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呪われたエザリア

訪れたロレンス・カイザール

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 メクリム国王リブルトロブスは、ムユーク王国の若き宰相ロレンス・カイザール本人の来訪を受け、グルドラ・ルストの引き渡しについて協議中である。

「ご存知のとおり、第一王子を魅了で惑わせ、王国を手中に収めようとした謀反人。・・・我が妹の仇でもあります。ムユーク王国の法に照らし合わせ、厳罰に処すことをお約束しますので、速やかにお引渡しください」
「勿論、いずれはそうするつもりだが、メクリムでも魔女のせいで行方知れずになった貴族子息がおる。まあ、王族と子爵家の息子ではどちらが重いかは言うまでもないのだが、調査に当たっている魔導師団がもう暫く時間が欲しいと言っているのだ」
「そう仰られて早くも一月。いつまで待てばよろしいのでしょうか?まさかグルドラ・ルストを逃したということは」
「いや。ムユーク王国と同じ轍は踏まぬ」
「ではせめて、グルドラ・ルストに面会を」

 業を煮やし、ムユーク王国から魔導馬車を飛ばして、ロレンス・カイザールが訪れたのは一昨日のこと。
 リブルトロブスは勿論グルドラをムユークに引き渡すつもりだが、魔導師団が調査中なのも本当のこと。
サリバーやリルケの魔法陣はすべて撤去したと思われるが、パルツカ家は調査中なのだ。

 グルドラが直接かけた呪術はグルドラが処刑されれば解けるが、グルドラの魔法陣は違う。撤去しない限りそのまま残り、のちに不具合を発生する可能性もあった。

 だというのにグルドラは一向に口を割らない。

 仕方なく魔導師団の面々は、各地で人海戦術でグルドラの魔力を追跡し、地道に捜しては撤去をくり返している。
時間がかかり、気の遠くなる作業だった。

「顔を見たいんです」

 ロレンスが懇願する。
他国の宰相がわざわざ訪れ、頭を下げられたら無碍にすることはできない。

(だが、この宰相の恨みは凄まじいと聞く。会わせて不測の事態が起きても困る。魔封じはしていても)

 リブルトロブスは一旦中座し、チューグを呼びつけると。

「カイザール卿をあの魔女に会わせてもいいものだろうか」
「それがあちらの望みでしたか?」
「いや、本音は連れ帰りたい」
「もう暫く」
「そう言ったらせめて会わせろと」

 大切な妹が命を落としたのだ。
 その気持ちはチューグにも理解できるが、だからこそロレンス・カイザールをグルドラに近づけるのは危険だと第六感が強く触れていた。

「これは避けられない状況でしょうか」
「どうやらな」
「・・・・では暫しお時間を。万一に備え、警備を固めてまいりますので」

 一青年の恨みとはいえ、相手が宰相ともなれば国と国との交渉事に変わる。
ムユーク王国の王族の怒りも背にしているのだ。

 話を終えたチューグは地下牢へ向かった。
自ら結界を張るつもりで。

 チューグは風魔法を使い、まったく足音を立てずに歩く。イグルスは自分たちと会うときまで忍んで来るチューグに気持ち悪いと言うが、長年の習慣で直しようもない。

 そのまま階段を降りると、異変に気づいた。
牢番は階段下と牢の前にそれぞれいるのだが、階段下にいるはずの衛兵が倒れているのだ!
チューグが兵を飛び越えると、牢前の衛兵も倒れている。

 風魔法で体を浮かばせ、グルドラの牢屋の前に体を送ると、衛兵を倒して気が緩んだグルドラが、手も足もぐるぐる巻だというのに必死で腰を動かし、固められた足先で宙に何かを表そうとしていた。

(魔法陣かっ!)

拘束っハードバインド、・・麻痺っパラライズ

 チューグは即座により強力な拘束魔法をかけた上、足先すら動かせないようグルドラを麻痺させた。

 拘束具に引き上げられて宙に浮かんだ体から、ぐんにゃりと力が抜ける。


「ほ、危ないところだった」

 衛兵の首に手を当てると脈はある。
呼吸も規則正しく、睡眠魔法かもしれないと考え、頬を叩いてやると衛兵たちが目を覚ます。

「はっ!だ、団長っ!これは?」
「魔女に術をかけられたようだ。急ぎロンメルンとミヌークスを呼んできてくれ」

 階段下にいた衛兵が駆け上がっていく。

 エザリアの護衛についていたロンメルンはチューグ腹心の部下で、三人いる小隊長のひとりである。
 ミヌークスは呪術を得意とする魔導師。闇属性の魔導を極め、より高度な呪術にアレンジする実力派。実力的にはチューグと同じように魔導師団長となってもおかしくないのだが、ひとの上に立つ性格とは言えず、魔導師団の遊軍的な存在だ。

 足音が聞こえ、衛兵とロンメルンたちが階段を降りてきた。

「呼んだか?」

 面倒臭そうな顔で名を呼ぶミヌークスに、チューグが肩を竦める。

「ミヌークス、困ったことになった!」
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