大きくして返してやりますわ」
いつも穏やかににこにことしていたユートリーしか知らなかったナイジェルスは、その力強い決意を誓った婚約者に目を瞠っている。
─殺されかけたのだから、当然だ─
そう思ったが、ユートリーは一度殺されたのだ。秘められたその恨みや怒りはナイジェルスのそれを完全に超えていた。
「陛下はナイジェルス殿下に王位継承権の放棄はしないよう諌められていたと聞きました」
「そうだ。トローザー王子とナイジェルス殿下のふたりが残ったら?」
「ナイジェルス殿下が最有力候補になるでしょうね。そうか、ナイジェルス殿下はどちらに転んでもトローザー王子には何よりも邪魔な存在、だから先に後ろ盾ごと消してしまおうと?」
「そんなところだろうな。差し詰めミイヤに罪を被せてソイストごと潰すつもりだろう」
呆れたという顔を親子は向けあうと、わかりやすいほどサルジャンが顔を顰めた。
「王妃陛下がお生みになられたふたりの王子を害せば、誰がやったかは考えずともとわかるし、逃げ切れんだろう。しかしナイジェルス殿下だけならどうだ?犯人の証拠が見つからなければ怪しいという噂以上にならないかも知れない。
そこでトローザー王子が強力な後ろ盾を掴んだとしたらどうなるだろうな」
その心当たりがあった。
「イスハの公女ですね」
「そうだ、公女なら他国の最高位貴族で、我が王家の血筋でもあり、後ろ盾としては申し分ないどころかこれ以上ないほど強力だ。婚約が公表されるまでの間に形勢を逆転するつもりだったのではないか?」
隠された密室での話し合いを終え、マーカスとサルジャンが出てくると、ユートリーの部屋は人形が入った棺だけになっている。
「タラを呼べ。それとミイヤの部屋を徹底的に調べるぞ」
その頃。
リラ夫人とユートリーは別邸に馬車を滑り込ませたところだった。
高く大きな木が多い森の奥、誰も気づかないようなところに不似合いな瀟洒な屋敷が建っている。
「やっと着いたけど、こんな屋敷があったなんて私初めて知ったわ」
不満そうな母の顔に、ユートリーが笑みを溢していると。
「トリー!」
ナイジェルス王子が屋敷から駆け寄って、抱き寄せた。
「ナイジェルス様ご無事で!」
「ああ、心配かけてすまなかった。トリーも無事で本当に良かった」
人目も憚らずにぎゅぅっと抱きしめあうふたり。
しかし誰ひとり諌めるわけでもなく、温かな目で見守った。
先に我に返ったのはナイジェルスだ。
「あ、ああ、リラ夫人もいたのか」
「はい殿下。おりましてよ最初からずっとここに。ご無事でようございましたわ」
にこーっと何か含んだような笑いを浮かべている。
「でも私のことなどはよろしいのです、殿下とユートリーが無事ということが何よりも大切でございますから」
屋敷に入ると、そこは本宅に比べすべてが質素に作られていることがわかる。装飾も簡素なものだが、だからといって安っぽいわけではない。無駄な手をかけていないだけの良い造りの屋敷だった。
「トリー、毒は口にしていないと聞いているが大丈夫だったのか」
「ええ、入れるところを見ていたから」
「そうか、それは良かったと言うべきか」
ユートリーは複雑な顔をしたが当然と言えよう。
毒を盛られるのは貴族ならあり得ないことではないが、だからといって良くあることでもない。王子の婚約者になったからこそ起きたのだ。サルジャンから話を聞いたナイジェルスは、そう考えて人知れず気に病んでいた。
「もちろん良かったのです、おかげで反撃できますもの。今頃私が死んだと思って浮かれているでしょうけれど、倍返し、いえ何倍も大きくして返してやりますわ」
いつも穏やかににこにことしていたユートリーしか知らなかったナイジェルスは、その力強い決意を誓った婚約者に目を瞠っている。
─殺されかけたのだから、当然だ─
そう思ったが、ユートリーは一度殺されたのだ。秘められたその恨みや怒りはナイジェルスのそれを完全に超えていた。
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