105 / 126
恋は迷路の中
サリバー家のパーティー 1
しおりを挟む
ブラス主催の、エザリア救出感謝の会と銘打たれたパーティ当日。
「今日はいつものパーティとは違い、めちゃくちゃ飲み食いするに違いない。酒と料理はいつもの四倍くらいおかわり用意しておけよ。絶対に品切れなんてダメだ。トンプソン、差配を頼んだぞ」
家令に念入りに確認する。
勿論使用人たちも一致団結、エザリアを守り助けてくれた騎士や魔術師たちに精一杯の感謝の気持を込めて饗すつもりだ。
「四倍ってすごい量ですね」
手伝いのために早く来ていたモイトスが笑うと、
「それでも足りないかも知れないぞ」
真剣な顔でブラスが答えた。
土産に持たせるアミュレットペンダントの種類と数を確認する。
勿論土産はペンダントだけではない。サリバー商会の人気商品をぎっちぎちに詰め込んだ袋も用意していた。
エザリアがトラベルセットと呼ぶ、石鹸や肌触り最高のタオルの他、遠征が多い騎士や魔導師に役立ちそうな、風呂に入れないときに使うさっぱりするのにつっぱらない拭き取り水。
香り抑えめのフレグランスなど、一度手にしたらまた買いたくなるような物ばかり。
比較的裕福な暮らしをする者が多い騎士団、魔術師団のリピーターを見込んで、エザリアとブラスが選んだ土産が山と積まれていた。
「ようこそいらっしゃいました」
メイドたちの揃った声が聴こえてくる。
ブラスがエントランスに行くと、まず騎士団の面々が入って来た。
先頭はイグルスとジョル。その後から数十名の騎士たちがぞろぞろと続いている。
全員騎士服でビシっと決めており、メイドたちから感嘆の声が漏れた。
次にあらわれたのはチューグ率いる魔導師団。長いローブをはためかせるように歩いている。勿論ミヌークスもきょろきょろしながら集団に紛れていた。
中に執事のような黒ずくめのスーツを着た者が交じっているが、エザリアの捜索に当たったなら、それが例え調べ物であっても参加する権利がある。
文官を装いスーツで現れたのは、チューグに誘われたセメンティス以下、王家の影たちだ。勿論全員ではないが、偶々時間を空けられた者のみ数名が混じり込んでいた。
彼らは居心地が悪そうに落ち着きなく視線を彷徨わせているが、それも当然。本来表舞台に顔を出すことのない存在である。
所在なさげな黒服たちが広間に吸い込まれたあと、漸くスミルに連れられたセインが現れた。魔法医薬師を示すローブを羽織って。
「あっ!セイン見ろよ、エザリア様だ!」
スミルが指差す方を見ると、金髪を靡かせた美しいが勝ち気そうな令嬢が壇上に現れた。
「・・・・・・・」
「セイン、どうした?」
黙り込むセイン。
猫姿からは想像できないほど美しいエザリアが眩しく、どこか悲しくもあった。
スミルに覗き込まれ、まるで息も絶え絶えというように声を絞り出す。
「ん・・・。美人だ・・な」
「うむ!」と頷いたスミルが声を顰めた。
「だが騙されるなよ、怒ると鬼に変わる」
「ふっ」
スミルの冗談に思わず吹き出したセインは、白猫と同じ美しい水色のエザリアの瞳を見つめていた。
ふとエザリアが広間を見回す。
視線を感じた気がしたのだ。
ぐるりと顔を動かして、ぴたりと止まった先には、スミルとセインがいた!
「ちょっと失礼いたしますわ」
話をしていた父と文官を装ったセメンティスに告げ、満面の笑顔でセインに駆け寄る。
「セイン!来てくれたのね」
初めて聴くエザリアの声は、やわらかな日差しのようにセインに響いた。
「あ、あの、こ、こんに、ちは、エザリア・・さ・・サリバー令嬢」
白猫とのギャップが受け止めきれず、口籠りながらなんとか挨拶をしたセインだったが。
「ちょっとセイン!何故私をサリバー令嬢なんて呼ぶのよ!いつもみたいにエザリアと呼べばいいじゃない」
ぷぅっと赤く染まった頬が膨らむエザリアを見て、スミルが目をひん剥く。
(な、なんだよこの乙女ぶり!エザリア様ってもしかしてセインのこと?)
誰よりも早く、エザリアの気持ちに気づいてしまうスミルである。
「いや、そんな、貴族のご令嬢をそんな風には、よ、呼べませ」
「前はエザリアって呼んでたじやない!」
「そ、そうなんだけど」
エザリアに詰め寄られて、たじたじと言葉を返すセインは、白猫であっても貴族だったんだから様付けすればよかったと、遅すぎた後悔に苛まれている。
「ほらいいから、エザリアって呼んで」
「いや、あの、それはちょっと」
「ほおら!ほら!」
「え、エザリア・・・さま」
声が尻窄むセインを、面白そうにエザリアが睨む。
「サマはいらないの」
「いや、それはさすがにむ、むり」
ふたりのやりとりをスミルは半ば呆れながら見ていた。
熱量はエザリア99対セイン1くらいだろうか。いや100対0だと思い直して、気の毒そうにエザリアを見る。
(エザリア様の片思いってところだな)
スミルだけが冷静であった。
「今日はいつものパーティとは違い、めちゃくちゃ飲み食いするに違いない。酒と料理はいつもの四倍くらいおかわり用意しておけよ。絶対に品切れなんてダメだ。トンプソン、差配を頼んだぞ」
家令に念入りに確認する。
勿論使用人たちも一致団結、エザリアを守り助けてくれた騎士や魔術師たちに精一杯の感謝の気持を込めて饗すつもりだ。
「四倍ってすごい量ですね」
手伝いのために早く来ていたモイトスが笑うと、
「それでも足りないかも知れないぞ」
真剣な顔でブラスが答えた。
土産に持たせるアミュレットペンダントの種類と数を確認する。
勿論土産はペンダントだけではない。サリバー商会の人気商品をぎっちぎちに詰め込んだ袋も用意していた。
エザリアがトラベルセットと呼ぶ、石鹸や肌触り最高のタオルの他、遠征が多い騎士や魔導師に役立ちそうな、風呂に入れないときに使うさっぱりするのにつっぱらない拭き取り水。
香り抑えめのフレグランスなど、一度手にしたらまた買いたくなるような物ばかり。
比較的裕福な暮らしをする者が多い騎士団、魔術師団のリピーターを見込んで、エザリアとブラスが選んだ土産が山と積まれていた。
「ようこそいらっしゃいました」
メイドたちの揃った声が聴こえてくる。
ブラスがエントランスに行くと、まず騎士団の面々が入って来た。
先頭はイグルスとジョル。その後から数十名の騎士たちがぞろぞろと続いている。
全員騎士服でビシっと決めており、メイドたちから感嘆の声が漏れた。
次にあらわれたのはチューグ率いる魔導師団。長いローブをはためかせるように歩いている。勿論ミヌークスもきょろきょろしながら集団に紛れていた。
中に執事のような黒ずくめのスーツを着た者が交じっているが、エザリアの捜索に当たったなら、それが例え調べ物であっても参加する権利がある。
文官を装いスーツで現れたのは、チューグに誘われたセメンティス以下、王家の影たちだ。勿論全員ではないが、偶々時間を空けられた者のみ数名が混じり込んでいた。
彼らは居心地が悪そうに落ち着きなく視線を彷徨わせているが、それも当然。本来表舞台に顔を出すことのない存在である。
所在なさげな黒服たちが広間に吸い込まれたあと、漸くスミルに連れられたセインが現れた。魔法医薬師を示すローブを羽織って。
「あっ!セイン見ろよ、エザリア様だ!」
スミルが指差す方を見ると、金髪を靡かせた美しいが勝ち気そうな令嬢が壇上に現れた。
「・・・・・・・」
「セイン、どうした?」
黙り込むセイン。
猫姿からは想像できないほど美しいエザリアが眩しく、どこか悲しくもあった。
スミルに覗き込まれ、まるで息も絶え絶えというように声を絞り出す。
「ん・・・。美人だ・・な」
「うむ!」と頷いたスミルが声を顰めた。
「だが騙されるなよ、怒ると鬼に変わる」
「ふっ」
スミルの冗談に思わず吹き出したセインは、白猫と同じ美しい水色のエザリアの瞳を見つめていた。
ふとエザリアが広間を見回す。
視線を感じた気がしたのだ。
ぐるりと顔を動かして、ぴたりと止まった先には、スミルとセインがいた!
「ちょっと失礼いたしますわ」
話をしていた父と文官を装ったセメンティスに告げ、満面の笑顔でセインに駆け寄る。
「セイン!来てくれたのね」
初めて聴くエザリアの声は、やわらかな日差しのようにセインに響いた。
「あ、あの、こ、こんに、ちは、エザリア・・さ・・サリバー令嬢」
白猫とのギャップが受け止めきれず、口籠りながらなんとか挨拶をしたセインだったが。
「ちょっとセイン!何故私をサリバー令嬢なんて呼ぶのよ!いつもみたいにエザリアと呼べばいいじゃない」
ぷぅっと赤く染まった頬が膨らむエザリアを見て、スミルが目をひん剥く。
(な、なんだよこの乙女ぶり!エザリア様ってもしかしてセインのこと?)
誰よりも早く、エザリアの気持ちに気づいてしまうスミルである。
「いや、そんな、貴族のご令嬢をそんな風には、よ、呼べませ」
「前はエザリアって呼んでたじやない!」
「そ、そうなんだけど」
エザリアに詰め寄られて、たじたじと言葉を返すセインは、白猫であっても貴族だったんだから様付けすればよかったと、遅すぎた後悔に苛まれている。
「ほらいいから、エザリアって呼んで」
「いや、あの、それはちょっと」
「ほおら!ほら!」
「え、エザリア・・・さま」
声が尻窄むセインを、面白そうにエザリアが睨む。
「サマはいらないの」
「いや、それはさすがにむ、むり」
ふたりのやりとりをスミルは半ば呆れながら見ていた。
熱量はエザリア99対セイン1くらいだろうか。いや100対0だと思い直して、気の毒そうにエザリアを見る。
(エザリア様の片思いってところだな)
スミルだけが冷静であった。
10
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。
ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」
そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。
長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。
アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。
しかしアリーチェが18歳の時。
アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。
それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。
父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。
そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。
そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。
──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──
アリーチェは行動を起こした。
もうあなたたちに情はない。
─────
◇これは『ざまぁ』の話です。
◇テンプレ [妹贔屓母]
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※エブリスタに投稿した作品の加筆修正版です。小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる