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第1章
第25話 ナイジェルスとサルジャン2
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「ナイジェルス殿下を襲った者は、では身元などは?」
「一応川に捨てる前に剥いでおいた物があるんだ」
ナイジェルスのそばに控える侍従メンデが巾着を持ってきて、テーブルに二つの装飾品を並べ始めた。
貴族に仕える者は、必ずその証となる物を持ち歩く。紋章をネックレスにしたりベルト取付型にしたり、指輪であったりと家ごとに様々だが、身分を証明するためにそれを手放すことはなく、万一紛失したら大変な咎を負うこともある。
「あ、これは!」
「そうなのだよ、この紋章は」
それはターナル伯爵家のもので、伯爵夫人はキャロラ妃の妹だ。
「ということはやはりキャロラ妃とトローザー王子が」
「まあ順当なところだな」
呆れたようにナイジェルスは肩を竦める。
「しかし、王子の暗殺にこんな物を携帯して行くとはずいぶんと迂闊な者ですね」
「倒した者の中で、ふたりだけだったがな阿呆は。まさかあれだけの人数で返り討ちになるなど考えもしなかったのだろうな。
こちらは王国中の手練を集めた護衛だというのに、侮られたものだ。」
ナイジェルス自身も剣術に優れているが、護衛たちはまさに精鋭と呼ばれるに相応しい者が揃っている。
今回は長期の視察に備えて特別に、ゴールダインが地方にいた騎士団分隊長なども呼び寄せた。それが集まったのが出発直前だったので、敵にその編隊を知られなかったことも勝利に繋がったのだろう。
「そういえば殿下の護衛に被害はなかったのですか?」
「ああ、私の手の者が斬られ、川に落ちてしまった。それ以外は手持ちの薬で応急処置を済ませることができたが」
「でははぐれたのはその者だけですか?」
ナイジェルスは悲しそうに眉尻を下げたが。
「その方は無事に救出されましたよ、彼のおかげで襲撃されたことが
わかったのです」
それを聞いたナイジェルスが喜んだのなんの。
「無事だったのか?生きていた!よかった!」
いつまでもくり返しているので、サルジャンが先を促す。
「まず怪我人は医師にみせましょう」
ナイジェルス到着の際、サルジャンも一行を出迎えたのだが、後続の者も含め護衛たちは皆元気いっぱいで、怪我人がいるようには見えなかった。
そう言ったサルジャンに、ナイジェルスがくすりと笑った。
「ビブがマーカスの書状を持ち帰るまでは疲労で瀕死のようだったが、気力というのは凄いものだよ。手が差し伸べられるとわかったら急に元気が出たんだ、私もな」
思い出したようにまた少し微笑みを見せ、表情を引き締めて続けた。
「ミイヤ嬢と弟やキャロラ妃との繋がりは掴めているのか?」
「まだぼんやりしています。が、キャロラ妃の離宮での茶会とターナル伯爵家の茶会、これらにミイヤが頻繁に呼ばれていると外出記録から確認が取れておりますし。
あっ!そういえばかなり前・・・そうですね、ちょうど殿下とトリーが婚約した頃か、ミイヤがトローザー殿下に王宮の庭を案内されたと自慢していたことがありましたが」
「ほう、それは珍しいことだな」
「そうなのですか?ミイヤはそれっきりトローザー殿下のお名前を出すことはなかったので忘れておりましたが」
ナイジェルスは暫し物思いに沈んでいたが、メンデに紙とペンを出させると手紙を書き始めた。
「サルジャン、これを兄上に届けてくれ。ミイヤ嬢の離宮の入宮記録と、離宮の茶会での言動を調べるように書いてある」
もちろんソイスト侯爵が直接ゴールダイン王子に頼んでもよいが、この状況で城中で話をするのは危険極まりない。
ナイジェルス捜索の報告書を定期的に提出しているので、書状を混ぜて渡すほうがより安全だ。
「それではすぐに父上に」
「あ、待ってくれ。トリーにも手紙を書きたい」
その名を口にしたナイジェルスは、その時初めて緊張が解けたように、頬を赤らめ微笑んだ。
「一応川に捨てる前に剥いでおいた物があるんだ」
ナイジェルスのそばに控える侍従メンデが巾着を持ってきて、テーブルに二つの装飾品を並べ始めた。
貴族に仕える者は、必ずその証となる物を持ち歩く。紋章をネックレスにしたりベルト取付型にしたり、指輪であったりと家ごとに様々だが、身分を証明するためにそれを手放すことはなく、万一紛失したら大変な咎を負うこともある。
「あ、これは!」
「そうなのだよ、この紋章は」
それはターナル伯爵家のもので、伯爵夫人はキャロラ妃の妹だ。
「ということはやはりキャロラ妃とトローザー王子が」
「まあ順当なところだな」
呆れたようにナイジェルスは肩を竦める。
「しかし、王子の暗殺にこんな物を携帯して行くとはずいぶんと迂闊な者ですね」
「倒した者の中で、ふたりだけだったがな阿呆は。まさかあれだけの人数で返り討ちになるなど考えもしなかったのだろうな。
こちらは王国中の手練を集めた護衛だというのに、侮られたものだ。」
ナイジェルス自身も剣術に優れているが、護衛たちはまさに精鋭と呼ばれるに相応しい者が揃っている。
今回は長期の視察に備えて特別に、ゴールダインが地方にいた騎士団分隊長なども呼び寄せた。それが集まったのが出発直前だったので、敵にその編隊を知られなかったことも勝利に繋がったのだろう。
「そういえば殿下の護衛に被害はなかったのですか?」
「ああ、私の手の者が斬られ、川に落ちてしまった。それ以外は手持ちの薬で応急処置を済ませることができたが」
「でははぐれたのはその者だけですか?」
ナイジェルスは悲しそうに眉尻を下げたが。
「その方は無事に救出されましたよ、彼のおかげで襲撃されたことが
わかったのです」
それを聞いたナイジェルスが喜んだのなんの。
「無事だったのか?生きていた!よかった!」
いつまでもくり返しているので、サルジャンが先を促す。
「まず怪我人は医師にみせましょう」
ナイジェルス到着の際、サルジャンも一行を出迎えたのだが、後続の者も含め護衛たちは皆元気いっぱいで、怪我人がいるようには見えなかった。
そう言ったサルジャンに、ナイジェルスがくすりと笑った。
「ビブがマーカスの書状を持ち帰るまでは疲労で瀕死のようだったが、気力というのは凄いものだよ。手が差し伸べられるとわかったら急に元気が出たんだ、私もな」
思い出したようにまた少し微笑みを見せ、表情を引き締めて続けた。
「ミイヤ嬢と弟やキャロラ妃との繋がりは掴めているのか?」
「まだぼんやりしています。が、キャロラ妃の離宮での茶会とターナル伯爵家の茶会、これらにミイヤが頻繁に呼ばれていると外出記録から確認が取れておりますし。
あっ!そういえばかなり前・・・そうですね、ちょうど殿下とトリーが婚約した頃か、ミイヤがトローザー殿下に王宮の庭を案内されたと自慢していたことがありましたが」
「ほう、それは珍しいことだな」
「そうなのですか?ミイヤはそれっきりトローザー殿下のお名前を出すことはなかったので忘れておりましたが」
ナイジェルスは暫し物思いに沈んでいたが、メンデに紙とペンを出させると手紙を書き始めた。
「サルジャン、これを兄上に届けてくれ。ミイヤ嬢の離宮の入宮記録と、離宮の茶会での言動を調べるように書いてある」
もちろんソイスト侯爵が直接ゴールダイン王子に頼んでもよいが、この状況で城中で話をするのは危険極まりない。
ナイジェルス捜索の報告書を定期的に提出しているので、書状を混ぜて渡すほうがより安全だ。
「それではすぐに父上に」
「あ、待ってくれ。トリーにも手紙を書きたい」
その名を口にしたナイジェルスは、その時初めて緊張が解けたように、頬を赤らめ微笑んだ。
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