68 / 126
呪われたエザリア
グルドラという女 2
しおりを挟む
■□■
グルドラ三話一気に更新します。
■□■
薮睨みの大きすぎる目に団子っ鼻、禍々しいほどの真っ赤な癖髪。それらはすべて、祖父である先代ルスト子爵にそっくりだった。
ふたりの姉と兄は母譲りのやさしげな顔立ちなのに、ひとりだけお世辞にも美しいとは言えないグルドラ。
家族がグルドラを差別したわけではない。
祖父は自身に似てしまったグルドラを不憫だと、殊のほか可愛がった。
両親も、兄姉と同じ物を与え、同じように接した。
だがグルドラは気づいていた。
両親や兄姉の憐憫のこもった視線に。
姉たちには華やかなドレスを、グルドラには年に見合わぬシックなドレスを仕立てた母。
グルドラもわかってはいた、母の選択は正しいと。
姉と同じドレスを着れば、間違いなくグルドラにはまったく似合わなかっただろうと。
それでもグルドラは、一度でいいからリボンやフリルで飾られたドレスを着てみたかった。
父は、いずれ嫁いでいく姉には一般教養やマナーの家庭教師をつけたが、グルドラには外国語や魔術の勉強に重点を置いた。
早くから、政略結婚でも婚家で可愛がられるより、魔導師として独り立ちさせる道を考えていたようだ。
グルドラが早くからその才を発揮したのは、父のおかげかもしれないが、強すぎる容姿への劣等感に対し、高い能力は自信にはならなかった。
グルドラは可愛い女の子になりたかったのだ。
優秀なグルドラと言いながら、その裏ではかわいそうなグルドラと嗤う同級生たち。
禁忌の呪術を独学で学び取り、皆の精神を操ったときの爽快感は今も忘れられない。
誰も彼もが、手のひらを返してグルドラにあたたかな目を向けたが。
それも所詮はまやかしに過ぎない。
グルドラが望んだのは、心からの賛辞。
どこまでいっても得られない、長い長いないものねだりの反動こそが、悲劇の始まりであった。
最上級生に進学さたグルドラは、優秀さから第一王子アレスと同じクラスとされた。
将来王太子となる王子のブレーン候補としてだったが、グルドラは一方的に恋に落ちた。
アレス王子には既に定められた婚約者がおり、政略ではあってもその仲は睦まじい。
それを知ってもグルドラは諦めることが出来なかった。
家の中に居たときは気づかなかった。
学院に入って、他の生徒に比べ自身が圧倒的に優秀だと知った赤毛の令嬢は、美しいだけの令嬢より、能力の高い自分の方が国を支える力になれると。
考えれば考えるほど自分のほうが相応しいと思い込んだ。
憧れたアレス王子にも精神操作の一つ、魅了魔法をかけて好意を向けられると。
アレス王子の婚約者に罠をしかけて罪に落とし、領地に戻る令嬢を、そこにいるはずのない凶暴な魔物を操って襲わせたのだ。
得意の呪術を駆使して。
これに味を占めたグルドラは、邪魔者と目をつけた者に同じ末路を与えた。
まわりの人間が次々原因不明のまま命を落としても、グルドラは自然淘汰と軽く考え、罪悪感を感じることもなかった。
さて。
別れた後であっても、断罪されて亡くなった元婚約者を偲ぶアレス王子にしびれを切らしたグルドラは、さらなる呪術で次の婚約者に自分を選ばせたのだが。
アレス王子の新たな婚約者は、厳しい社交界の洗礼を受けた。
婚約者を失ったアレス王子を狙っていたのは、グルドラだけではなかったから。
侯爵令嬢だった元婚約者の後釜に、優秀というだけの美しいわけでも後ろ盾があるわけでもないグルドラがポッと湧いて収まったことで、疑問を抱いた他の貴族たちに狙われるようになる。
魔術魔道には長けたグルドラも、上級貴族のマナーや常識は知らなかった。
そのため社交に出るたびに笑い者にされ、爪弾きにもされた。
いくらグルドラが精神操作の呪術に力を入れても、今ほどではないが、魔導大国ムユークの富裕な貴族の中には、高額な魔封じのアミュレットを持つ者もおり、それらすべてを支配することまでは出来なかった。
不敬にも直接アレス王子に、何故あんな醜女を婚約者にするのかと詰め寄る令嬢もいた。
そして。
そう訊ねられたアレス王子自身が答えに詰まったのが、グルドラの計画の小さな綻びとなった。
グルドラ三話一気に更新します。
■□■
薮睨みの大きすぎる目に団子っ鼻、禍々しいほどの真っ赤な癖髪。それらはすべて、祖父である先代ルスト子爵にそっくりだった。
ふたりの姉と兄は母譲りのやさしげな顔立ちなのに、ひとりだけお世辞にも美しいとは言えないグルドラ。
家族がグルドラを差別したわけではない。
祖父は自身に似てしまったグルドラを不憫だと、殊のほか可愛がった。
両親も、兄姉と同じ物を与え、同じように接した。
だがグルドラは気づいていた。
両親や兄姉の憐憫のこもった視線に。
姉たちには華やかなドレスを、グルドラには年に見合わぬシックなドレスを仕立てた母。
グルドラもわかってはいた、母の選択は正しいと。
姉と同じドレスを着れば、間違いなくグルドラにはまったく似合わなかっただろうと。
それでもグルドラは、一度でいいからリボンやフリルで飾られたドレスを着てみたかった。
父は、いずれ嫁いでいく姉には一般教養やマナーの家庭教師をつけたが、グルドラには外国語や魔術の勉強に重点を置いた。
早くから、政略結婚でも婚家で可愛がられるより、魔導師として独り立ちさせる道を考えていたようだ。
グルドラが早くからその才を発揮したのは、父のおかげかもしれないが、強すぎる容姿への劣等感に対し、高い能力は自信にはならなかった。
グルドラは可愛い女の子になりたかったのだ。
優秀なグルドラと言いながら、その裏ではかわいそうなグルドラと嗤う同級生たち。
禁忌の呪術を独学で学び取り、皆の精神を操ったときの爽快感は今も忘れられない。
誰も彼もが、手のひらを返してグルドラにあたたかな目を向けたが。
それも所詮はまやかしに過ぎない。
グルドラが望んだのは、心からの賛辞。
どこまでいっても得られない、長い長いないものねだりの反動こそが、悲劇の始まりであった。
最上級生に進学さたグルドラは、優秀さから第一王子アレスと同じクラスとされた。
将来王太子となる王子のブレーン候補としてだったが、グルドラは一方的に恋に落ちた。
アレス王子には既に定められた婚約者がおり、政略ではあってもその仲は睦まじい。
それを知ってもグルドラは諦めることが出来なかった。
家の中に居たときは気づかなかった。
学院に入って、他の生徒に比べ自身が圧倒的に優秀だと知った赤毛の令嬢は、美しいだけの令嬢より、能力の高い自分の方が国を支える力になれると。
考えれば考えるほど自分のほうが相応しいと思い込んだ。
憧れたアレス王子にも精神操作の一つ、魅了魔法をかけて好意を向けられると。
アレス王子の婚約者に罠をしかけて罪に落とし、領地に戻る令嬢を、そこにいるはずのない凶暴な魔物を操って襲わせたのだ。
得意の呪術を駆使して。
これに味を占めたグルドラは、邪魔者と目をつけた者に同じ末路を与えた。
まわりの人間が次々原因不明のまま命を落としても、グルドラは自然淘汰と軽く考え、罪悪感を感じることもなかった。
さて。
別れた後であっても、断罪されて亡くなった元婚約者を偲ぶアレス王子にしびれを切らしたグルドラは、さらなる呪術で次の婚約者に自分を選ばせたのだが。
アレス王子の新たな婚約者は、厳しい社交界の洗礼を受けた。
婚約者を失ったアレス王子を狙っていたのは、グルドラだけではなかったから。
侯爵令嬢だった元婚約者の後釜に、優秀というだけの美しいわけでも後ろ盾があるわけでもないグルドラがポッと湧いて収まったことで、疑問を抱いた他の貴族たちに狙われるようになる。
魔術魔道には長けたグルドラも、上級貴族のマナーや常識は知らなかった。
そのため社交に出るたびに笑い者にされ、爪弾きにもされた。
いくらグルドラが精神操作の呪術に力を入れても、今ほどではないが、魔導大国ムユークの富裕な貴族の中には、高額な魔封じのアミュレットを持つ者もおり、それらすべてを支配することまでは出来なかった。
不敬にも直接アレス王子に、何故あんな醜女を婚約者にするのかと詰め寄る令嬢もいた。
そして。
そう訊ねられたアレス王子自身が答えに詰まったのが、グルドラの計画の小さな綻びとなった。
20
お気に入りに追加
266
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」後妻はいつもそう言っていましたが……。
四季
恋愛
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」
父と結婚した後妻エルヴィリアはいつもそう言っていましたが……。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる