66 / 126
呪われたエザリア
ロンメルンの試練
しおりを挟む
セインに連れられ、ロンメルン・ジーリーが隣りの部屋に行くと、ソファの上に置かれた座り心地の良さそうなクッションの上に、ふさふさの長毛白猫がふぁさっと尻尾で風を起こしている。
─これが噂の!─
ロンメルンはイーブィと同じ轍を踏まないため、事前にしっかりと調べてきた。
魔導師の自分でも信じがたいことだ、いや、魔導に携わるからこそ信じがたいことなのだ。
美しい猫の姿を目にしたイーブィは、それを聞いていたにも関わらず、有り得ないと笑ってしまった。
賢明だったシュメーンは、堪えてみせたから今まだここにいる。
シュメーン・イゾルは両親も魔導師で、感情を顔に出すのは弱味になると、徹底してポーカーフェイスを仕込まれていた。
友人に囲まれたときは普通に笑うが、白猫をエザリアと紹介されたとき、身についたポーカーフェイスが発動して、イーブィが陥ったピンチを掻い潜ることができたのだ。
「は、はじめましてサリバー男爵令嬢エザリア様」
猫に本気で挨拶をする自分が鏡に映っているのを見て、なんと滑稽なのかと溢れてしまいそうな笑いを噛み堪えたロンメルンは、尊大な態度でこくりと頷いた白猫が「ニャニャッ」と声を発し、自分を手招きしていることに気がついた。
隣りに立つセインも頷いている。
恐る恐るそばに寄ると、白猫が尻尾でロンメルンの手を撫でた。
と思うと、白猫はテーブルに飛び乗り、トントンと前足でテーブルを叩く。
視線をやったロンメルンは目を疑った。
『よろしく』
目玉を落としてしまうのではないかと思うほど、大きく目を見開いたロンメルンは、それでもなんとか平常心を保つ。
ふと、シュメーンが珍しくニコニコしながら拳を握ったり緩めたりして、どうやらロンメルンを応援しているらしい。
─そうか。おまえもこれを乗り越えたんだな─
魔導師たちは、視線で何かを共有した。
「挨拶も済んだことだし、ジーリーさんでいいですか?それとも小隊長とお呼びします?」
まるでふざけているようなセインに、苦笑したロンメルンは名を呼ぶように告げる。
シュメーンにも。
こんなところで第二小隊長が護衛についていると知られる方が都合が悪いのだ。
「では遠慮なく呼ばせて頂きます。ロンメルン、僕たちのこともセインとエザリアと呼んで下さい。みんなもエザリアをお嬢様とかご令嬢と呼ぶのは止めてくださいね」
そういえばジョルでさえエザリア嬢と呼んでいるが、それも外部に聞かれたら困ると気づく。
「じゃあ、まずはみんなでお茶にしましょう!」
セインは丸テーブルにカップを6つ出し、焼き菓子と茶を用意した。
カップに手を当てたセインが、氷魔法で茶を冷ましていることに気づいたロンメルンがガン見している。
じっと見られていることを知ったセインが「これはエザリアのです。冷まさないと飲めないから」と照れくさそうに言った。
─これが噂の!─
ロンメルンはイーブィと同じ轍を踏まないため、事前にしっかりと調べてきた。
魔導師の自分でも信じがたいことだ、いや、魔導に携わるからこそ信じがたいことなのだ。
美しい猫の姿を目にしたイーブィは、それを聞いていたにも関わらず、有り得ないと笑ってしまった。
賢明だったシュメーンは、堪えてみせたから今まだここにいる。
シュメーン・イゾルは両親も魔導師で、感情を顔に出すのは弱味になると、徹底してポーカーフェイスを仕込まれていた。
友人に囲まれたときは普通に笑うが、白猫をエザリアと紹介されたとき、身についたポーカーフェイスが発動して、イーブィが陥ったピンチを掻い潜ることができたのだ。
「は、はじめましてサリバー男爵令嬢エザリア様」
猫に本気で挨拶をする自分が鏡に映っているのを見て、なんと滑稽なのかと溢れてしまいそうな笑いを噛み堪えたロンメルンは、尊大な態度でこくりと頷いた白猫が「ニャニャッ」と声を発し、自分を手招きしていることに気がついた。
隣りに立つセインも頷いている。
恐る恐るそばに寄ると、白猫が尻尾でロンメルンの手を撫でた。
と思うと、白猫はテーブルに飛び乗り、トントンと前足でテーブルを叩く。
視線をやったロンメルンは目を疑った。
『よろしく』
目玉を落としてしまうのではないかと思うほど、大きく目を見開いたロンメルンは、それでもなんとか平常心を保つ。
ふと、シュメーンが珍しくニコニコしながら拳を握ったり緩めたりして、どうやらロンメルンを応援しているらしい。
─そうか。おまえもこれを乗り越えたんだな─
魔導師たちは、視線で何かを共有した。
「挨拶も済んだことだし、ジーリーさんでいいですか?それとも小隊長とお呼びします?」
まるでふざけているようなセインに、苦笑したロンメルンは名を呼ぶように告げる。
シュメーンにも。
こんなところで第二小隊長が護衛についていると知られる方が都合が悪いのだ。
「では遠慮なく呼ばせて頂きます。ロンメルン、僕たちのこともセインとエザリアと呼んで下さい。みんなもエザリアをお嬢様とかご令嬢と呼ぶのは止めてくださいね」
そういえばジョルでさえエザリア嬢と呼んでいるが、それも外部に聞かれたら困ると気づく。
「じゃあ、まずはみんなでお茶にしましょう!」
セインは丸テーブルにカップを6つ出し、焼き菓子と茶を用意した。
カップに手を当てたセインが、氷魔法で茶を冷ましていることに気づいたロンメルンがガン見している。
じっと見られていることを知ったセインが「これはエザリアのです。冷まさないと飲めないから」と照れくさそうに言った。
10
お気に入りに追加
266
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」後妻はいつもそう言っていましたが……。
四季
恋愛
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」
父と結婚した後妻エルヴィリアはいつもそう言っていましたが……。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる