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呪われたエザリア
ブラスの提案
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サリバー商会の仕事を始めるようになって以来、セインは三日おきに商会に顔を出すようになった。
最初は週一の予定だったが、商会の店頭に置くとすぐに売り切れてしまい、毎日とは言わない。せめて三日に一度は納品してほしいとブラスに頼み込まれ、悩んだ結果店を休み、新しくなったギルドへの納品も減らして商会に魔法薬を卸している。
「店を休ませているのは、本末転倒だな」
申し訳無さそうなブラスに、セインは穏やかに、少し弱々しく答えた。
「商会に卸す方が森で売っていたときよりよく売れますので。ただ、店番をしながらこの量を作ることは難しくて。
店を閉めてしまうとお困りの冒険者にお譲りできないのが心苦しいですが、冒険者のみなさんはギルドでも買えますから」
「そうか・・・そうだ!うちから誰か手伝いに出すのはどうだね?」
ブラウンの瞳が見開かれ、セインはブラスの言葉を理解しようとした。
「そんなに難しいことじゃない。うちから店番を出せば」
「で、でもうちは人を雇えるような」
「デール殿は雇わんでいいんだよ。うちが必要な魔法薬を仕入れるための助っ人を出すだけだ」
「そんな、悪いです」
「商会にとっては珍しいことではないぞ。商品を卸してもらう工房には、店番をうちから差し向けている所が他にもあるからな」
そばにいるナレスも頷いている。
「遠慮せずに。うちはたくさんいる店番がひとりいなくても困らんが、デール殿の魔法薬が入ってこないのは大変に困る!困るどころか大損害だ」
今度はナレスもこくこくと高速で頷いた。
「ブラス様、スミルを出してはどうでしょう」
「スミルですか?」
今や親しい友の名を聞いて、セインの口元が緩み、すぐに一文字に引き締められる。
「ああ。スミルはいいな。ちょっと呼んできてくれ」
一瞬うれしいと思ったセインなのだが、こんな大店に勤めるスミルが森の店に来たら、出世が遅れてしまうのではないかと頭に浮かんだのだ。
「お呼びでしょうか」
開け放されたドアからひょこりとスミルが現れ、その目がセインに気づいて笑う。
「スミル、一級昇格させるのでデール殿の森の店に店番として入る気はないか?」
「え!セインの店にですか?」
「ああ。魔法薬作りに集中してもらいたいと思っ」
「行きますっ!」
スミルはセインの心配など吹き飛ばす勢いで、ブラスに答えた。
「いつからですか?今日?明日?明後日からですか?」
食いつきがすごいスミルに、ブラスもナレスも苦笑する。
「スミルいいのかい?」
「ああ勿論だ!森に行くたびに清々しい気持ちになって、ちょっと憧れてたんだ。仕事で行けるなんてさいこ」
「ゴホっ!」
スミルの言葉をナレスのわざとらしい咳が遮る。
「ではスミル、明日からセインの店に通うように」
「はいっ!承知いたしましたーっ!」
「デール殿。なんなら納品も、スミルが帰るときに渡してくれていいぞ」
ブラスの脳内で、納入されるセインの魔法薬が増えていく様子が浮かんでいる。
ふと疑問が湧いた。
「なあ、デール殿は弟子を取る気はないのかな?」
「で、弟子だなんて僕如きがとんでもないです」
「そんなことはなかろう?Bランクなら十分なはずだ。よければこちらで探すが」
「いやっ、あの、や、やっぱり無理です」
実力的には問題ないセインだが、もっと自信を持ったほうが良さそうだとブラスは一度引っ込めたが。
(魔法医薬師はなりたくてなれるものでもない。暫くデール殿を鍛えてやって、その間に魔力がある平民のこどもを探しておいてやろう)
セインはブラスの掌の中で転がされ始めていた。
最初は週一の予定だったが、商会の店頭に置くとすぐに売り切れてしまい、毎日とは言わない。せめて三日に一度は納品してほしいとブラスに頼み込まれ、悩んだ結果店を休み、新しくなったギルドへの納品も減らして商会に魔法薬を卸している。
「店を休ませているのは、本末転倒だな」
申し訳無さそうなブラスに、セインは穏やかに、少し弱々しく答えた。
「商会に卸す方が森で売っていたときよりよく売れますので。ただ、店番をしながらこの量を作ることは難しくて。
店を閉めてしまうとお困りの冒険者にお譲りできないのが心苦しいですが、冒険者のみなさんはギルドでも買えますから」
「そうか・・・そうだ!うちから誰か手伝いに出すのはどうだね?」
ブラウンの瞳が見開かれ、セインはブラスの言葉を理解しようとした。
「そんなに難しいことじゃない。うちから店番を出せば」
「で、でもうちは人を雇えるような」
「デール殿は雇わんでいいんだよ。うちが必要な魔法薬を仕入れるための助っ人を出すだけだ」
「そんな、悪いです」
「商会にとっては珍しいことではないぞ。商品を卸してもらう工房には、店番をうちから差し向けている所が他にもあるからな」
そばにいるナレスも頷いている。
「遠慮せずに。うちはたくさんいる店番がひとりいなくても困らんが、デール殿の魔法薬が入ってこないのは大変に困る!困るどころか大損害だ」
今度はナレスもこくこくと高速で頷いた。
「ブラス様、スミルを出してはどうでしょう」
「スミルですか?」
今や親しい友の名を聞いて、セインの口元が緩み、すぐに一文字に引き締められる。
「ああ。スミルはいいな。ちょっと呼んできてくれ」
一瞬うれしいと思ったセインなのだが、こんな大店に勤めるスミルが森の店に来たら、出世が遅れてしまうのではないかと頭に浮かんだのだ。
「お呼びでしょうか」
開け放されたドアからひょこりとスミルが現れ、その目がセインに気づいて笑う。
「スミル、一級昇格させるのでデール殿の森の店に店番として入る気はないか?」
「え!セインの店にですか?」
「ああ。魔法薬作りに集中してもらいたいと思っ」
「行きますっ!」
スミルはセインの心配など吹き飛ばす勢いで、ブラスに答えた。
「いつからですか?今日?明日?明後日からですか?」
食いつきがすごいスミルに、ブラスもナレスも苦笑する。
「スミルいいのかい?」
「ああ勿論だ!森に行くたびに清々しい気持ちになって、ちょっと憧れてたんだ。仕事で行けるなんてさいこ」
「ゴホっ!」
スミルの言葉をナレスのわざとらしい咳が遮る。
「ではスミル、明日からセインの店に通うように」
「はいっ!承知いたしましたーっ!」
「デール殿。なんなら納品も、スミルが帰るときに渡してくれていいぞ」
ブラスの脳内で、納入されるセインの魔法薬が増えていく様子が浮かんでいる。
ふと疑問が湧いた。
「なあ、デール殿は弟子を取る気はないのかな?」
「で、弟子だなんて僕如きがとんでもないです」
「そんなことはなかろう?Bランクなら十分なはずだ。よければこちらで探すが」
「いやっ、あの、や、やっぱり無理です」
実力的には問題ないセインだが、もっと自信を持ったほうが良さそうだとブラスは一度引っ込めたが。
(魔法医薬師はなりたくてなれるものでもない。暫くデール殿を鍛えてやって、その間に魔力がある平民のこどもを探しておいてやろう)
セインはブラスの掌の中で転がされ始めていた。
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