上 下
35 / 126
呪われたエザリア

信じるぞ!

しおりを挟む
 王立騎士団はその名の通り、王家が国と王家を守るために作り上げたもので、何代にも渡り国王に忠誠を誓う騎士の集まりだ。
 その他に王族の護衛のためだけに存在する近衛隊がいるが、規模は王立騎士団のほうが遥かに大きい。
第一から第四まである騎士団を取り纏める、泣く子も黙る鬼団長がイグルス・ベイトリールなのだが。

 今イグルスは、騎士団でジョルから聞いた話を自分の理解しやすいように、せいぜい猫耳でも生えてきたのだろうと都合よく変換していたことに気がついた。

 だってそうではないか!
人が猫に変わるなどあるはずがないのだ!

だというのに、目の前でしっぽを振る猫はどうだ?これがサリバー家の令嬢だと?

「どこからどう見ても、寸分の隙もなく猫じゃないか!これが人だなんてありえんぞ!」

 その葛藤を既に経験済のジョルは、はいはいと言いながら文字盤を白猫に差し出した。

「ではよろしくお願い致します、ご令嬢」


 白猫はツンと上を向き、鷹揚に肯いてみせる。

『よろしくてよ』

 白い毛に包まれたちんまりした前足が文字盤を滑り、言葉を紡いでいく。

「ん?んむむむむ?ま、まさか」
「いや、だからそのまさかだとさっきから何度も言いましたよ。団長も何か聞いてみてください、気が済むまで」

 温い視線でジョルは鬼と呼ばれるイグルスに勧めた。

「で、では、エザリア・サリバー嬢の生年月日から教えてもらおう」
『それ じよるにも こたえた』

「それ、ジョルにも答えたと言ってます」

 イグルスも動体視力は良いのだが、想像以上に猫の動きが早く、読みきれなかったところをセインが補足する。

「エザリア、もう少しゆっくり動かしてあげたほうがいい」

 セインがそう言うと、白猫は「ニャ」と短く答えて小さく頷いた。

 ─信じがたい─

 イグルスはまだ混乱していたが、何とか平静を保とうと自分を叱咤する。

「そうだ!エザリア・サリバーだというならエディンヌ家の令嬢と付き合いがあるのではないかね?彼女の名を教えてくれ」

「るみい」

 さっきよりだいぶゆっくり、ぽふんぽふんと前足で文字を指し示す。

「ハッ、本当に?で、では、ルミイ・エディンヌの婚約者を知っているかね?」

『かいん ろふりす』

 カイン・ロフリスはイグルスの遠縁に当たり、ルミイ・エディンヌとの婚約に際し、イグルスがルミイの身上調査をしてやった。
 その時、ルミイの交友関係にエザリアがいたことを思い出したのだが、こんなことで役に立つとは。

「カインに会ったことは?」

『ある』

「カインの髪の色は?」

『くろ』

「瞳は」

『あお』


 思いつく様々な質問をぶつけていくイグルス。答える白猫のそれは事前の仕込みなどではなく、明らかに今思い出し、考えながら答えているものだ。

「嘘だろう・・・?本当に?本当に呪いで猫に、こんなにも完璧に猫にされたというのか?」

 呆然とするイグルスに、静かにジョルが訊ねた。

「やっと信じる気になりましたか?」
「ああ。エザリア嬢、いろいろ失礼な質問をしてすまなかった」

『ええ』

 猫は前足で文字盤を指すと、わかっているというようにゆっくり大きく頷いた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。

藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。 集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。 器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。 転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。 〜main cast〜 ・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26 ・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26 ・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26 ・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26 ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。

元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)

モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。 そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!? 「わん!」(なんでよ!) (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...