80 / 126
呪われたエザリア
訪れたロレンス・カイザール
しおりを挟む
メクリム国王リブルトロブスは、ムユーク王国の若き宰相ロレンス・カイザール本人の来訪を受け、グルドラ・ルストの引き渡しについて協議中である。
「ご存知のとおり、第一王子を魅了で惑わせ、王国を手中に収めようとした謀反人。・・・我が妹の仇でもあります。ムユーク王国の法に照らし合わせ、厳罰に処すことをお約束しますので、速やかにお引渡しください」
「勿論、いずれはそうするつもりだが、メクリムでも魔女のせいで行方知れずになった貴族子息がおる。まあ、王族と子爵家の息子ではどちらが重いかは言うまでもないのだが、調査に当たっている魔導師団がもう暫く時間が欲しいと言っているのだ」
「そう仰られて早くも一月。いつまで待てばよろしいのでしょうか?まさかグルドラ・ルストを逃したということは」
「いや。ムユーク王国と同じ轍は踏まぬ」
「ではせめて、グルドラ・ルストに面会を」
業を煮やし、ムユーク王国から魔導馬車を飛ばして、ロレンス・カイザールが訪れたのは一昨日のこと。
リブルトロブスは勿論グルドラをムユークに引き渡すつもりだが、魔導師団が調査中なのも本当のこと。
サリバーやリルケの魔法陣はすべて撤去したと思われるが、パルツカ家は調査中なのだ。
グルドラが直接かけた呪術はグルドラが処刑されれば解けるが、グルドラの魔法陣は違う。撤去しない限りそのまま残り、のちに不具合を発生する可能性もあった。
だというのにグルドラは一向に口を割らない。
仕方なく魔導師団の面々は、各地で人海戦術でグルドラの魔力を追跡し、地道に捜しては撤去をくり返している。
時間がかかり、気の遠くなる作業だった。
「顔を見たいんです」
ロレンスが懇願する。
他国の宰相がわざわざ訪れ、頭を下げられたら無碍にすることはできない。
(だが、この宰相の恨みは凄まじいと聞く。会わせて不測の事態が起きても困る。魔封じはしていても)
リブルトロブスは一旦中座し、チューグを呼びつけると。
「カイザール卿をあの魔女に会わせてもいいものだろうか」
「それがあちらの望みでしたか?」
「いや、本音は連れ帰りたい」
「もう暫く」
「そう言ったらせめて会わせろと」
大切な妹が命を落としたのだ。
その気持ちはチューグにも理解できるが、だからこそロレンス・カイザールをグルドラに近づけるのは危険だと第六感が強く触れていた。
「これは避けられない状況でしょうか」
「どうやらな」
「・・・・では暫しお時間を。万一に備え、警備を固めてまいりますので」
一青年の恨みとはいえ、相手が宰相ともなれば国と国との交渉事に変わる。
ムユーク王国の王族の怒りも背にしているのだ。
話を終えたチューグは地下牢へ向かった。
自ら結界を張るつもりで。
チューグは風魔法を使い、まったく足音を立てずに歩く。イグルスは自分たちと会うときまで忍んで来るチューグに気持ち悪いと言うが、長年の習慣で直しようもない。
そのまま階段を降りると、異変に気づいた。
牢番は階段下と牢の前にそれぞれいるのだが、階段下にいるはずの衛兵が倒れているのだ!
チューグが兵を飛び越えると、牢前の衛兵も倒れている。
風魔法で体を浮かばせ、グルドラの牢屋の前に体を送ると、衛兵を倒して気が緩んだグルドラが、手も足もぐるぐる巻だというのに必死で腰を動かし、固められた足先で宙に何かを表そうとしていた。
(魔法陣かっ!)
「拘束っ、・・麻痺っ」
チューグは即座により強力な拘束魔法をかけた上、足先すら動かせないようグルドラを麻痺させた。
拘束具に引き上げられて宙に浮かんだ体から、ぐんにゃりと力が抜ける。
「ほ、危ないところだった」
衛兵の首に手を当てると脈はある。
呼吸も規則正しく、睡眠魔法かもしれないと考え、頬を叩いてやると衛兵たちが目を覚ます。
「はっ!だ、団長っ!これは?」
「魔女に術をかけられたようだ。急ぎロンメルンとミヌークスを呼んできてくれ」
階段下にいた衛兵が駆け上がっていく。
エザリアの護衛についていたロンメルンはチューグ腹心の部下で、三人いる小隊長のひとりである。
ミヌークスは呪術を得意とする魔導師。闇属性の魔導を極め、より高度な呪術にアレンジする実力派。実力的にはチューグと同じように魔導師団長となってもおかしくないのだが、ひとの上に立つ性格とは言えず、魔導師団の遊軍的な存在だ。
足音が聞こえ、衛兵とロンメルンたちが階段を降りてきた。
「呼んだか?」
面倒臭そうな顔で名を呼ぶミヌークスに、チューグが肩を竦める。
「ミヌークス、困ったことになった!」
「ご存知のとおり、第一王子を魅了で惑わせ、王国を手中に収めようとした謀反人。・・・我が妹の仇でもあります。ムユーク王国の法に照らし合わせ、厳罰に処すことをお約束しますので、速やかにお引渡しください」
「勿論、いずれはそうするつもりだが、メクリムでも魔女のせいで行方知れずになった貴族子息がおる。まあ、王族と子爵家の息子ではどちらが重いかは言うまでもないのだが、調査に当たっている魔導師団がもう暫く時間が欲しいと言っているのだ」
「そう仰られて早くも一月。いつまで待てばよろしいのでしょうか?まさかグルドラ・ルストを逃したということは」
「いや。ムユーク王国と同じ轍は踏まぬ」
「ではせめて、グルドラ・ルストに面会を」
業を煮やし、ムユーク王国から魔導馬車を飛ばして、ロレンス・カイザールが訪れたのは一昨日のこと。
リブルトロブスは勿論グルドラをムユークに引き渡すつもりだが、魔導師団が調査中なのも本当のこと。
サリバーやリルケの魔法陣はすべて撤去したと思われるが、パルツカ家は調査中なのだ。
グルドラが直接かけた呪術はグルドラが処刑されれば解けるが、グルドラの魔法陣は違う。撤去しない限りそのまま残り、のちに不具合を発生する可能性もあった。
だというのにグルドラは一向に口を割らない。
仕方なく魔導師団の面々は、各地で人海戦術でグルドラの魔力を追跡し、地道に捜しては撤去をくり返している。
時間がかかり、気の遠くなる作業だった。
「顔を見たいんです」
ロレンスが懇願する。
他国の宰相がわざわざ訪れ、頭を下げられたら無碍にすることはできない。
(だが、この宰相の恨みは凄まじいと聞く。会わせて不測の事態が起きても困る。魔封じはしていても)
リブルトロブスは一旦中座し、チューグを呼びつけると。
「カイザール卿をあの魔女に会わせてもいいものだろうか」
「それがあちらの望みでしたか?」
「いや、本音は連れ帰りたい」
「もう暫く」
「そう言ったらせめて会わせろと」
大切な妹が命を落としたのだ。
その気持ちはチューグにも理解できるが、だからこそロレンス・カイザールをグルドラに近づけるのは危険だと第六感が強く触れていた。
「これは避けられない状況でしょうか」
「どうやらな」
「・・・・では暫しお時間を。万一に備え、警備を固めてまいりますので」
一青年の恨みとはいえ、相手が宰相ともなれば国と国との交渉事に変わる。
ムユーク王国の王族の怒りも背にしているのだ。
話を終えたチューグは地下牢へ向かった。
自ら結界を張るつもりで。
チューグは風魔法を使い、まったく足音を立てずに歩く。イグルスは自分たちと会うときまで忍んで来るチューグに気持ち悪いと言うが、長年の習慣で直しようもない。
そのまま階段を降りると、異変に気づいた。
牢番は階段下と牢の前にそれぞれいるのだが、階段下にいるはずの衛兵が倒れているのだ!
チューグが兵を飛び越えると、牢前の衛兵も倒れている。
風魔法で体を浮かばせ、グルドラの牢屋の前に体を送ると、衛兵を倒して気が緩んだグルドラが、手も足もぐるぐる巻だというのに必死で腰を動かし、固められた足先で宙に何かを表そうとしていた。
(魔法陣かっ!)
「拘束っ、・・麻痺っ」
チューグは即座により強力な拘束魔法をかけた上、足先すら動かせないようグルドラを麻痺させた。
拘束具に引き上げられて宙に浮かんだ体から、ぐんにゃりと力が抜ける。
「ほ、危ないところだった」
衛兵の首に手を当てると脈はある。
呼吸も規則正しく、睡眠魔法かもしれないと考え、頬を叩いてやると衛兵たちが目を覚ます。
「はっ!だ、団長っ!これは?」
「魔女に術をかけられたようだ。急ぎロンメルンとミヌークスを呼んできてくれ」
階段下にいた衛兵が駆け上がっていく。
エザリアの護衛についていたロンメルンはチューグ腹心の部下で、三人いる小隊長のひとりである。
ミヌークスは呪術を得意とする魔導師。闇属性の魔導を極め、より高度な呪術にアレンジする実力派。実力的にはチューグと同じように魔導師団長となってもおかしくないのだが、ひとの上に立つ性格とは言えず、魔導師団の遊軍的な存在だ。
足音が聞こえ、衛兵とロンメルンたちが階段を降りてきた。
「呼んだか?」
面倒臭そうな顔で名を呼ぶミヌークスに、チューグが肩を竦める。
「ミヌークス、困ったことになった!」
10
お気に入りに追加
266
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」後妻はいつもそう言っていましたが……。
四季
恋愛
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」
父と結婚した後妻エルヴィリアはいつもそう言っていましたが……。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる