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呪われたエザリア

ジョルとスミルは森が好き

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「白猫にはもう二度と会えなくなる。顔見に行っておいたらどうだ?もうあの頭を撫でることができなくなるんだ。ちなみに私もさっき抱っこしてきたぞ!」

 ニヤッと口元を歪めたジョルを見たセインは、エプロンと手袋を外してカウンターに置くと、スミルに「出かけてくる」と言って止める間もなく出かけてしまった。

「スミルはいいのか?なんなら私が店番しておいてやるが」
「エザリアお嬢様がいくら可愛い猫になっているからと言って、お嬢様に違いはないし。気安く撫でたりはできないな。元に戻ったあとで怒られそうだ」

 力なくハハハと笑う。

 エザリアは貴族の令嬢と言うにはいろいろと規格外だ。王族とも接する機会が多い立場なので最上級のマナーは叩き込まれているが、ブラスには男爵後継者というより次期商会長として鍛えられてきた、逞しくしなやかで強かな女性である。
 美しい容姿の令嬢だが、商会にいるときのエザリアは、邪な、いや淡い気持ちを持つことすら許さないようなしっかり者。
 だからスミルは彼女が、ブラスが買付けの旅に出た僅か十日くらいでシュマー母娘とその側についた使用人たちに虐げられた挙げ句、猫にされたなんてとても信じられなかったのだが。

 いくらエザリアでも、シュマーに力があると勘違いして結集した多数の使用人たちと、それを操る魔女に囲まれては容易く手折られてしまった。
それでもエザリアだったからこそ、この難局を乗り越えられたとも思っていたが。



「呪いが解けるならよかったと思うけど、それだけだな」
「ふうん、そういうものか」
「ジョルは王女様に懸想したりするか?」
「んなわけがない!住む世界が違い過ぎる」
「それそれ。エザリアお嬢様はなーんか住む世界が違うってやつなんだ」


 帳簿に斜めに視線を走らせただけで、間違いをすぐに見つけてしまう。

 売れるものを見つけ出す彗眼。

 陳列のセンスも高く、エザリアが棚の商品を動かすだけで、あっという間に売れ始めたりもする。それはブラスにも、ないエザリアの特技だ。

 エザリアが人間に戻り、商会に復帰すると聞いただけで、サリバー商会の将来に光が戻ったと安堵する者も多いだろうと、スミルは口角を上げた。

「でも俺はここでのんびり仕事を続けさせてもらいたいな」

 ふと口をつく。

「ああ、なんかわかるな。ここはいい。なんか落ち着くし、ここから町に戻る時は疲れが抜けている気がする」
「そうなんだよ!森の空気や水、セインの料理も!ここで暮らすと町の暮らしには戻れなくなりそうなんだよな。・・・あ!」
「ん?」
「いいことを思いついた!」

 ニヤリと笑ったつもりのスミルだが、それが迫力のないふにゃりとした顔で、ジョルは笑いを堪えていた。
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