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呪われたエザリア

信じるぞ!

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 王立騎士団はその名の通り、王家が国と王家を守るために作り上げたもので、何代にも渡り国王に忠誠を誓う騎士の集まりだ。
 その他に王族の護衛のためだけに存在する近衛隊がいるが、規模は王立騎士団のほうが遥かに大きい。
第一から第四まである騎士団を取り纏める、泣く子も黙る鬼団長がイグルス・ベイトリールなのだが。

 今イグルスは、騎士団でジョルから聞いた話を自分の理解しやすいように、せいぜい猫耳でも生えてきたのだろうと都合よく変換していたことに気がついた。

 だってそうではないか!
人が猫に変わるなどあるはずがないのだ!

だというのに、目の前でしっぽを振る猫はどうだ?これがサリバー家の令嬢だと?

「どこからどう見ても、寸分の隙もなく猫じゃないか!これが人だなんてありえんぞ!」

 その葛藤を既に経験済のジョルは、はいはいと言いながら文字盤を白猫に差し出した。

「ではよろしくお願い致します、ご令嬢」


 白猫はツンと上を向き、鷹揚に肯いてみせる。

『よろしくてよ』

 白い毛に包まれたちんまりした前足が文字盤を滑り、言葉を紡いでいく。

「ん?んむむむむ?ま、まさか」
「いや、だからそのまさかだとさっきから何度も言いましたよ。団長も何か聞いてみてください、気が済むまで」

 温い視線でジョルは鬼と呼ばれるイグルスに勧めた。

「で、では、エザリア・サリバー嬢の生年月日から教えてもらおう」
『それ じよるにも こたえた』

「それ、ジョルにも答えたと言ってます」

 イグルスも動体視力は良いのだが、想像以上に猫の動きが早く、読みきれなかったところをセインが補足する。

「エザリア、もう少しゆっくり動かしてあげたほうがいい」

 セインがそう言うと、白猫は「ニャ」と短く答えて小さく頷いた。

 ─信じがたい─

 イグルスはまだ混乱していたが、何とか平静を保とうと自分を叱咤する。

「そうだ!エザリア・サリバーだというならエディンヌ家の令嬢と付き合いがあるのではないかね?彼女の名を教えてくれ」

「るみい」

 さっきよりだいぶゆっくり、ぽふんぽふんと前足で文字を指し示す。

「ハッ、本当に?で、では、ルミイ・エディンヌの婚約者を知っているかね?」

『かいん ろふりす』

 カイン・ロフリスはイグルスの遠縁に当たり、ルミイ・エディンヌとの婚約に際し、イグルスがルミイの身上調査をしてやった。
 その時、ルミイの交友関係にエザリアがいたことを思い出したのだが、こんなことで役に立つとは。

「カインに会ったことは?」

『ある』

「カインの髪の色は?」

『くろ』

「瞳は」

『あお』


 思いつく様々な質問をぶつけていくイグルス。答える白猫のそれは事前の仕込みなどではなく、明らかに今思い出し、考えながら答えているものだ。

「嘘だろう・・・?本当に?本当に呪いで猫に、こんなにも完璧に猫にされたというのか?」

 呆然とするイグルスに、静かにジョルが訊ねた。

「やっと信じる気になりましたか?」
「ああ。エザリア嬢、いろいろ失礼な質問をしてすまなかった」

『ええ』

 猫は前足で文字盤を指すと、わかっているというようにゆっくり大きく頷いた。
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