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呪われたエザリア

父の愛

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 ブラス・サリバーが屋敷に戻ったのは、国王たちが神殿調査隊を組んでからさらに2日後のこと。

「今戻ったぞ、エザリアーっ!」

 ドドッと大きな足音を立て、エザリアの部屋目指して駆け込んでいく。

 ドンッとドアを開けて見回すと、窓際のクッションに白猫が座っていた。

 ブラスは水色の瞳を見て、それがエザリアだと理解すると膝から崩れ落ちる。

「エ、エザリアなのか?」
「にゃあ」

 ぽとっと音を立てて尻尾を振る猫。

「なんてことだ!あああ私のせいですまなかった!かわいそうに、何故まだその姿なんだ?神官は?」

 混乱したように、次から次から思いつくことを口走る。

「ブラス様」
「ゼレード!これは一体どういうことだ?何故エザリアはまだ猫のままなんだ?」

(お父様、猫でもちゃんと私がおわかりになるのね)

 シュマーとの再婚で低くなったブラスへの信頼度だが、即座にエザリアだと受け入れた父に胸があたたかくなる。
 白猫はブラスのそばに寄ると、その足に体を擦り付けた。

「エザリア、ああ、私のエジー」
「にゃにゃあ」

 抱き上げられ、父の匂いに包まれたエザリアは、甘えてパパと言いたかったが、勿論そんなふうには喋れないのだった。

「ブラス様、よろしいでしょうか」
 
 ゼレードが呼び止めると、ブラスは服に白い毛がつくことも厭わず、エザリアを膝に乗せたままソファに座り、その続きを聞こうと身構える。

「実は王都の神殿には打診をしたのですが、この呪いを解呪する力のある者がいないと断られました」
「では何処にいるんだ?」
「はあ、辺境の大神殿にならと」
「それなら辺境から連れてくればいい!金はいくらかかっても構わんぞ」

 フンっと鼻息を荒く吐き出す。

「いえ、それが実は大神殿は今・・・の調査が入っているそうで」

 急に声を小さくしたゼレードだが、サリバー父娘にはちゃんと聞こえていた。

「それはどうしてだ?」
「私も詳細は知らないのですが、ブラス様が帰還なされたら、騎士団より事態の説明があると聞いております」
「そうか。では早速呼んでくれ」
「すぐでよろしいので?お疲れではありませんか?」
「私の疲れくらいなんだ!エザリアのほうが大切だ」


 猫でなければ、父の愛にエザリアは涙を零しただろう。


「それと此度エザリアを助け、守ってくれた方々に礼をせねばな。その辺のことも後で教えてもらいたい」

(セイン!お父様セインを呼んで!セインに会いたいの)

 一生懸命セインのことを伝えようとしたのだが、口からは「にゃあにゃあ」としか出てこない。

「はい、魔法医薬師セイン・デール様がエザリアお嬢様を見つけられて保護してくださいました。あとは騎士団と魔道士団より護衛がついたこと、それと商会のスミルですね」
「スミルが?」

「にゃっにゃーっ」

(そうなのよ、スミルもすごく頑張ったわ)

 文字盤をセインのところに置いてきてしまい、屋敷の使用人たちは文字盤を猫に与えることを思いつく者もいないせいで、何も伝えられないことがもどかしい。

(ああ、セインがいてくれたら、きっと文字盤も作ってくれたはずなのに)


 白猫はため息をついた。
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