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第1章

第5話 探し物

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 リラの部屋を出て進むと、登城していて不在の父マーカスの部屋の前を通り過ぎた。
 マーカスについている使用人たちも、ユートリーが生まれたときからいる者ばかりでその忠誠心の厚さは疑いようがない。だからリラの使用人たちと同じように容疑者から外してよいだろう。

 もう一度、両親付きの使用人たちの顔を思い浮かべて。

 うん、と頷いてからミイヤの部屋へと向かった。

 ミイヤはまだ15歳の可愛い可愛い妹。
元より疑う気持ちなどこれっぽっちも無い。ミイヤがユートリーを害する理由はないのだ。
 部屋の扉は開いており、覗くとユートリーに気づいた栗毛のミイヤが手を振った。
侍女と刺繍をしているようだ。

「あらトリー姉様!ちょうど良かったわ」

 ユートリーを手招きしながら立ち上がり、ハンカチを差し出す。
部屋に足を踏み入れたとき何かが記憶を掠めたが、ミイヤを信じるユートリーは特に注意を払わなかった。

「これ、私が考えた意匠で刺繍してみたの。トリー姉様に差し上げたくて」

 ピンクとグレーの刺繍糸でアレンジされたフレームの中に、ソイスト侯爵家の紋章が刺繍されている。

「素敵!素晴らしい出来映えだわ、ミイヤ」
「気に入ってくださった?」
「もちろんよ、ありがとう」
「トリー姉様に喜んでもらえてよかったわ」

 にこにこと機嫌よく笑う妹に、策略を巡らすようなことはできない。
 強いていうなら。
 ミイヤ付きの使用人には古参はいない、今いる者はみんな、茶会に出始めたミイヤのため新たに雇われた者たちだ。そして彼らは屋敷の中でもっともユートリーと接点が少ないと言える。
 

 ─考えても違うとしか思えないわ。だって家を出ることが決まっている私の動向なんて、同じようにいずれ嫁ぐミイヤには関係ないんだし、ミイヤの使用人が私を狙う必要があるわけないわ─


 そう思いながらも念のために訊いてみる。

「ねえミイヤ。ミイヤの使用人で私が話したことがない者っていたかしら?」
「トリー姉様と話したことがない使用人?どうかしら、同じ屋敷にいたら挨拶くらいしていると思うからいないと思うわ。でも何故そんなこと訊くの?」
「え、あ、ああ。ほら嫁ぐ日も近いから、ここに残る家族の使用人たちにも、カードを書こうと思っているのよ。話したことがない者は書き漏れてしまうかもしれないでしょう?」

 咄嗟の嘘だが、ミイヤは疑わず。

「まあ!使用人たちにまでなんて、トリー姉様ってなんてお優しいのかしら!ほんとに大好きよ」

 そう言って抱きついてきたほどだ。
妹の甘いコロンがふわっと香ったとき、ユートリーは一瞬何か思い出しかけたが、考え事に気を取られて違和感の正体には気づかなかった。

 ─洗濯場か掃除のメイドかしら?ううん、洗濯場の者が部屋に来ることはないわ。掃除のメイドなら部屋に入れるから私に毒を盛ることも─

 目当ての声の主を見つけることができないまま、城から戻るマーカスを迎える時間になっていた。


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本日もう一話、18時更新し、明日から6時、18時で更新する予定です。
よろしくお願い致します。
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