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呪われたエザリア

グルドラという女 2

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グルドラ三話一気に更新します。
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 薮睨みの大きすぎる目に団子っ鼻、禍々しいほどの真っ赤な癖髪。それらはすべて、祖父である先代ルスト子爵にそっくりだった。
 ふたりの姉と兄は母譲りのやさしげな顔立ちなのに、ひとりだけお世辞にも美しいとは言えないグルドラ。

 家族がグルドラを差別したわけではない。
祖父は自身に似てしまったグルドラを不憫だと、殊のほか可愛がった。

 両親も、兄姉と同じ物を与え、同じように接した。

 だがグルドラは気づいていた。
両親や兄姉の憐憫のこもった視線に。
 姉たちには華やかなドレスを、グルドラには年に見合わぬシックなドレスを仕立てた母。
グルドラもわかってはいた、母の選択は正しいと。

 姉と同じドレスを着れば、間違いなくグルドラにはまったく似合わなかっただろうと。
それでもグルドラは、一度でいいからリボンやフリルで飾られたドレスを着てみたかった。

 父は、いずれ嫁いでいく姉には一般教養やマナーの家庭教師をつけたが、グルドラには外国語や魔術の勉強に重点を置いた。
 早くから、政略結婚でも婚家で可愛がられるより、魔導師として独り立ちさせる道を考えていたようだ。
 グルドラが早くからその才を発揮したのは、父のおかげかもしれないが、強すぎる容姿への劣等感に対し、高い能力は自信にはならなかった。

 グルドラは可愛い女の子になりたかったのだ。

 優秀なグルドラと言いながら、その裏ではかわいそうなグルドラと嗤う同級生たち。

 禁忌の呪術を独学で学び取り、皆の精神を操ったときの爽快感は今も忘れられない。
誰も彼もが、手のひらを返してグルドラにあたたかな目を向けたが。

それも所詮はまやかしに過ぎない。

グルドラが望んだのは、心からの賛辞。
どこまでいっても得られない、長い長いないものねだりの反動こそが、悲劇の始まりであった。


 最上級生に進学さたグルドラは、優秀さから第一王子アレスと同じクラスとされた。
将来王太子となる王子のブレーン候補としてだったが、グルドラは一方的に恋に落ちた。

 アレス王子には既に定められた婚約者がおり、政略ではあってもその仲は睦まじい。
それを知ってもグルドラは諦めることが出来なかった。

 家の中に居たときは気づかなかった。
 学院に入って、他の生徒に比べ自身が圧倒的に優秀だと知った赤毛の令嬢は、美しいだけの令嬢より、能力の高い自分の方が国を支える力になれると。
考えれば考えるほど自分のほうが相応しいと思い込んだ。

 憧れたアレス王子にも精神操作の一つ、魅了魔法をかけて好意を向けられると。
 アレス王子の婚約者に罠をしかけて罪に落とし、領地に戻る令嬢を、そこにいるはずのない凶暴な魔物を操って襲わせたのだ。
得意の呪術を駆使して。


 これに味を占めたグルドラは、邪魔者と目をつけた者に同じ末路を与えた。
 まわりの人間が次々原因不明のまま命を落としても、グルドラは自然淘汰と軽く考え、罪悪感を感じることもなかった。







 さて。
 別れた後であっても、断罪されて亡くなった元婚約者を偲ぶアレス王子にしびれを切らしたグルドラは、さらなる呪術で次の婚約者に自分を選ばせたのだが。

 アレス王子の新たな婚約者は、厳しい社交界の洗礼を受けた。
婚約者を失ったアレス王子を狙っていたのは、グルドラだけではなかったから。

 侯爵令嬢だった元婚約者の後釜に、優秀というだけの美しいわけでも後ろ盾があるわけでもないグルドラがポッと湧いて収まったことで、疑問を抱いた他の貴族たちに狙われるようになる。


 魔術魔道には長けたグルドラも、上級貴族のマナーや常識は知らなかった。
そのため社交に出るたびに笑い者にされ、爪弾きにもされた。

 いくらグルドラが精神操作の呪術に力を入れても、今ほどではないが、魔導大国ムユークの富裕な貴族の中には、高額な魔封じのアミュレットを持つ者もおり、それらすべてを支配することまでは出来なかった。



 不敬にも直接アレス王子に、何故あんな醜女を婚約者にするのかと詰め寄る令嬢もいた。

 そして。
 そう訊ねられたアレス王子自身が答えに詰まったのが、グルドラの計画の小さな綻びとなった。
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