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呪われたエザリア
グルドラという女 3
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■□■
グルドラ三話一気に更新します。
■□■
─私は何故グルドラと婚約したのだろう?─
魅了をかけられたムユーク王国第一王子、アレスは初めての疑念に首を傾げた。
自分が彼女を選んだはずなのに、答えが浮かばないのだ。
勿論魔術に関しては天才的な才能の持ち主ではあるが、王子妃に必要と考えられていた要素のうち、優秀さしか持ち合わせていないグルドラ。
アレス王子が深く考え込んだのを見て、違和感を感じた者が何人も現れた。
その中には当時は宰相補佐だった元婚約者の兄、ロレンス・カイザールもいた。
妹エディアが冤罪と思われる罪を着せられ、その座を追われた挙げ句、命を落としたことにアレス王子は関係していない。
だが王子の婚約者の座を妬んだ誰かの仕業に違いなく、王子がエディアを守りきれなかったことにロレンスは怒りを感じていた。
そして、それまでの王子と妹の関係を知る者として、妹の後釜がグルドラ・ルストというのはどうにも違和感があった。
グルドラほどではないにしろ優秀、かつ将来の国王の後ろ盾として十分な家柄の、美しい令嬢はいくらでもいるのに。
何故グルドラ・ルストなのか。
第一王子アレスが立太子されることが決まった時、ロレンスは周到に根回しをして、念のために王子の検査を徹底的に行うべきと宰相に勧めた。
それは健康状態だけではない。心身両面のものなので、何らかの魔法の影響下にあればすぐにわかるもの。
王子とグルドラに知られることがないよう、秘密裏に寝台に魔導具を取り付けて行われ、アレス王子が何らかの精神操作魔法の影響下にあることが判明した。
魔力の痕跡からグルドラだとわかると、宰相とロレンスは意気揚々とグルドラを捕縛。
だが彼らは詰めが甘かった。
魔封じの牢に入れておけば大丈夫と考えていたが、グルドラは宙に魔法陣を描いて牢番を幻惑し、まんまと脱獄してみせたのだから。
逃げられたあと、城の中にいくつもの魔法陣が埋め込まれているのが見つかる。
グルドラに操られ、逃走を助けた者が多くいることもわかった。
指名手配された時、赤髪の魔女と憎々しげに二つ名をつけたのはロレンスだ。
グルドラの罪を連座で償ったルスト子爵一族は、怨嗟を吐きながらその血を絶やしたが、願った何も与えてくれなかった家族の命など、グルドラが気に病むことはなかった。
それどころか逃走中に手に入れた魔術書により髪や瞳、顔立ちなどを変える魔術を覚えたグルドラは、隣国を越え、意気揚々とメクリムに無事潜入。
今までムユーク王国の追手は、グルドラの痕跡をまったく掴めずにいた。
エザリアが猫にされたとセインが気づくまでは。
ブラスが我が身の異変に気づいて、騎士団にパルツカ子爵とサリバーに似たことが起きているなら、次はイルキュラ男爵が狙われるかもしれないと読んだとおりにグルドラは動いていた。
魔導具販売を手掛け、ムユークと繋がりのあるイルキュラ家は、念のために最後に残していた。
サリバーやパルツカと違い、夫婦揃っていたこともあり、下準備が他よりかかったこともある。
まず夫人を罠にかけて屋敷から遠ざけた。
幻術と魅了を駆使し、夫人の不貞をでっちあげてやると、夫人が否定するほどに居場所を失い、暫くするとグルドラの企みどおりに実家に帰されてしまう。それを見計らい、シュマーのように子持ちの後家を下働きに入り込ませた。
暫くしたら、イルキュラの当主はグルドラが用意した後妻を迎えることだろう。
「哀れ。メクリムは私の物となり、その力でムユークなど露にしてやるのさ。今に見ておいで」
目立たぬようありふれた茶目茶髪の平民の体を装うグルドラは、くつくつと笑った。
既に計画の一部が知られたとも知らずに。
「メクリムに来てからというもの、何もかもが面白いように上手くいく」
こうしてイルキュラでの下準備が整ったので、そそろそろサリバー男爵家に顔を出そうと考え始めたとき、リルケのボロ小屋にかけていたアラートが起動した。
グルドラ三話一気に更新します。
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─私は何故グルドラと婚約したのだろう?─
魅了をかけられたムユーク王国第一王子、アレスは初めての疑念に首を傾げた。
自分が彼女を選んだはずなのに、答えが浮かばないのだ。
勿論魔術に関しては天才的な才能の持ち主ではあるが、王子妃に必要と考えられていた要素のうち、優秀さしか持ち合わせていないグルドラ。
アレス王子が深く考え込んだのを見て、違和感を感じた者が何人も現れた。
その中には当時は宰相補佐だった元婚約者の兄、ロレンス・カイザールもいた。
妹エディアが冤罪と思われる罪を着せられ、その座を追われた挙げ句、命を落としたことにアレス王子は関係していない。
だが王子の婚約者の座を妬んだ誰かの仕業に違いなく、王子がエディアを守りきれなかったことにロレンスは怒りを感じていた。
そして、それまでの王子と妹の関係を知る者として、妹の後釜がグルドラ・ルストというのはどうにも違和感があった。
グルドラほどではないにしろ優秀、かつ将来の国王の後ろ盾として十分な家柄の、美しい令嬢はいくらでもいるのに。
何故グルドラ・ルストなのか。
第一王子アレスが立太子されることが決まった時、ロレンスは周到に根回しをして、念のために王子の検査を徹底的に行うべきと宰相に勧めた。
それは健康状態だけではない。心身両面のものなので、何らかの魔法の影響下にあればすぐにわかるもの。
王子とグルドラに知られることがないよう、秘密裏に寝台に魔導具を取り付けて行われ、アレス王子が何らかの精神操作魔法の影響下にあることが判明した。
魔力の痕跡からグルドラだとわかると、宰相とロレンスは意気揚々とグルドラを捕縛。
だが彼らは詰めが甘かった。
魔封じの牢に入れておけば大丈夫と考えていたが、グルドラは宙に魔法陣を描いて牢番を幻惑し、まんまと脱獄してみせたのだから。
逃げられたあと、城の中にいくつもの魔法陣が埋め込まれているのが見つかる。
グルドラに操られ、逃走を助けた者が多くいることもわかった。
指名手配された時、赤髪の魔女と憎々しげに二つ名をつけたのはロレンスだ。
グルドラの罪を連座で償ったルスト子爵一族は、怨嗟を吐きながらその血を絶やしたが、願った何も与えてくれなかった家族の命など、グルドラが気に病むことはなかった。
それどころか逃走中に手に入れた魔術書により髪や瞳、顔立ちなどを変える魔術を覚えたグルドラは、隣国を越え、意気揚々とメクリムに無事潜入。
今までムユーク王国の追手は、グルドラの痕跡をまったく掴めずにいた。
エザリアが猫にされたとセインが気づくまでは。
ブラスが我が身の異変に気づいて、騎士団にパルツカ子爵とサリバーに似たことが起きているなら、次はイルキュラ男爵が狙われるかもしれないと読んだとおりにグルドラは動いていた。
魔導具販売を手掛け、ムユークと繋がりのあるイルキュラ家は、念のために最後に残していた。
サリバーやパルツカと違い、夫婦揃っていたこともあり、下準備が他よりかかったこともある。
まず夫人を罠にかけて屋敷から遠ざけた。
幻術と魅了を駆使し、夫人の不貞をでっちあげてやると、夫人が否定するほどに居場所を失い、暫くするとグルドラの企みどおりに実家に帰されてしまう。それを見計らい、シュマーのように子持ちの後家を下働きに入り込ませた。
暫くしたら、イルキュラの当主はグルドラが用意した後妻を迎えることだろう。
「哀れ。メクリムは私の物となり、その力でムユークなど露にしてやるのさ。今に見ておいで」
目立たぬようありふれた茶目茶髪の平民の体を装うグルドラは、くつくつと笑った。
既に計画の一部が知られたとも知らずに。
「メクリムに来てからというもの、何もかもが面白いように上手くいく」
こうしてイルキュラでの下準備が整ったので、そそろそろサリバー男爵家に顔を出そうと考え始めたとき、リルケのボロ小屋にかけていたアラートが起動した。
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